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番外編
ドッキリ✦side蓮✦2
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いよいよドッキリが始まる。もう胸が痛くて泣きそうだった。やりたくない……。
外で食事をしようと俺が誘ったお店の個室に、秋さんが一人で入ったのをモニター越しにスタッフと確認した。
「じゃ、行きますか」
仕掛け人として参加する加藤真司さんが、さわやかな笑顔で俺の肩を押した。
加藤さんとは昨年ドラマで共演した。
久しぶりに会って、ああ、秋さんと雰囲気が似てるな、と思う。
優しそうな笑顔が秋さんに似ていて、俺が心変わりをしたと勘違いしてしまうピッタリな相手だなと心が重くなった。せめて全然違うタイプならよかったのに……。
「よろしく……お願いします」
「うん、よろしく。……ってちょっと、蓮くん、顔青いけど大丈夫?」
「……大丈夫です。気持ちの問題なので」
「……ああ、ちょっと気が重くなるドッキリだよね。親友が別の人と親友になったなんて言われたら俺もショックだなぁ……」
ただの『親友』ですらそうなのに……俺と秋さんは違うから……。秋さんがどれだけショックを受けるか、想像しただけで泣きたくなる。
「秋さん、遅くなってごめんね」
俺が個室の中に入ってドッキリがスタートした。
「蓮、お疲れ」
ふわっと微笑む秋さんの顔が、俺の後ろにいる加藤さんに気づき、一瞬で仮面の秋さんになった。
「初めまして、加藤真司です」
「あ、初めまして、久遠秋人です」
「……秋さんごめんね、急に一緒にってことになって、伝える時間なくて」
「うんいいよ。仕事で一緒だったのか?」
先輩に押し切られて断れなかったのかなと思ったようで、秋さんは穏やかだった。
「いえ、プライベートで会ってたんです。な、蓮」
加藤さんが意味深に切り込んでくる。
「あ、うん。そうなんだ……よね」
ドッキリはほぼアドリブだから役に入り込むこともできない。なにを言えばいいのか分からない。
秋さんは、へぇそうなんですね、と言いながらメニュー表を加藤さんに渡した。
注文を終えて、料理がそろうまで三人でそれぞれの仕事の話を軽くした。
飲み物と料理が並び、ドッキリ本格スタート。
胃がキリキリと痛んだ。
「蓮とは、昨年共演した縁でずっと仲良くしていてね」
「あ、ドラマ観せていただきました。加藤さんは蓮のお兄さん役でしたよね」
「うんそうなんだ。すごく仲良しで本物の兄弟みたいだって言われてたよ」
加藤さんが話を盛る。仲は良かったけどそんなことは言われていない。
「二人のニコイチ宣言さ。あれ聞いて、俺ちょっと面白くなくてね」
「……え?」
「俺の方が絶対しょっちゅう蓮と会ってて、連絡も取ってるのにさぁ」
秋さんの顔からだんだんと笑顔が消えていく。
「……あの、なにが言いたいんですか?」
「久遠くんにハッキリ宣言しようと思ってさ。蓮のニコイチは、今日からは俺だから」
秋さんの顔が見るまに強ばって視線が泳ぐ。
「ニコイチ宣言も、本当にやり直したいよ。まぁ、君のプライドもあるだろうからやらないけどさ」
凍りついたように秋さんの表情が固まった。
もういい、もう充分だ。秋さん、俺を見て。合図を送るから、俺を見てっ。
「加藤さんが……ニコイチ……」
秋さんがボソッっとつぶやいた。
「……蓮……」
「あの、秋さんっ」
「……加藤さんが何を言うのか……蓮は知ってて連れてきた?」
「…………っ」
「蓮は……知らなかったんだよな? 知らずに……一緒に来たんだよな?」
秋さんは遠回しに「加藤さんが勝手に言ってるだけだろ?」と聞いているんだ。
勝手に言っているならそれは『親友』という意味のニコイチだ。
知らなかったと言いたい。
もし知っていたと言えば『恋人』という意味のニコイチになる。俺が新しい恋人として、加藤さんを連れてきたことになる。
合図を送る前に核心をつく質問をされてしまった……。
「秋さん、ちょっとこっち見て?」
「……いいから早く……答えて……蓮……」
秋さんお願いだから俺を見て。合図を送るから俺を見てっ。
秋さんと視線が合うのを待っていると、耳に装着したイヤフォンから「知ってたよって早く答えて」とスタッフから指示が飛んできた。
俺は深い息をついて、膝の上でぎゅっと拳を握った。
「……し、知ってた……よ……」
そう答えるしかなかった。
秋さんの顔が一瞬で青ざめて、グラスを握る手が震えだしたのが見えた。
「……そ……か。……知って……たんだ……」
秋さんの顔がどんどん下がっていって、俺を見るどころか完全に視界から排除された。
「あ、秋さん、ちょっと俺を見て?」
お願い秋さん気づいて。俺たちは一緒に住んでる。毎日一緒にいる。だから加藤さんの言ってることは矛盾してるって気づいてっ。
「蓮、何してんの。蓮も早くハッキリ言えよ、今日からニコイチは俺だって」
加藤さんは徹底的にいやな役を演じきっている。
仕事だから当たり前だ……。
「……言わなくて……いい。……知ってて一緒に来た……それが答えだろ……」
震える声で秋さんは言った。
秋さん俺を信じて、疑わないで、お願い……っ。
「あ、秋さん、お願いだからちょっとこっち見て?」
もうさっきから俺は、同じことしか言えてない。
秋さんに合図を送れない。もうどうしたらいいのか分からない。
秋さんは完全に誤解してしまった。
加藤さんの言うニコイチが親友じゃなく恋人だと、完全に誤解した。
「俺を見てっ、秋さんっ」
「……顔見て……はっきり言いたいからか……?」
「ち、ちが……」
違うと言いたいのに、言えない。
これは仕事だ。今はドッキリという仕事で演技中だ。違うと言っていい場面じゃなかった。
「ちゃんと話したいからっ」
「……同じ……ことだろ……」
外で食事をしようと俺が誘ったお店の個室に、秋さんが一人で入ったのをモニター越しにスタッフと確認した。
「じゃ、行きますか」
仕掛け人として参加する加藤真司さんが、さわやかな笑顔で俺の肩を押した。
加藤さんとは昨年ドラマで共演した。
久しぶりに会って、ああ、秋さんと雰囲気が似てるな、と思う。
優しそうな笑顔が秋さんに似ていて、俺が心変わりをしたと勘違いしてしまうピッタリな相手だなと心が重くなった。せめて全然違うタイプならよかったのに……。
「よろしく……お願いします」
「うん、よろしく。……ってちょっと、蓮くん、顔青いけど大丈夫?」
「……大丈夫です。気持ちの問題なので」
「……ああ、ちょっと気が重くなるドッキリだよね。親友が別の人と親友になったなんて言われたら俺もショックだなぁ……」
ただの『親友』ですらそうなのに……俺と秋さんは違うから……。秋さんがどれだけショックを受けるか、想像しただけで泣きたくなる。
「秋さん、遅くなってごめんね」
俺が個室の中に入ってドッキリがスタートした。
「蓮、お疲れ」
ふわっと微笑む秋さんの顔が、俺の後ろにいる加藤さんに気づき、一瞬で仮面の秋さんになった。
「初めまして、加藤真司です」
「あ、初めまして、久遠秋人です」
「……秋さんごめんね、急に一緒にってことになって、伝える時間なくて」
「うんいいよ。仕事で一緒だったのか?」
先輩に押し切られて断れなかったのかなと思ったようで、秋さんは穏やかだった。
「いえ、プライベートで会ってたんです。な、蓮」
加藤さんが意味深に切り込んでくる。
「あ、うん。そうなんだ……よね」
ドッキリはほぼアドリブだから役に入り込むこともできない。なにを言えばいいのか分からない。
秋さんは、へぇそうなんですね、と言いながらメニュー表を加藤さんに渡した。
注文を終えて、料理がそろうまで三人でそれぞれの仕事の話を軽くした。
飲み物と料理が並び、ドッキリ本格スタート。
胃がキリキリと痛んだ。
「蓮とは、昨年共演した縁でずっと仲良くしていてね」
「あ、ドラマ観せていただきました。加藤さんは蓮のお兄さん役でしたよね」
「うんそうなんだ。すごく仲良しで本物の兄弟みたいだって言われてたよ」
加藤さんが話を盛る。仲は良かったけどそんなことは言われていない。
「二人のニコイチ宣言さ。あれ聞いて、俺ちょっと面白くなくてね」
「……え?」
「俺の方が絶対しょっちゅう蓮と会ってて、連絡も取ってるのにさぁ」
秋さんの顔からだんだんと笑顔が消えていく。
「……あの、なにが言いたいんですか?」
「久遠くんにハッキリ宣言しようと思ってさ。蓮のニコイチは、今日からは俺だから」
秋さんの顔が見るまに強ばって視線が泳ぐ。
「ニコイチ宣言も、本当にやり直したいよ。まぁ、君のプライドもあるだろうからやらないけどさ」
凍りついたように秋さんの表情が固まった。
もういい、もう充分だ。秋さん、俺を見て。合図を送るから、俺を見てっ。
「加藤さんが……ニコイチ……」
秋さんがボソッっとつぶやいた。
「……蓮……」
「あの、秋さんっ」
「……加藤さんが何を言うのか……蓮は知ってて連れてきた?」
「…………っ」
「蓮は……知らなかったんだよな? 知らずに……一緒に来たんだよな?」
秋さんは遠回しに「加藤さんが勝手に言ってるだけだろ?」と聞いているんだ。
勝手に言っているならそれは『親友』という意味のニコイチだ。
知らなかったと言いたい。
もし知っていたと言えば『恋人』という意味のニコイチになる。俺が新しい恋人として、加藤さんを連れてきたことになる。
合図を送る前に核心をつく質問をされてしまった……。
「秋さん、ちょっとこっち見て?」
「……いいから早く……答えて……蓮……」
秋さんお願いだから俺を見て。合図を送るから俺を見てっ。
秋さんと視線が合うのを待っていると、耳に装着したイヤフォンから「知ってたよって早く答えて」とスタッフから指示が飛んできた。
俺は深い息をついて、膝の上でぎゅっと拳を握った。
「……し、知ってた……よ……」
そう答えるしかなかった。
秋さんの顔が一瞬で青ざめて、グラスを握る手が震えだしたのが見えた。
「……そ……か。……知って……たんだ……」
秋さんの顔がどんどん下がっていって、俺を見るどころか完全に視界から排除された。
「あ、秋さん、ちょっと俺を見て?」
お願い秋さん気づいて。俺たちは一緒に住んでる。毎日一緒にいる。だから加藤さんの言ってることは矛盾してるって気づいてっ。
「蓮、何してんの。蓮も早くハッキリ言えよ、今日からニコイチは俺だって」
加藤さんは徹底的にいやな役を演じきっている。
仕事だから当たり前だ……。
「……言わなくて……いい。……知ってて一緒に来た……それが答えだろ……」
震える声で秋さんは言った。
秋さん俺を信じて、疑わないで、お願い……っ。
「あ、秋さん、お願いだからちょっとこっち見て?」
もうさっきから俺は、同じことしか言えてない。
秋さんに合図を送れない。もうどうしたらいいのか分からない。
秋さんは完全に誤解してしまった。
加藤さんの言うニコイチが親友じゃなく恋人だと、完全に誤解した。
「俺を見てっ、秋さんっ」
「……顔見て……はっきり言いたいからか……?」
「ち、ちが……」
違うと言いたいのに、言えない。
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