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恋人の距離✦side秋人✦6
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撮影本番。
校舎前。下校中に、あいつがゲイだと目の前でうわさをされるシーン。
うわさをする生徒役二人と、四、五メートルほど離れた位置で一人でスタンバイ。
監督のスタートの声が響いた。
「ほら、あいつだよ、ゲイだってうわさの……」
顔も知らない人が二人、コソコソしてる風で、まるで聞こえよがしに話している。
もう毎日こうでイヤになる。
「相手は誰?」
「あいつと同じクラスのさ――――」
俺は二人に近づいて声を上げた。
「やめろよっ! あいつはゲイじゃないっ!」
何度否定して回れば、うわさは消えるんだろう。
俺はいい。でもあいつだけは守らなきゃ。
「ゲイは俺だけだよっ。なんにも知らないくせにっ。勝手なうわさ流してあいつの人生めちゃくちゃにするなよっ!」
「へー。お前はゲイって認めるんだ」
「…………認めるよ。でもあいつは違うからっ!」
「お前も違うだろ」
後ろから聞こえてきた、大好きな人の声。
ふわっと優しく肩を組まれた。
どうして……。
「お前、そうやって俺のうわさだけ火消しして回ってるんだって?」
「……なんのこと。っていうか離してよっ」
いくら身体を押し返しても離れてくれない。
どうしてっ。やっと少しお前のうわさが減ってきてたのに……っ。
「お前らよく聞けよ。俺もこいつも男なんか好きじゃねぇ。お前らになんかこれっぽっちも興味ねぇから安心しろよ。俺はただこいつが好きなだけだ。男とか女とか関係ねぇんだよ」
ぶわっと感情が高ぶって、鼻の奥がツンとする。
「おいおい、それをゲイっていうんじゃねぇのかよ」
こいつバカじゃね? と二人が笑う。
「そう思うならそれでいい。んで? お前らになんか迷惑かけてんのか? お前らみたいな差別するやつらの方が痛い目見る世の中になってきてんだよ。知らねぇのか? バカだな」
「なぁ……もういいって。やめようよっ。みんな見てるからっ」
腕を引っ張って止めたが、やめる気配はない。
「おい! お前らも聞けよ!」
周りで何事かと見ている人達に向かって、大好きな人は声を張った。
「俺はこいつと付き合ってる! 悪く言いたい奴は勝手に言え! でもな! 悪く言うヤツが周りから白い目で見られる日が近いうちに絶対くるからなっ!」
言い切って、ふぅ、と息をつくと、俺に向かってふわっと優しく笑いかけた。
「行くぞ」
「……あ…………」
俺の手を握って引っ張るように先を歩く、大好きな人。
久しぶりのその手のぬくもりに、切なくて泣きたくなった。
周りに人が減ってきてから、俺は口を開いた。
「……ど……して? やっと……お前のうわさ……減ってきてたのに」
「……誰が頼んだんだよ」
「だって……ゲイなんて広められたら、お前の人生がめちゃくちゃに……」
「そんなの言ったら、お前だってそうだろ」
「俺は……たぶん、ゲイだと思う……から」
「……どうしてそう思う? 俺以外の男を好きにでもなった?」
「ち、違う!」
「じゃあなんでだ?」
「俺は……お前しか好きになったことないから。女の子を好きになったこと、ないから」
気がつけば体育館の裏まで来ていた。
誰もいない静かな場所。
大好きな人と二人きり。
「俺だってお前だけだ。お前しか好きになった事ねぇよ」
「……なんで……そんな嘘つくの? 俺、お前に彼女いたの知ってるのにっ」
「…………俺……お前のこと、ずっと可愛いと思ってた。でもそんなのおかしいよなって思って、女から告白されたら付き合ってみたりした。でも、やっぱり俺が可愛いと思うのはお前だけだったよ。……だから俺もお前しか好きになったこと、ねぇんだ」
足を止めると、ふり返って腕を引かれぎゅっと腕の中に閉じ込められた。
久しぶりの大好きな人の腕の中。
ドキドキし過ぎて胸が痛い。泣きたくなるくらい嬉しくて、胸がはりさけそうだった。
校舎前。下校中に、あいつがゲイだと目の前でうわさをされるシーン。
うわさをする生徒役二人と、四、五メートルほど離れた位置で一人でスタンバイ。
監督のスタートの声が響いた。
「ほら、あいつだよ、ゲイだってうわさの……」
顔も知らない人が二人、コソコソしてる風で、まるで聞こえよがしに話している。
もう毎日こうでイヤになる。
「相手は誰?」
「あいつと同じクラスのさ――――」
俺は二人に近づいて声を上げた。
「やめろよっ! あいつはゲイじゃないっ!」
何度否定して回れば、うわさは消えるんだろう。
俺はいい。でもあいつだけは守らなきゃ。
「ゲイは俺だけだよっ。なんにも知らないくせにっ。勝手なうわさ流してあいつの人生めちゃくちゃにするなよっ!」
「へー。お前はゲイって認めるんだ」
「…………認めるよ。でもあいつは違うからっ!」
「お前も違うだろ」
後ろから聞こえてきた、大好きな人の声。
ふわっと優しく肩を組まれた。
どうして……。
「お前、そうやって俺のうわさだけ火消しして回ってるんだって?」
「……なんのこと。っていうか離してよっ」
いくら身体を押し返しても離れてくれない。
どうしてっ。やっと少しお前のうわさが減ってきてたのに……っ。
「お前らよく聞けよ。俺もこいつも男なんか好きじゃねぇ。お前らになんかこれっぽっちも興味ねぇから安心しろよ。俺はただこいつが好きなだけだ。男とか女とか関係ねぇんだよ」
ぶわっと感情が高ぶって、鼻の奥がツンとする。
「おいおい、それをゲイっていうんじゃねぇのかよ」
こいつバカじゃね? と二人が笑う。
「そう思うならそれでいい。んで? お前らになんか迷惑かけてんのか? お前らみたいな差別するやつらの方が痛い目見る世の中になってきてんだよ。知らねぇのか? バカだな」
「なぁ……もういいって。やめようよっ。みんな見てるからっ」
腕を引っ張って止めたが、やめる気配はない。
「おい! お前らも聞けよ!」
周りで何事かと見ている人達に向かって、大好きな人は声を張った。
「俺はこいつと付き合ってる! 悪く言いたい奴は勝手に言え! でもな! 悪く言うヤツが周りから白い目で見られる日が近いうちに絶対くるからなっ!」
言い切って、ふぅ、と息をつくと、俺に向かってふわっと優しく笑いかけた。
「行くぞ」
「……あ…………」
俺の手を握って引っ張るように先を歩く、大好きな人。
久しぶりのその手のぬくもりに、切なくて泣きたくなった。
周りに人が減ってきてから、俺は口を開いた。
「……ど……して? やっと……お前のうわさ……減ってきてたのに」
「……誰が頼んだんだよ」
「だって……ゲイなんて広められたら、お前の人生がめちゃくちゃに……」
「そんなの言ったら、お前だってそうだろ」
「俺は……たぶん、ゲイだと思う……から」
「……どうしてそう思う? 俺以外の男を好きにでもなった?」
「ち、違う!」
「じゃあなんでだ?」
「俺は……お前しか好きになったことないから。女の子を好きになったこと、ないから」
気がつけば体育館の裏まで来ていた。
誰もいない静かな場所。
大好きな人と二人きり。
「俺だってお前だけだ。お前しか好きになった事ねぇよ」
「……なんで……そんな嘘つくの? 俺、お前に彼女いたの知ってるのにっ」
「…………俺……お前のこと、ずっと可愛いと思ってた。でもそんなのおかしいよなって思って、女から告白されたら付き合ってみたりした。でも、やっぱり俺が可愛いと思うのはお前だけだったよ。……だから俺もお前しか好きになったこと、ねぇんだ」
足を止めると、ふり返って腕を引かれぎゅっと腕の中に閉じ込められた。
久しぶりの大好きな人の腕の中。
ドキドキし過ぎて胸が痛い。泣きたくなるくらい嬉しくて、胸がはりさけそうだった。
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