ふれていたい、永遠に

たっこ

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離れていかないで✦side蓮✦1

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 秋さんの様子がおかしい。
 あんなに連日ベッタリだったのが、最近はなにもしてこない。ぴったりくっついて座ることすら無い。
 秋さんが変わると、撮影以外では本当に全く接触がなくなって、俺はずっと受け身だったんだと痛感した。
 今までは自然と、隣の秋さんといつもどこかにふれ合っていた。俺が動かなくても、それがもう当たり前になっていた。
 秋さんが変わってしまうと、こんなに距離が開くのかとまず驚いた。そして、なにかがおかしいと気がついたときにはもう手遅れで、何がなんだか分からなくて愕然とした。
 
「秋さん……あのさ」
「ん? どした?」

 ロケの合間に、用意されたテントの下で、差し入れのお菓子をつまむ秋さんの隣に座って声をかけた。
 俺が呼びかけると、秋さんはすごく綺麗な笑顔で返事を返してくる。
 最近の秋さんが変わったところは、もう一つがこの笑顔。
 俺の知っている笑顔ではない。
 どこか貼り付けたような仮面のような表情。
 いつもの秋さんはもっと自然で、思わずこぼれたような笑顔だった。

「秋さん、やっぱり何かあったよね……? 元気がないっていうか、なんか……変っていうか」
「んー? 別になんもねぇよ?」

 お菓子の箱にスッと視線をそらして、蓮も食う? と話をそらされた。
 はい、とクッキーの小袋を手渡してきたので、受け取りながら秋さんの手を握ってみる。
 すると秋さんがその手をきゅっとにぎり返してくれて、すごく嬉しくなったのに、手は一瞬で離れていった。

「美味いから食ってみ?」

 優しい瞳で微笑んでくれる。柔らかい優しい笑顔。いつもの秋さんだ、と思ったのもやっぱり一瞬で、また仮面のような表情になってしまった。
 たぶん、嫌われてはいないと思う。
 気がつけばいつものように隣にいてくれる。目が合えば笑いかけてくれる。
 今までどおりすごく優しいし、距離と表情以外はなにも変わらないから。
 でも、その二つがなくなるだけで何もかもが変わったと思うほど、秋さんが遠くなった。

 クッキーを食べようとしたとき、美月さんがやってきて手を止めた。
 
「蓮くん、ちょっといい?」
「はい」

 美月さんと、このあと入ってる取材の件で少し話す。

「そんな感じで大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「うん、じゃあそれでよろしくね」
「分かりました」

 美月さんが離れていって、俺は秋さんにもらった手元の小袋をちぎってクッキーを口に入れた。

「うん、美味しい」

 秋さんに笑いかけると、どこかつらそうな表情で俺を見ていて、目が合うとスッとそらす。

「秋さん、どうしたの……大丈夫?」
「……別に、なんでもない……。……ところでお前さ。なんでマネージャーとまた敬語に戻ってんの?」
「……っ、え?」

 そんなことを聞かれると思ってなくて、とっさに答えられず言葉に詰まる。
 確かに、敬語からタメ口になってまた敬語に戻るなんて変だよな、と動揺した。
 説明するわけにもいかないし、うまい嘘も思いつかなくて、何も言えずに黙り込んでしまった。

「……別にいいんだけどさ。ちょっと気になっただけ」
「あ、その。やっぱり敬語じゃないと俺、落ち着かなくて」
「……そうなんだ」
「うん」

 なにか変に思われたかな、と不安になった。

「あークッキー食べすぎたかも」

 苦笑いをこぼす秋さんにホッとして、テーブルの端に並べてあるお茶のペットボトルを手渡した。

「サンキュ。…………なんか疲れたな。俺ちょっとロケバスで休んでくるわ」

 そう言って秋さんが立ち上がった。

「あ、じゃあ…………」

 俺も一緒に、と言おうと思ったけど、秋さんが一人になりたいと全身で訴えているのが伝わってきて、言葉を飲み込んだ。

「うん、じゃあまたあとでね」
「うん」

 ロケバスに向かう秋さんの背中が、やっぱりどこかつらそうに見える。でも俺はただただ見つめることしかできない。
 秋さんに何もしてあげられない不甲斐ない自分が、嫌になった。


 
 
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