心が聞こえる二人の恋の物語

たっこ

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 田口が言いずらそうに「……あのさ」と口を開いた。

「……違ったらごめんなんだけど」
『本当に違ったらどうしよう……。でも……元気ないのって黒木のことじゃないかな。黒木が女子に呼び出されたあとからずっと元気ないし……。野間……黒木が好きだと思うんだよな……。いや、でもこんなこと突然聞いたって答えるわけないか……。俺も同じだよって言ってあげたいけど……』

 俺がついさっき気づいたばかりの気持ちをなんで田口が知ってんだ……。
 驚いて息をのんだ。
 
「あ……いや……やっぱなんでもないや。ごめん……」

 田口は言いかけた言葉を飲み込んで話を終わらせた。俺はホッと息をつく。
 でもふと、俺のこの気持ちを聞いてもらえる相手って、もしかして田口だけじゃないのかな……と気づいた。
 この気持ちを吐き出したい。このままじゃ帰れない。

「……田口……あのさ……」
「うん?」
「……もし……俺がさ。……男が好きだって言ったら、引く?」
「引かないっ」

 田口は力いっぱい即答した。
 田口も同じだってわかっていて話したはずなのに、否定されなかったことが嬉しい。

『やっぱり野間、そうだったんだ……。俺もいっぱい悩んだからそういうの話してあげたら少しは落ち着くかなぁ……。やっぱり言ってあげたい。俺も同じだよって』

 田口の心があったかい。また涙がにじんできて、俺はテッシュで拭き取った。

「……俺さ。黒木が……好きなんだ。好きって……さっき気づいたんだ……」
「あ、え、さっき? そっか……だから……。あ、大丈夫、俺絶対に誰にも言わないからっ」
「……うん。……ごめんな、急にこんなこと言い出して……」
「ううん。俺でよかったら話聞くよ。……あっ」
『だ、誰かに聞かれてないかな……っ』
 
 田口がまわりをキョロキョロ見まわした。

『ここ人通り少ないから大丈夫そう……よかった……』

 田口がホッと息をついたのを見て、そうか、とやっと実感した。
 男同士ってそういうことだ。わかっていたつもりで、ちゃんとわかってなかった。こんな話だって、どこでも簡単に話せないんだ。
 人通りとか俺なにも考えてなかった。

「野間、あのさ……」
『野間が安心して話せるように、俺のことちゃんと話そう』
「えっと……俺ね。……実は……木村が好きなんだよね」
「……うん」
「………………え? あれ? もしかして……気づいてた?」

 あ、やべ。思わず普通にうなずいちゃった。

「あ、いや……びっくりして……。そうなんだ……っていま脳内処理してた」
「脳内処理って……あはは、野間って面白いね」
『ああびっくりした……。俺ってそんなわかりやすいのかと思って焦っちゃった。バレたら木村に迷惑かけちゃうもん……』

 やばいやばい。最近黒木とばっかり一緒にいるから油断してた。気をつけないとな……。
 
「田口も……俺と同じなんだな」
「うん。同じだよ。だから大丈夫」

 優しく背中を撫でられて、また涙がにじんだ。
 気持ちが少しだけど落ち着いてきた。田口がそばにいてくれてよかった。

「今日黒木、女子に呼び出されてただろ? あのあと野間が元気なかったからちょっと心配だったんだ。……もしかして……黒木OKしちゃった、とか?」
「……いや。俺先に帰ってきちゃったから知らねぇんだ……」
「あー……そっかぁ……」
「あのさ……田口」
「うん?」
「田口は……木村に好きだって言ったのか?」

 俺が知らないはずの情報は先に質問する。思い出してきた。最近、黒木に慣れてしまって忘れるところだった。
 
「あ……えっと……。うん言ったよ。実は二年に上がってすぐから俺たち……付き合ってるんだよね」
「……え、そっか。付き合ってんだ。……すげぇな、良かったな」
「……うん。俺も、まさか付き合えると思ってなかった」
 
 そっか……春にはもう付き合ってたのか。
 全然気づかなかった……。
 心が読めなかったら、二人は普通に仲良い友達にしか見えない。バレないようにすごい頑張ってるんだろう。
 それなのにいまこうして田口は、大事な秘密を俺に話してくれてる。俺のために話してくれてる。
 田口の優しさが心にしみて胸があったかい……。
 
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