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【#40】金色の究極体
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まるで顔見知りかというように城の門番に会釈をし、門を抜けると広がる吹き抜け。
ここはゲームの世界だ。門番NPCの場合、一度認識されれば、あなたは――などという会話は起こらず、すんなりと通されるだろう。
騎士見習いとなったことで入手した片手に収まるほどの青く光る石、『小型転移石』を用い、一瞬にして眼前の光景を変化させる。
「おお、戻ったか。 レット、グランよ」
アーサー王は見習い騎士が相手と言えど、長年共にいるであろう円卓の騎士と態度を変えない。
ランスロットが連れてきたからだろうか。
ああ、そのランスロットだが、何事もなかったかのように円卓の椅子に腰掛けている。
「お疲れ」
涼しい顔をして俺達を労っているようだが、その真意は不明だ。
あの時、剣を交えた時は、明らかに本気だった。
何を企んでいるのかは知らない。今後分かるかもしれないし、杞憂に終わるかもしれない。
「レット、グラン両二名は、依頼であるウナルケモノを討伐して参りました」
俺達の前に立ちはだかるのであれば、全力で抗うのみ。
だが、今やるべきは、円卓の騎士及びSランク冒険者を目指すことが最優先事項だ。
例え、問い詰めようものなら、心象が悪くなるだろう。
円卓の騎士が全員"敵"になる、なんてルートもありえるからな。
現在はNPCなので、レベルを視認することはできないが、恐らく、平均でも二~三千はあると推測する。
ランスロットの剣は、ぬらりひょんよりも重かった。それくらいしか判断材料はないが。
「二人共、よくやってくれたぞ! ウナルケモノは相当強かったはずだ。 ギルドに報告しておく、Aランクまでは上がるであろう」
「ありがとうございます」
「やったね!」
いきなりSランクとはいかないが、仕方がない。
まあ、そもそも、Sランク冒険者を目指す他ゲーがあったとすれば、こんなにも冒険者ランクは上がらないだろう。
あくまで、キャメロットのみの制度だろうから、とても上がりやすくなっているはずだ。
「続いて、パーシヴァル、ガウェインよ。 ついに見つけたのだな?」
「はい」
パーシヴァルは席を離れると、「ついに見つけた」というものを手に持ち戻ってくる。
その手にはワイングラスを二回りほど大きくしたような、金色の杯。
「それが聖杯か!」
「ええ、力を求めると杯に水が注がれ、それを飲み干すと絶大な力が手に入ると言われる聖杯で間違いないかと」
「よくぞやってくれた、悪意ある者の手に渡ってからでは遅いからな。 ランスロット、然るべき場所に保管しておいてくれ」
「はっ」
その時、聖杯がランスロットの手に渡るのを全力で阻止しておけば、あんな事態に陥ることはなかったのだろう。
しかし、阻止しようものなら、その瞬間、円卓の騎士全員がENPCとして認識される。
出会ってから日が浅すぎる俺達よりも、長い年月を共にしている仲間を信じるのは当然だ。
ここがルートの分岐点だとすれば、誤った選択をしてしまったのかもしれない。
パーシヴァルが聖杯を預け、ランスロットは一歩、また一歩と離れていく。
それは、例え斬りつけようとすれば、全ての動作を終わらせるには十分な距離。
「予定は早まってしまうが、それもいいだろう」
「我が名はランスロット。 聖杯よ、我に力を」
「「「「「「「「⁉︎」」」」」」」」
次の瞬間、その場に腰を下ろしていた者は腰を上げ、立っていた者は武器を構え、地面を蹴り襲い掛かる。
最初に切っ先が届かんとしたロングコートの男は、鞘から刀を引き抜き、空中で前屈みになり腰を落とす。
『抜刀』
「はあああああ‼︎」
一瞬にして抜かれたそれは、水色鎧の男を捉える。
が、杯に溜まった水は既に飲み干され、金色に染まり出した体に弾かれ、向けられた左手のひらに体ごと吹き飛ばされてしまう。
「なっ⁉︎」
ランスロットとの距離が開いていく中、視界に入るは七人の騎士。
金色に染まり切った体は、眩いほどの輝きを放たんとする。
「……まずい、目を閉じろ‼︎」
焦燥感に駆られるような声で警告するのは金鎧の騎士。
まるで、初見ではないような――だが、今は目を閉じるんだ。
閉じていたとしても、瞼から微かに差し込む光。
聴覚を頼りにすると聞こえてくるのは、鎧が地面と擦れる音、建物が崩壊していく音。
一体何が起こっているというんだ。
やがて、瞼から差し込んでいた光は途絶えた。
そろそろ目を開けてもいいタイミングだろう。
「……うっ、眩しい」
視界に飛び込んできたのは、半壊した天井と壁。
そして、このマップに広がっているであろう一面の草原。
しかし、それは最初に踏み締めていたものとは似ても似つかない。
ここは円卓がある部屋の外だが、果たして同じ空間といえるのだろうか。
地面には倒れ込む騎士が六人、頭上には体力バーが表示されているが、ゲージは既にゼロだ。
唯一佇む金鎧の騎士が見つめる先には空、いや、恐らく、ランスロットだったものが羽ばたいていた。
この場を戦場と化した元凶。
輝きを放ちながら、金色の体の背に八枚もの翼を羽ばたかせる人型の龍。
『"金色の究極体"ゼロ Lv.3700』
本来はこれよりも遥かにレベルは高いが、ランスロットに合わされているのだろう。
〇 え?
〇 は?
〇 何で?
〇 まじ?
〇 ゼロ⁇
〇 どういうことだ⁇
〇 え?無理じゃね?
〇 超越種って、マ?
〇 ランスロット……
〇 やばいじゃん!
〇 レットとグランがいても今の装備じゃ
〇 オワタ
ここはゲームの世界だ。門番NPCの場合、一度認識されれば、あなたは――などという会話は起こらず、すんなりと通されるだろう。
騎士見習いとなったことで入手した片手に収まるほどの青く光る石、『小型転移石』を用い、一瞬にして眼前の光景を変化させる。
「おお、戻ったか。 レット、グランよ」
アーサー王は見習い騎士が相手と言えど、長年共にいるであろう円卓の騎士と態度を変えない。
ランスロットが連れてきたからだろうか。
ああ、そのランスロットだが、何事もなかったかのように円卓の椅子に腰掛けている。
「お疲れ」
涼しい顔をして俺達を労っているようだが、その真意は不明だ。
あの時、剣を交えた時は、明らかに本気だった。
何を企んでいるのかは知らない。今後分かるかもしれないし、杞憂に終わるかもしれない。
「レット、グラン両二名は、依頼であるウナルケモノを討伐して参りました」
俺達の前に立ちはだかるのであれば、全力で抗うのみ。
だが、今やるべきは、円卓の騎士及びSランク冒険者を目指すことが最優先事項だ。
例え、問い詰めようものなら、心象が悪くなるだろう。
円卓の騎士が全員"敵"になる、なんてルートもありえるからな。
現在はNPCなので、レベルを視認することはできないが、恐らく、平均でも二~三千はあると推測する。
ランスロットの剣は、ぬらりひょんよりも重かった。それくらいしか判断材料はないが。
「二人共、よくやってくれたぞ! ウナルケモノは相当強かったはずだ。 ギルドに報告しておく、Aランクまでは上がるであろう」
「ありがとうございます」
「やったね!」
いきなりSランクとはいかないが、仕方がない。
まあ、そもそも、Sランク冒険者を目指す他ゲーがあったとすれば、こんなにも冒険者ランクは上がらないだろう。
あくまで、キャメロットのみの制度だろうから、とても上がりやすくなっているはずだ。
「続いて、パーシヴァル、ガウェインよ。 ついに見つけたのだな?」
「はい」
パーシヴァルは席を離れると、「ついに見つけた」というものを手に持ち戻ってくる。
その手にはワイングラスを二回りほど大きくしたような、金色の杯。
「それが聖杯か!」
「ええ、力を求めると杯に水が注がれ、それを飲み干すと絶大な力が手に入ると言われる聖杯で間違いないかと」
「よくぞやってくれた、悪意ある者の手に渡ってからでは遅いからな。 ランスロット、然るべき場所に保管しておいてくれ」
「はっ」
その時、聖杯がランスロットの手に渡るのを全力で阻止しておけば、あんな事態に陥ることはなかったのだろう。
しかし、阻止しようものなら、その瞬間、円卓の騎士全員がENPCとして認識される。
出会ってから日が浅すぎる俺達よりも、長い年月を共にしている仲間を信じるのは当然だ。
ここがルートの分岐点だとすれば、誤った選択をしてしまったのかもしれない。
パーシヴァルが聖杯を預け、ランスロットは一歩、また一歩と離れていく。
それは、例え斬りつけようとすれば、全ての動作を終わらせるには十分な距離。
「予定は早まってしまうが、それもいいだろう」
「我が名はランスロット。 聖杯よ、我に力を」
「「「「「「「「⁉︎」」」」」」」」
次の瞬間、その場に腰を下ろしていた者は腰を上げ、立っていた者は武器を構え、地面を蹴り襲い掛かる。
最初に切っ先が届かんとしたロングコートの男は、鞘から刀を引き抜き、空中で前屈みになり腰を落とす。
『抜刀』
「はあああああ‼︎」
一瞬にして抜かれたそれは、水色鎧の男を捉える。
が、杯に溜まった水は既に飲み干され、金色に染まり出した体に弾かれ、向けられた左手のひらに体ごと吹き飛ばされてしまう。
「なっ⁉︎」
ランスロットとの距離が開いていく中、視界に入るは七人の騎士。
金色に染まり切った体は、眩いほどの輝きを放たんとする。
「……まずい、目を閉じろ‼︎」
焦燥感に駆られるような声で警告するのは金鎧の騎士。
まるで、初見ではないような――だが、今は目を閉じるんだ。
閉じていたとしても、瞼から微かに差し込む光。
聴覚を頼りにすると聞こえてくるのは、鎧が地面と擦れる音、建物が崩壊していく音。
一体何が起こっているというんだ。
やがて、瞼から差し込んでいた光は途絶えた。
そろそろ目を開けてもいいタイミングだろう。
「……うっ、眩しい」
視界に飛び込んできたのは、半壊した天井と壁。
そして、このマップに広がっているであろう一面の草原。
しかし、それは最初に踏み締めていたものとは似ても似つかない。
ここは円卓がある部屋の外だが、果たして同じ空間といえるのだろうか。
地面には倒れ込む騎士が六人、頭上には体力バーが表示されているが、ゲージは既にゼロだ。
唯一佇む金鎧の騎士が見つめる先には空、いや、恐らく、ランスロットだったものが羽ばたいていた。
この場を戦場と化した元凶。
輝きを放ちながら、金色の体の背に八枚もの翼を羽ばたかせる人型の龍。
『"金色の究極体"ゼロ Lv.3700』
本来はこれよりも遥かにレベルは高いが、ランスロットに合わされているのだろう。
〇 え?
〇 は?
〇 何で?
〇 まじ?
〇 ゼロ⁇
〇 どういうことだ⁇
〇 え?無理じゃね?
〇 超越種って、マ?
〇 ランスロット……
〇 やばいじゃん!
〇 レットとグランがいても今の装備じゃ
〇 オワタ
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