IO-イオ-

ミズイロアシ

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第Ⅴ章 ロボットの意思

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「なんの動きもないな」

「ああ。不気味なまである」

 窓の外を眺めているエリオとダグラスは、中身のない話をしていた。

今は、静かに佇む巨大な箱庭の城塞と町の景色を、山小屋から見下ろすことしかできない。

『城壁内に動きが無いか見張る』という意味を無理やり持たせていた。

内心、中にいるであろうマキナの身を案じていた。

「町の人はどうしてるだろう」

ポールが話に加わった。

「さあな、皆パニックなんじゃないか?」

「ダグラスは? どう思う?」

 彼は沈黙していた。

「皆、怖いだろうね。予想もつかない事態が起こって」

ポールは自らの問いに答えた。

 ダグラスの視線は眠っているロボットに注がれている。

「さっきは大変だったけど、今は落ち着いてるよ」

ポールは彼を安心させようとした。

傍にいるリーベラも頷いて同意している。


 先刻、ロゼが「マキナ」と泣き叫んだ時、山小屋からふらっと一人のロボットが現れた。

「イオ?」

 名前を呼ばれても反応を示さず前へ進み、まるで何も聞こえてはいないようだった。

「帰らなければ……」

その足取りは、たどたどしいものだった。

 彼がつまずきそうになりなるのを、ダグラスは支えてやった。

「イオ。イオ!」

耳元で呼んでみるが、彼にはまるで届いていない。

目の焦点もあってすらいない。

「行かないと……アマレティアさ、ま……」

と呟き、意識を失った。

「イオ!」

 完全に意識を手放したロボットを再び山小屋へ運ぶのであった。


 眠るように停止しているロボットの手を取ると、冷たさが手のひらに伝わった。

ダグラスは、やはり人間ではないんだな、と感慨深くなった。

「ダグ……」

しかしエリオは親友に何も言えなかった。

「なんでさあ――」

ポールが話し始めた。

「イオは倒れてしまうんだろう」

 故障ではないとイオは言っていた。

それでもおかしいとポールは思ったのだ。

「不具合なんだって。なあダグ」

 しかしダグラスは何も言わない。

「でも、不老不死なんだよね。一度目は雨ふりの時だっけ?」

ポールは腑に落ちないらしかった。

「ああ、そうだったな。昨夜急に降ってきたんだっけ」

エリオは思い出したように話した。

最近は雨が多いけど、と付け加えた。

「雨……」

 マキナを憂いて放心していたロゼは、雨と聞いて考えを巡らせた。

やがて「ああ!!」と大声を上げると何か思いついたように立ち上がった。

「なんだよロゼ」

耳を抑えたエリオが訊いた。

「あのね! 神父様も雨の日に倒れたのよ! ねっポール?」

 ポールの頷いたのを見て

「関係あんのか?」

とエリオは怪訝な顔を向けた。

「それがね、実を言うとデヴォート神父は『ロボット』だったのよ」

 それまで無関心そうだったダグラスが振り返った。

「え?」

 エリオは打って変わって真剣な面持ちで、彼女の話を聞こうと前屈みになった。

「でも神父様はすぐに良くなるって言ってたけど」

ロゼは、イオと違ってだいぶ具合は良さそうだったことを伝えた。

「雨が、ロボットによくないってこと?」

ポールは質問した。

「それはねぇだろ。返って『水』はあいつらの栄養源だ」

その説はエリオによって砕かれた。

「だから私、アマレティア様に神父様を診てもらおうと思って」

 探そうと思い立ったところ、エリオたちと合流し今に至るのであった。

「もしかしたらさ、毒の雨なんじゃあ……」

と言い出すポールの言葉には皆耳を貸さないでいた。

「ロボットにしか有効でない毒物が水に混じっていたとしたら」

と言い出したので、全員で振り返った。

「普段飲むのは浄水されているから~」

と彼は言い続けた。

 寝坊助の話を聞いた者たちは、開いた口が塞がらなかった。

突拍子もないが否定もできない。

「もし、それが可能ならとんでもなく大規模だな。しかもそれ相応な技術がいるんじゃね……?」

エリオの額に冷や汗が伝った。

 ダグラスは考え込んだ。やがて

「アマレティアか……」と口走った。

「えっ……!?」

ロゼは思わぬ人の名に驚愕した。

「アマレティアかぁ……確かにロボット創始者なら、あり得るな」

エリオは親友に同意する形になった。

「違うって、思う」

ロゼは、自信無く自分の意見を言った。

「アマレティア様が、ロボットを傷つけるようなことしない……と思う」

「そうだ、な……ごめん」

「エリオ」

と呼ぶ、親友の低い声がした。

「ダグ、悪い。気が急いて――……お前には同意しかねるわ」

「……俺も、結論を急ぎ過ぎた。ロゼ、傷つけたね」

 落ち込む二人をロゼは「大丈夫」となだめた。

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