創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

文字の大きさ
上 下
47 / 49
第二部 後編

09 また今日という一日が始まる

しおりを挟む
 
 
 朝の真新しい日差しが町に降り注ぐのが見える。

 早起きしたダグラスの隣、エリオが立った。

 眠そうな眼を擦りながら

「うう寒っ……ダグ、早えなあ」と呟いた。

 年末の冷たい空気が、眠気覚ましに丁度良く肌に突き刺さった。

「そりゃ、あんだけ昼寝すればね?」

 朝焼けの景色を二人して望んだ。

「ふ~ん……叱られるよな、俺ら」
「ああ。当然だな」
「なんで、んな平然としてられんの?」
「なんで……?」

 暫く間を空けて

「一人じゃないから、とか?」と答えた。

「ふうん?」
「全員で、道連れ的な」
「なんか怖い言い方だな」
「あはは、世は情けってね……今までだって……そうだったし、俺ら」

 親友のその言葉で何でも乗り越えられそうな気がしてきた。

「そうだ、なっ!」暗い親友の背を思いっきり叩いた。

「いっ、たっ!」

 痛がる友人を、思いっきり笑い飛ばした。「エリオ!!」と睨む彼の反応すら面白おかしく思えた。

「ダグ、お前が羨ましいよ。いつもクールで澄ましてさ。俺なんか直ぐにカッとして、感情そのまんまで……」

「はあ? まだ痛いんだけど。痕残ってたら最悪!」
 この時ばかりは、いつものお澄ましではいられなかった。

 背中のひりつきが気になって仕方なさそうだ。

「直ぐに消えるだろ」
 引っ叩いたことは、全然悪びれていない。

「チッ。お前が同じことやられたら、ギャーギャー言うだろ!」

「あーはいはい」
 エリオはくるりと背を向けて山小屋の方へ歩き始めた。

「おっ……おい!」

 追いついた彼と、また二人口喧嘩しながら山小屋へ帰った。



 怪盗の予告状よろしく『一輪の薔薇』は、無事孤児院へと返された。

 こってり絞られる覚悟でいた青年たちは、神父の態度に度肝を抜かれた。

「怪盗紳士諸君! 大切な宝石を返してくれてありがとう。ロゼくん、お礼は言ったかな?」
「うん! 皆ありがとう!」

 三人は、夢かと疑ったが、いくら考えても現実だった。

「マキナが一緒に行ったから、安心して任せられたよ」
 全く現代人は、ことごとくロボットに全信頼を置いているらしい。

 青年たちは面食らった。叱られる気満々で臨んだ犯行だったのに、肩透かしを食らったのだ。

 だからと言って、決して怒られたいわけではない。
 特にポールは、ラッキーと思った。



 孤児院を出て行く背中に、ロゼは大声で

「またねー!! メルシボクゥ!」

と言って、手を振った。

 エリオ、ダグラス、ポールの三人は、躊躇なく手を振り返した。

 そして清々しい気持ちで「またな」と、少女に挨拶を投げかけた。

「メルシィ!」

 また再会する時は、存外早いのかもしれない。

 手を振る四人皆が、そう感じた。
しおりを挟む
「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
感想 0

あなたにおすすめの小説

廃線隧道(ずいどう)  

morituna
SF
  18世紀末の明治時代に開通した蒸気機関車用のシャチホコ線は、単線だったため、1966年(昭和41)年に廃線になりました。  廃線の際に、レールや枕木は撤去されましたが、多数の隧道(ずいどう;トンネルのこと)は、そのまま残されました。   いつしか、これらの隧道は、雑草や木々の中に埋もれ、人々の記憶から忘れ去られました。  これらの廃線隧道は、時が止まった異世界の雰囲気が感じられると思われるため、俺は、廃線隧道の一つを探検することにした。

夢の方舟

トイボン
SF
人類滅亡の「夢の機械」を発明した男が、その機械の持つ意味を説く話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

グレーゾーンディサイプルズ

WTF
SF
ある日親友を惨殺されたかもしれないと連絡がある。 遺体は無く肉片すら見つからず血溜まりと複数の飛沫痕だけが遺されていた。 明らかな致死量の血液量と状況証拠から生存は絶望的であった。 月日は流れ特務捜査官となったエレンは日々の職務の中、1番憎い犯人が残した断片を探し、追い詰めて親友であり幼馴染がまだこの世に存在していると証明することを使命とし職務を全うする。 公開分シナリオは全てベータ版です 挿絵は自前

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

感情を失った未来、少年が導く人間らしさを取り戻す冒険の旅

ことのは工房
SF
未来の地球は、技術が進化しすぎて人類の生活がほぼ全て機械によって管理されています。しかし、AIが支配する世界において、感情や創造性を失った人々は、日々の生活をただ無感動に繰り返すだけの存在となっています。そんな中、ある少年が目を覚まし、心に残る一つの奇妙な夢に導かれながら、未知の世界へと旅立つ決意を固めます。その旅の途中で、彼は「人間らしさ」を取り戻すための鍵を握る謎の存在と出会います。 この物語は、機械による支配と人間らしさを求める冒険を描き、AIと人間の関係性、感情、自由意志といったテーマを探求します。

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

処理中です...