創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

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第二部 後編

08 楔となる言の葉

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「エリオ……?」
「うん? 起きたか。ダグおはよ」
「あ、ああ……」

 ダグラスは、寝ぼけながら返事をし、しまいに手の中で大きくあくびをした。

 それに続く形でエリオも大きめのあくびが出た。

「やめろよ……つられるだろ」
「ごめん。どうしよもなく、眠くって……」

 気を緩めれば、また眠ってしまいそうだ。

「俺もだけど」
「ロゼは……?」

 ダグラスは重たい瞼をもたげた。
「お前が寝てるのを見て……起きるのを待とう、って……うーん……」

「すっげ~え、寝てたけど?」
 相手の声が余りにも眠そうで、逆に心配になって自分自身は目が覚めた。

「うん……」

と眠そうな声で答えた。
 親友を挟んでロゼが寝ているのを確認し、脱力感に襲われて再びソファに体を投げ出した。

「おい、ダグ。大丈夫か?」

「ああ……」
 軽く目を閉じれば、また気を失いそうだ。

「おーい。うん、寝言言ってたもんな」

「え……なんて?……俺、変なこと言ってた?」
 ほんの少し目が泳いだ。

「フフ、懐かしいやつを、少し」
「は……?」

 ダグラスにはいつもの覇気がない。相当な疲れが溜まっているようだ。

「寝耳には、丁度いいかもな。一応起きてるけっど」

 エリオは、彼に向き直った。
 普段の自分なら絶対言わないと思う、恥ずかしい言葉を口にする。

「俺が『一緒に生きよう』って言った時の、ほら、お前が言ったやつ――……あれだよ。うぅん」

 言って後悔した。やはりこの年になると恥ずかしさが勝つ。

「え……――!」
 至近距離だから隠れようがない。眠そうな瞳を大きく開いて、少し動揺したようにみせた。
「なんで――……」
 ダグラスの顔が、少し歪んだ。
「今なんだよ……?」

と呟いた。ゆっくりと俯いて、寝癖を整えるフリをして、表情を隠した。

「うん?」

 イタズラし過ぎたかと思い少し反省する。彼の恥ずかしがる姿が見たかっただけなのにと思った。

「ダグ。悪い、流石にやり過ぎた――?」

「覚えてんの……ね?」と言って目を閉じた。

 再び目を開けた彼は、いつものダグラスになっていた。

「はあ? ああ、当たり前だろ」

「フン、記憶力ねーくせに」
 指で目にかかる髪を避けた。

「あ? あるわ!」

「しー……ロゼが起きるよ?」
 人差し指を口に当てる仕草をした。

 調子よく片目を瞑ってやがる。もうすっかり起きたらしい。

 エリオはそう感じた。「……ふん」

「おやおや、まだ疲れてるのか?」
「お前が疲れさせたんだ。たった今な」
「そうなのか?」

 わかってて訊いてくる。エリオはわざと寝たふりをした。

 その行動には目もくれず不意に立ち上がった。

「ん? どうした、ダグ?」
「キッチンへ行ってくる」
「え、お前も腹減ったのか?」
「エリオじゃあるまいに。違う。お前がなんか食べるのかと思って」
「ああ。ポールに頼んであるけど」
「俺見てくる。ポールのことだから、なんかまた凝ったことでもしてるんじゃない?」
「あー……うーん」

 そういえば、遅い気もする。親友の言葉に、返す言葉も無かった。

「それじゃ」

と言って、ダグラスは戸を開けた。戸を閉める前に

「ロゼのこと運んでやれば? 二階とか、ベッド直ぐに寝られるようになってるだろうし」と伝えた。

「おう。運ぶかあ、こいつ」
 重たい腰を上げた。
「なあ、お前も手伝って――」

「やだよ」
 言い逃げをして戸を閉めた。

 ガチャリという音だけ残して、部屋から去っていった。
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「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
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