0と1の感情

ミズイロアシ

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第二部

08 夢うつつ

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 早朝の逃走劇に加え昼間の登山疲れのせいか、ソファに座ると眠気が一気に押し寄せた。

 エリオは背もたれに体重を預けてそのまま意識を手放した。

 右肩に重みを感じて、意識が浮上した。

 隣を見ると、誘拐した少女が肩に寄りかかって寝息を立てているではないか。

「ん……は? ガキかよ。なんでこんなとこで寝てんだ――」

 自分も寝ぼけたまま、ロゼを起こそうと左手を伸ばす。

「――うおっ」

 左にも衝撃を感じ、驚いた。

「……ダグ、か……なんだ?……寝てんのな」

 エリオは二人を起こすのを諦めて、再び背もたれに背中を付けた。

「はあ……腹減った……」
「ん……」

 左側の眠人が、微かに動いた。

「ん……そばに……て……る?」
「ん、ダグ?」

 彼の顔を見ると、まだぐっすり寝ているようだった。寝言だ。

 部屋の戸が開け放たれ、ポールが室内へ入ってきた。

「あれ、何やってんの?――両手に花?」
「どこが両手だ。言うなら片手――って! 言わすな、バカ!」
「シーッ! 起きちゃうよ」
「だっ……お前が――!」

 エリオが照れるのを他所に、ポールは彼を挟む眠人たちを見た。

「二人とも、座ったまま寝てるの?」

「ああ。俺もさっき起きて……目が覚めたら、こうなってた」
 窮屈だから助けろと言いたいところだ。

「ふうん。疲れてるんだね」
「そうなんじゃね? お蔭で起きたのに動けなくなったー」
「ふうん」

 ポールは、エリオに全く同情しなかった。

「ポールウ~、なんか持ってきてー? 腹が減ったー」
 ソファの真ん中にどかんと座ったまま、わがままを言った。

 気の優しい彼は、

「わかった。お菓子でいい?」

とあっさり承諾してくれた。これだからポールは良い奴なんだよなあと、内心頷いた。

「何でもいいー」
「りょーかい」
「それとさぁ、こいつ――ロゼを二階に運んでくれね? ここじゃあ、流石に」
「うん、可哀想っか。ダグラスは?」

 彼も、未だ左肩に身を預けて、すやすやと眠っている。

 彼の寝顔を見るエリオは、とても穏やかな表情をしていた。

「こいつは……このままでいいだろ。だから、俺、動けねえから。頼んだーふぁあ……」
 語尾とあくびが一体になった。

「エリオも眠いんじゃん……」
「ん? んんー、眠いーけど、腹も減ったー」
「はいはい、早く持ってくるね」

 気前よく返事をして、部屋を出て行った。

 動きを制限されたエリオは、手首だけで手を振って、ポールを見送った。

 両肩に重しを乗せているが、それを退かすこともせず、友人が戻るのを待った。
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