創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

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第二部 後編

08 戦争の焦げ跡

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「あの頃は終戦間際で――……大量の無人機が、鉄の雨を降らせてた。想像もできない残忍なやり方で、人が……大勢死んだ。あそこに――」

 山を少し下った少し開けた場所を指した。

「――戦没者が眠る慰霊碑がある。遺体はね、どれが誰なのか、判別できない状態のが多くて……共同墓地なんだよね」

 人気のない寂しげな場所にその慰霊碑は建てられた。

 毎年春になれば、碑を囲むよう花一華はないちげの原種が咲き誇る。

「妹もいたって、私、ポールに聞いちゃった」
「そ……か。ポールね」
「もしかして、私に優しくしてくれるのって」

 チラッとロゼを見る。独特な表情をしていた。

 安心させるように自然と笑いかけた。

「違うよ。記憶の中で、あの子は、いつも泣いているから」
「え……」
「俺と年子で、戦時中いつも泣いてたんだよね。いつも笑っているロゼとは、似ても似つかないよ」

 聞いてくれる相手に笑って返すが、その瞳は黒く淀んでいた。

「戦争に巻き込まれて死んだから。皆――」

 慰霊碑を見下ろした。

「――俺を残して、逝ってしまったんだ」

 語尾に行くにつれ、消え入りそうな声を出した。

 もはや涙も出ない。

 言葉を発する度に心をすり減らしている。

 聞き手にはそう感じさせた。

 ロゼは、何も返せなくなってしまった。しかし話は続いた。

「独りになった俺に、〝あいつ〟がここで、

『一緒に生きよう』

って言ってくれた」

 彼の声に少し覇気が戻った気がして安心した。

「あいつ?」
「そう……エリオだよ。とても心強かった。俺も無意識に、ずっと傍にいて~……とかなんとか言ってたから。あの頃は、状況も状況で、お互いガキだったから。フッ、今は、キモくて言えたもんじゃないね?」

 前髪の隙間から目を細めてるのが見えた。いつもの笑顔に戻った。

「ううん。それがあったから、今も仲良くしてるのね」
「それは、どうかなぁ?」

 困り顔で苦笑いをした。

「相手も、もう忘れてると思う――……でも、想ってしまうんだよな。軽はずみで出た言葉なのに……深層心理で縛り付けてるみたいで? 呪いみたいに……」

 口調もいつもの調子を取り戻してくれたようだ。

 しかし台詞の内容に、ロゼは唾を飲み込んだ。

「の、のろ、のろい?」
「言葉ってさ、魔法だ。相手の感情を揺さぶれるし、自分の感情も隠せる」
「……ダグラスは……嘘つきなの?」

 彼はクスリと笑った。

「……君は、とても正直そ」

 黒い瞳で少女の顔を見た。

「どお? ロゼを妹と思わないと言うのは、本当なんだけどな……?」

 ゆっくりと距離を詰められた。無表情に近い微笑みだ。
「えっ」どう答えるのが正解なのだろう。考えている間も相手にじっと見つめられた。

 夕日に照らされる漆黒の瞳と右耳のピアスが、赤く反射した。

 彼の赤い瞳は、ロゼを捉えて離さなかった。

「続き……描かないの?」と囁き声で言われた。

「え、あ……はい」

 返事をするので手いっぱいだった。
 何だか試されているようで、しかしどう動けばいいか迷った。

 二人は暫く見つめ合ったまま動かなくなった。

 黒髪の青年は、金髪の少女の反応に吹き出すように笑った。

「『はい』って、何それ」
 いたずらに笑って、風景に視線を戻した。

 ロゼはどうして笑われているのか皆目見当が付かなかった。
 それよりも早く描き終えねばと、焦って鉛筆を動かした。

 太陽が完全に姿を消してしまうまで、もう時間が余りない。

 ロゼは、隣から視線を感じながらも、絵の完成を目指した。
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「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
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