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第三部

08 『友人』の定義

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 エリオが伸びをした。
「腹減った~」

「マキナが、お弁当作ってくれたよ!」
 ポールがカゴから取り出す箱はまだ温もりが残っており、美味しい匂いがした。

 遅めの昼食を皆で過ごし、お腹は満たされた。

 ロゼは、自分のロボットのことも頭から抜け落ちるくらい、山からの景色に夢中になってしまった。食後も直ぐに景色を見に走った。



 地べたに座る少女の後姿に声を掛ける人物がいた。

「まーた見てんの? そんなに気に入った?」
「エリオ。うん、ありがとね。この景色、最っ高に素敵!」

 満開の笑みを浮かべる彼女の手元を見るとエリオは

「絵、描いてんの?」と訊き、隣に腰掛けた。

「うん。忘れないように」

「……まさか、この前送ってきたのみてぇな出来に、なるんじゃねぇよな?」

「え?」

 ロゼが振り返ると、彼は苦笑いをしていた。

「失礼ねえ!」
「はあ? 俺、下手だって言ってねぇじゃん!」
「下手だと思ってるのー!?」
「言ってねえ!」

 二人の大騒ぎに、ダグラスが駆けつけた。

「なんで喧嘩してんの……」

「喧嘩してねえ!」「喧嘩じゃない!」

 二人同時に反論してきた。

 エリオは自身の膝に頬杖をつき、ため息を一つ吐いた。

 ダグラスもそれを見て、彼の隣に腰を下ろした。

「お前はなんで怒らせたんだ?」

 相手は胡坐をかいてふて腐れている。親友の問いを無視した。

「ダグラスは、私の『これ』どう思う?」

 ロゼはひょこっと顔を出して、絵の感想を訊いた。

「えっ」
 描きかけのノートを向けられた。鉛筆で描かれた風景(?)と思わしき絵だ。

「あ……うーん、うん。良い絵だと思うよ?」

 得意のポーカーフェイスで乗り切った……つもりだ。

「本当?」

 本当にロゼは純粋だ。

 真ん中のエリオが、何か言いたげな顔をしたが、押し黙った。

「うん。ロゼらしい……可愛らしい絵になるんじゃない?」

 漆黒の瞳に微笑まれて、彼女は少し照れくさく笑った。

「お前な!!」と親友が吠えた。「なんでそうぬけぬけと――!」

「は?」

 彼の方がダグラスの台詞に面映ゆく感じたようだ。

 その様子が堪らず面白くて

「なんで、お前が顔赤くしてんだよ」

とダグラスは意地悪く詰め寄った。

「だからお前が……!」

「はいはーい。喧嘩しなーい」

とロゼが口をはさんだ。

 十二歳に言われてしまっては、二人とも〝おしまい〟にするしかない。

 ロゼは何事も無かったように、スケッチを再開した。

 青年たちは座ったまま、互いの顔を見合ったまま動かなかった。

「はぁ……ダグは、なんで出てきたんだ?」
 先に顔を背けた彼は言った。

「んー? 別に。ポールは寝ちゃったし」
 こちらも視線を綺麗な景色へと向けた。

「ハハハ……あいつ直ぐに寝るな」

「ああ。俺も眠い……朝、早かったし」

 そう言ってエリオの膝に頭を下ろした。

「おい、ここで寝るな」
「いいじゃん。枕が動くなよ?」
「チッ……あーわかったわかったー」

 エリオは親友のこめかみに肘を立てた。

「痛い! 何すんだ、バカリオ!」
「はいはい、肘置きは動くなー」

 ぐりぐりとこめかみを押され、いたずらに笑う親友を見上げた。

 ロゼは鉛筆を動かしながら

「二人って仲良しだよねー」と言った。

「はあ?」エリオが声を低くして言った。

「痛すぎ……体重掛けただろ」ダグラスは起き上がった。

「自業自得だろ」
「どこが? お前がやったんじゃん」
「ね! いつから友達なの?」

 少女は二人の関係に興味津々だった。青い澄んだ瞳で二人を見つめた。

「んーー……いつからだろうな。なあ?」

「ええ? 頭痛い……うーん、幼馴染だからな。線引き難しいんじゃない?」

 こめかみをまだ擦っている。

 彼のやることは本当かわざとか、時々判別付かなくなる。
 親友も無視していた。それが正解かもしれない。

「幼馴染……」

 ロゼはその言葉にときめいた。

「いいなあー、ずっと変わらない関係って!」

「良いかあ? ただの腐れ縁だぞ」
 エリオはため息を吐いた。

 それを見てダグラスはわざと拗ねてみせた。

「そ? 俺は、この関係……嫌いじゃないけどな。エリオ?」
「は? キモ」
「ふっ、嘘うそ。腐れ縁か。まあ、切っても切れない関係だよね?」

「そうだな」
 胡坐に肘を立て、頬杖をした。

「ロゼの方は――」

 話の方向を彼女に向けた。

「――孤児院の子、皆が、幼馴染になるんじゃない?」

「え。う~ん……」

 彼女が悩みだしたので、ダグラスはしまったと思った。話題を振るのを間違えた。

 ロゼは平然とした口ぶりで

「孤児院では、私、特別に仲良い子とか、いないよ。ずっと一緒は……マキナ、かな」と言った。

「ふうん」
 エリオは短く相づちした。「またマキナか」と思ったが口にしなかった。

「じゃあ、マキナがロゼの幼馴染か」
 ダグラスは挽回しようと微笑んだ。

 ロゼは腑に落ちたように笑った。

「うん! そうだね! 私にはマキナがいたね」

 彼女の屈託のない笑顔に救われた。
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