創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

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第二部 後編

08 小さな世界

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「お前のじいさんがマキナを気に入ってくれて、助かったぁー」

 エリオは腕を伸ばして言った。

 マキナを翁に預けることができて、青年たちの目標は達成された。

 機械から離れて人間と遊ぶ。
 物心ついてからずっとロボット生活のロゼにとっては、新鮮そのものだった。バレエを観た時とは、また違った興奮を覚えた。

「山小屋までは、どれくらいかかるの?」

 何も知らないロゼは彼らに尋ねた。

 そう、只今ご一行は登山の真っ最中だ。

 山と言っても緩やかな山だ。初心者にも優しい。

 ロゼの住む孤児院も小高い丘に建っているが、それとは段違いだ。

 青年たちは、少女のペースに合わせて登山した。

 山頂に、お目当ての山小屋は建っている。
 道具は一通り揃えて置いてあるし、ほぼ手ぶらで向かった。

「楽しみだなあ~」
「うん。びっくりすると思うよ」

 ロゼとポールの会話を、その後ろを歩く二人は微笑んで見ていた。



 山頂へは正午過ぎに到着した。

 ロゼにとっては初めての山登りで、とても疲労が溜まっていた。
 しかしエリオに呼ばれ、顔を上げた。

「ロゼ、こっち来てみろよ」
「ええ? 何……」

 ロゼは呼ぶ主の立つ所へ向かった。

 彼の隣に立ってみると、目の前に絶景が飛び込んできた。

「いいだろ?」と隣の彼が言った。

「うん……――!」

 町が、ロゼたちが住んでいる場所が、とても小さく見えた。

「オモチャみたい……!」

「これを、どうしても見せたかったんだよね?」

 いつの間にか、ダグラスが隣に立っていた。

「ダグ……ああ。ここは――……町が全部、見渡せるからな」

 ロゼは瞬きも忘れるくらい、眼下に広がる景色を、目に焼き付けていた。

 その美しさに、さっきまでの疲れも吹き飛んだ。

「凄い。あっ! あれが孤児院?」
「うん? ああ、そうだろうな」

 エリオは、彼女の指差す丘の上の建物を見て言った。

「この間の劇場も――そこに」
 ダグラスが向こうを指さした。

「上から見ると、全然違うものみたい」

 ロゼはここから見える景色に感動を覚えていた。あの時の感動も思い出してしみじみする。
「楽しかったな~」

「晴れていれば、遠くの方に海が見えるけど。う~ん……もやが」
 ポールも隣に並んだ。

「海!?」
「うん」
「私、見たことない」
「ずっと孤児院だもんね」
「うん……」

 生まれてからこれまで、本物の海を見たことがなかった。

 物心ついた時から孤児院とその周辺がロゼの世界の全体図だった。

 他は、マキナと絵本や映像資料で情報を補った。
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「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
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