創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

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第二部 後編

07 娯楽施設

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 クリスマス明けの二十六日、

ポールは眉尻をこれでもかと下げていた。二人の親友相手に、先程からずっと謝り倒している。

「ごめんっ、怒ってるよねー?」

「怒ってないよ」
 ダグラスが平然とした口調で言った。

「余計なお世話だったね、ごめん……」

「だから怒ってないって……出し抜かれた感は否めねぇけど?」
 普段の声色で話している。どうやらポールの反応を楽しんでいるようだ。

「あっ、やっぱり!!」
 そうとは思わない彼はその言葉を素直に受け取った。

「もうよしてやれよ、ダグ」

 エリオがため息混じりに口を挟んだ。

「ふん……そうだね、鼻から怒ってないけど。ポールが猪突なところがあるからって、今更……別に何の感情も湧かないよ?」

 ポールは肩を落として、三度「ごめん」と口にした。

「だから――」流石の彼も平然を保てなくなって「――ああ、もう!」とイラついた声を出した。

「アハハハ! 怒ってねえんじゃ無かったのか、ダグー?」
 ダーツの矢を構えながら、横目で彼に言った。

「違うっ! これは――……自分の手元が狂ったのにイラついたんだ!」

 ダグラスは自分が放った矢の得点が気に食わぬようで、的を睨みつけた。

 そう、三人は町のアミューズメント施設へ遊びに来ている。今はダーツに興じていた。

「アハハッ――……よしっ。これで俺の勝ちー!」

「ええ、嘘!」
 普段涼しい顔をしているダグラスだが、余裕なく急いで振り返った。
 得点板を見た途端、想定外だと言いたげな表情をした。

 エリオの放った一矢は、確かに的の真ん中を貫いている。

「嘘じゃねぇから。さっきの、最後の一本だったんだよー?」
 勝者はニヤついて、得意げに言った。

 煽られはしたがゲームセットで、言い返す言葉も見つからない。必死にポーカーフェイスを装うったって無駄だ。結果は既に出ている。
「わかった、俺の負けだ」

 勝って得意になった彼は

「次はビリヤードやろうぜ」と言った。

「え。それ、お前が得意なんじゃん……」
 引きつった顔で応じた。

「だからいいんじゃねぇか! お前の得意なゲームで俺が勝ったんだ。悔しかったら、俺の得意なゲームで勝ってみろよ。ふふん」
「なんだと……!」

 黒髪の青年は、親友を穴が開くほど睨み付けた。

 売られた喧嘩は何とやらだ。
 ビリヤード台の玉を散らかして、ゲームスタートだ。

 キューを肩に担ぐエリオは、余裕しゃくしゃくなのが目に見えてわかる態度だった。
 始まる前から

「ほらほら、怒らねえの~、ダグラスくーん?」

と親友を挑発した。

「……精神攻撃も大概にしろよ。エリオめ……」
「攻撃してねえですけどお?」
「ムカつくっ!」

と言って、ビリヤードキューを構えた。

 二人のやり取りはポールにとっては当たり前の光景なので、特に心はざわつかなかった。
 それよりも、鞄の中身が気になって仕方がなかった。ちゃんと入っているかどうか、暇があれば何度も確かめた。

 それは手紙だ。

 この時世にこんな古めかしい方法で情報伝達をしてきたのは誰か、差出人を見れば一目瞭然だ。

 ――『ロゼ』

 苗字のない少女の名前だけが、あの孤児院の住所と一緒に添えられていた。

 ポールは眉をひそめて、鞄を閉じた。何度確認しても心配なくらい、失ってはいけないものだからだ。

「やっぱ、紙ものはいいもんだよね」

 ポールは人知れずに、そう呟いた。


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「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
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