25 / 49
第二部 前編
06 何通りもの私
しおりを挟む後日、巷のブティックにて、ロゼはバレエ観劇に着ていくドレスに悩んでいた。
きらびやかなドレスに囲まれて、慣れない場にまだ子どもである彼女の体強張った。
「ロゼ。どれか、手に取ってみては?」
「そ、そうだね、マキナ」
平常運転のマキナに促され、手前のラックから目に付いたものを適当に手に取った。
鏡の前で黄色いドレスを合わせてみる。
今度は他のドレスを体に当てた。それを数回繰り返した。
「ねえ、ポール? これは、どうかな」
付き添いの彼に花柄のドレスを見せた。
「うん、良いと思うよ」
「もう! そればっかじゃない」
鏡の前で左右の手に持つドレスを交互に当てた。
「どれも可愛いし」額に冷や汗をかいていた。
「正直でよろしい」
冗談を言って両手のドレスをラックへ戻した。
「なかなか、決まりませんね」マキナが棒読みで言った。
「だってポールが」
「お、俺!?」
ポールは女の子にたじたじだった。
ロゼは初めてのドレスに選ぶのが不安だった。
そこでポールを引っ張り出したのだが、流石に彼も女の子の衣装を選ぶのには骨が折れた。
「もう! どうしよう」
「たはは……」
「すみません。ロゼに、悪気はないのです」
「マキナぁ?」
ロゼは心外だと言う顔をした。次のドレスに手を伸ばした。
「大丈夫だよ、マキナ。俺、これでも楽しんでるから」
「楽しい、ですか?」
ロボットは首を傾げた。
「うん。妹って、こんな感じなのかなって思って」ロゼを見て言った。
「私も」
ロゼは彼に答えるように
「お兄ちゃんがいたら――ううん。家族がいたなら、きっともっと楽しかったろうなって。えへ」
と言って笑った。
「ロゼ……俺も、孤児は他人事じゃないからなあ~。じいちゃんがいなければ、きっとロゼと同じ運命だったよ」
彼の優しい笑顔に、少女は元気をもらった気がした。
「ポールも、家族を亡くしたのね。戦争で」
彼は頷きを返した。肯定を示したのだ。
「両親をね。でも、少なからず皆、大切な人を失っていると思うよ。エリオも、ダグラスもね」
「そうなの?」
「ああ、そうさ。そういえば、ダグラスは妹がいたっけなあ。お兄さんもいたけど、自警団の一員に――」
「妹?」
「うん、そう。でもー……生きてたらロゼより少し大きいけどね」
「そうなんだ……」
またあの二人に会いたいなと思った。
様々なドレスを着試した。しかしコレだというのに出会えないでいた。
「マキナは、私にはどんなのが似合うと思う?」
「はあ、そうですね……」
ロボットは、小さな主人の姿を視線を上下させて見て、考えた。
ロゼはマキナの導き出す案を待った。
「ロゼは……明るい、温かい色が似合う気がします」
「えっ」
「うん。俺もそう思う」
三人は意見をまとめて、ロゼにぴったりのドレス探しを再開するのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

sweet home-私を愛したAI-
葉月香
SF
天才と呼ばれた汎用型人工知能研究者、久藤朔也が死んだ。愛する人の死に打ちひしがれ、心を患う彼の妻、陽向は朔也が遺した新居――最新型OSにより管理されるスマートホームに移り住む。そこで彼女を迎えたのは、亡き夫の全てを移植されたという人工知能、立体ホログラム・アバターのsakuyaだった。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

空色のサイエンスウィッチ
コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』
高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》
彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。
それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。
そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。
その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。
持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。
その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。
そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。
※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。
※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。
※2022/10/25 完結まで投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる