創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

文字の大きさ
上 下
22 / 49
第二部 前編

06 緑のおうち

しおりを挟む
 
 
 約束していた通り、ロゼはポールのお宅を訪問した。孤児院側の都合上、マキナ付きでの外出を許された。

 ゼファー宅には、話に聞いていたように、裏庭に動物が沢山いる。こじんまりとした畑もあった。気温は寒いが、ロゼの心は初めての光景にときめき、ウキウキした。

「本当だ。子豚ちゃん可愛い!」
「ハハハ、ミニブタだよ。結構賢いんだ」

 ポールの言った通り、ミニブタは『おすわり』と『おて』をしてみせた。

「すご!」

「ロゼもやってみる?」
「いいの?」
「どうぞ」

 ロゼがミニブタの前にしゃがみ込むと、ニワトリたちが一斉にロゼを囲み込んだ。

「うわあ! 何!?」
「アハハハ。ロゼのこと、気に入ったみたいだ!」
「ええー!?」

 ニワトリはロゼの持つ餌をせびった。
 彼女は焦ってしまって、餌を地面に撒き散らした。
 ニワトリはコッコ、コッコと鳴きながら、嘴を地面に高速で叩きつけた。 

「凄い。沢山食べるのね」
「ハハハ、そうだね」

 ベランダからポールの祖父が顔を出した。
「おいポール、お昼はどうする?」

「あ、はーい」
 孫は返事をした。

 お爺さんは少女の持つロボットを見ると、嫌な顔をして屋内に戻って行った。

 ポールは客人に向き合った。

「ロゼも食べてきなよ」

「うん、ありがとう! ポールが作るの?」
 部屋に戻ろうとする彼に声を掛けた。

「うん? そーだけど」嫌だったかとロゼに訊いた。
「ううん」

「ポール」
 マキナが声を掛けてきた。

「何? マキナ」
 目をぱちくりした。

「私に昼食の支度をさせてください」
「え、マキナが? お客さんだし、悪いよ」
「いいえ。お礼です!」
 
 やる気満々に胸を叩くロボットに、ポールは

「そ、そう? じゃあ、やってもらおうかな」

と家に上げた。



 ポール、マキナ、ロゼの三人はキッチンに立った。

「ねえねえ、何を作るの?」
 ロゼは浮足立って二人の手元を見た。

「うん? そーだなー」

「ラタトゥイユを作ります」
「おっ、いいね」

 ロボットの提案に同意し、マルシェカゴから使えそうな野菜を取り出した。

 野菜を慣れた手つきで切る青年の姿に、ロゼは見とれてしまった。

「ずっとポールが作ってるの?」

「ん、ううん? 子供の頃はじいちゃんが。俺がやり始めたのはここ二、三年前からーだったかな?」

と答えながら、包丁を上手く使いこなした。

「へえ……!」

 自分と同じ年頃にはできるようになっていたということだ。

 ロゼは今の自分には到底無理なことだと思った。心から彼に感心してしまった。
 料理する手をただ見ていることしかできそうになかった。

「ロボットにやってもらったら楽だよ?」
「そうだねー。けど、作るのは楽しいから」

 その笑顔が輝いて見えた。
しおりを挟む
「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
感想 0

あなたにおすすめの小説

廃線隧道(ずいどう)  

morituna
SF
  18世紀末の明治時代に開通した蒸気機関車用のシャチホコ線は、単線だったため、1966年(昭和41)年に廃線になりました。  廃線の際に、レールや枕木は撤去されましたが、多数の隧道(ずいどう;トンネルのこと)は、そのまま残されました。   いつしか、これらの隧道は、雑草や木々の中に埋もれ、人々の記憶から忘れ去られました。  これらの廃線隧道は、時が止まった異世界の雰囲気が感じられると思われるため、俺は、廃線隧道の一つを探検することにした。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

感情を失った未来、少年が導く人間らしさを取り戻す冒険の旅

ことのは工房
SF
未来の地球は、技術が進化しすぎて人類の生活がほぼ全て機械によって管理されています。しかし、AIが支配する世界において、感情や創造性を失った人々は、日々の生活をただ無感動に繰り返すだけの存在となっています。そんな中、ある少年が目を覚まし、心に残る一つの奇妙な夢に導かれながら、未知の世界へと旅立つ決意を固めます。その旅の途中で、彼は「人間らしさ」を取り戻すための鍵を握る謎の存在と出会います。 この物語は、機械による支配と人間らしさを求める冒険を描き、AIと人間の関係性、感情、自由意志といったテーマを探求します。

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...