創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

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第二部 前編

05 マキナの心の中

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 ロゼが自室で寝る支度をしている頃、

マキナは自分の元へ舞い降りてくれた赤い紅葉の葉を大事そうに本の間に挟んでいた。

 ロゼは金髪のボブヘアーを櫛で梳かしながらマキナに近づいた。
「どうしたの? マキナ」

「はい、ロゼ。紅葉の葉を押し花にしようかと」
 マキナは重石の本を重ねた。
「アマレティア様……」

「え?」
「アマレティア様は、赤がお好きなのでしょう」
「急にどうしたの?」
「いいえ。この葉を見たら、そう頭に浮かんだんです」

と言うと、マキナは重石にしている本の装丁を撫でた。

「……マキナも寂しいの?」

「……いいえ、何とも。私が重きに置くのはロゼですし。それに、いずれまた会える気がしますので」

 彼女の意味深な言葉に、ロゼは首を傾げた。

「さて、ベッドに入る時間ですよ?」

 マキナはロゼを寝かしつけるために、ベッド脇の椅子に腰かけた。

 布団の中から
「早速明日、ポールん家に行ってみようかな」
と眠そうな声がした。

「はい、いいですね。ならば尚更、早く眠りにつきましょう?」

 促されて、ロゼの瞼は徐々に重さを増していく。次第に寝息をたてて寝てしまった。

 小さな主人の寝顔を見つめ、ロボットはニッコリと笑った。

 マキナは『ポール』と聞いて、三人組と再会したあの時の記憶を遡ることにした。



 カレー屋を出た後、ダグラスはマキナを呼び止めた。

「ロボットさん、ちょっといい?」

「はい? 私はマキナです。御用でしょうか?」

 ロゼを少し遠ざけた場所で、ダグラスはマキナに金貨を手渡した。

「これは……多すぎます。お花代はこれで済みます」

 マキナは余分な金貨を相手に返そうとした。

 ダグラスはそれを制止した。

「いや、これでいいんだ。俺らの昼代」

と言って、マキナの手を突っぱねた。

 マキナはいまいち要点を掴めないようで、首を左右に何度も傾げる仕草をした。

「孤児院の大事な金を、使えるわけないんだよ」
と目の前の青年は言った。

「ですが、あなた方のお金も、限りあるものでは? 個人への支給で、一方的に受け取るのは――」

「いいから、引いてくれ。これは俺らの総意なんだ。『懺悔』とでも、受け取ってほしい」

 それでも足りないくらいだけどと付け加えて、マキナに金貨を仕舞わせた。ロボット相手に、気負わないでと笑ってみせた。

「ロゼのも奢ってあげたいんだけど」
「いいえ、必要ありません」

「そ?」
 素直に引き下がり、顔を綻ばせた。
「このこと、ロゼには内緒にね。お願いします」

「はい……?」
 マキナには、彼らの心意はわからなかった。

 しかし約束は結ばれた。

 指示は守るはずだと確信したダグラスは、満足げにロゼやエリオたちの元へ戻って行った。
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「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
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