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第二部

04 孤児院の外の世界

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「それより、ポール。さっき、何か言いかけたんじゃない?」

 冷静なダグラスは思い出したようで言った。

「ん、なんの話だよ?」
というエリオの間の抜けた台詞を聞くと、それにも冷静に「お前が遮ったんだよ」と突っ込んだ。

「ギャーギャー、ギャーギャーと、雄鶏のように」と最後に付け加えなければ、相手も怒らずに済んだというのに。

「ああ? んだとぉ! ダグ……お前しつけぇんだよ。蛇かよってんだ!」

「ふぅ~ん? 言いたいことは、それだ……け?」

 甘い声からは考えられない程のどす黒い瞳に笑われると、エリオはメドゥーサに睨まれたかの如く苦い顔のまま固まって動かなくなった。

 隣に座るロゼには、エリオの変な顔しか見られないのも計算の内だろうか。

「ん。うふふ……それで?――ポール」
「ふぇ? あ~――」

 三人組の最年少にとっては、二人のこのようなじゃれ合いは慣れっこのようで淡々と、思い出しては
「――んー、うん。学年、一つ下だよって訂正したかったんだよねー」
と普通なことのように言った。

「え……――はああ~??」

 先輩二人は声を揃えて叫んだ。続けざまにエリオは「なんでなんでなんでぇ?」と言った。

 当の本人は「え~~? 飛び級したからだよ。それしか理由ないじゃーん」とゆったりとした口調で話した。

「だからなんで!――って、言ってんだよ! 俺知らなかったんだけど、ええ? ダグは知ってた?」
「知るかよ……聞いてない……」
「あー。言ってなかったかもー」

 ポールは呑気な性格だ。

「飛び級?」
 これまで大人しくしていたロゼが首を傾げた。

 ポールは、ショックしてしまった兄貴分のお二方は置いておき、『飛び級制度』の説明をした。

「……――戦前とは、多少――というか大分?――教育制度自体が変わってしまっているから……今の時代、個人に合わせて勉強スタイルを調整してくれるのは、当たり前だよ」

「……普通の俺らに向けて、それが言えるかあ?」

 エリオの嘆きに共感するようにダグラスは「ははは……」と乾いた笑いをした。

「別にエリオもダグラスも、普通じゃないと思うけどな」
 ポールは思ったままを言った。

「あーいいよいいよーっだ」
「気を遣われると、余計凹むだけだろ……」

 二人は完全に意気消沈してしまったようだ。
 
 ポールは素直に
「俺はただ……二人に『追いつけ追い越せ』精神でやってきただけだって」と打ち明けた。

「それでいうと、追い越してんだよなー。ああー!!」とエリオが吠えた。
「飛び級できる時点でね……」とダグラスが補足した。
「ええ~? だって、できちゃったからさあー」
「『勝手になった』みたく言うなあ!」

 彼らの話の半分も、ロゼには理解できなかったかもしれない。

 孤児院の外の世界、学校すらも行けていないロゼにとって、それは未知の世界で、良し悪しもわからない。衣食住も、学習も、院内で事足りる。
「十分に満足なはず、だったのに……何が、物足りないというのだろう?」
 頭の中に浮かんだ疑問を払拭したくて、思わず真下を向いた。
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