創発のバイナリ

ミズイロアシ@文と絵

文字の大きさ
上 下
15 / 49
第二部 前編

04 孤児院の外の世界

しおりを挟む
 
 
「それより、ポール。さっき、何か言いかけたんじゃない?」

 冷静なダグラスは思い出したようで言った。

「ん、なんの話だよ?」
というエリオの間の抜けた台詞を聞くと、それにも冷静に「お前が遮ったんだよ」と突っ込んだ。

「ギャーギャー、ギャーギャーと、雄鶏のように」と最後に付け加えなければ、相手も怒らずに済んだというのに。

「ああ? んだとぉ! ダグ……お前しつけぇんだよ。蛇かよってんだ!」

「ふぅ~ん? 言いたいことは、それだ……け?」

 甘い声からは考えられない程のどす黒い瞳に笑われると、エリオはメドゥーサに睨まれたかの如く苦い顔のまま固まって動かなくなった。

 隣に座るロゼには、エリオの変な顔しか見られないのも計算の内だろうか。

「ん。うふふ……それで?――ポール」
「ふぇ? あ~――」

 三人組の最年少にとっては、二人のこのようなじゃれ合いは慣れっこのようで淡々と、思い出しては
「――んー、うん。学年、一つ下だよって訂正したかったんだよねー」
と普通なことのように言った。

「え……――はああ~??」

 先輩二人は声を揃えて叫んだ。続けざまにエリオは「なんでなんでなんでぇ?」と言った。

 当の本人は「え~~? 飛び級したからだよ。それしか理由ないじゃーん」とゆったりとした口調で話した。

「だからなんで!――って、言ってんだよ! 俺知らなかったんだけど、ええ? ダグは知ってた?」
「知るかよ……聞いてない……」
「あー。言ってなかったかもー」

 ポールは呑気な性格だ。

「飛び級?」
 これまで大人しくしていたロゼが首を傾げた。

 ポールは、ショックしてしまった兄貴分のお二方は置いておき、『飛び級制度』の説明をした。

「……――戦前とは、多少――というか大分?――教育制度自体が変わってしまっているから……今の時代、個人に合わせて勉強スタイルを調整してくれるのは、当たり前だよ」

「……普通の俺らに向けて、それが言えるかあ?」

 エリオの嘆きに共感するようにダグラスは「ははは……」と乾いた笑いをした。

「別にエリオもダグラスも、普通じゃないと思うけどな」
 ポールは思ったままを言った。

「あーいいよいいよーっだ」
「気を遣われると、余計凹むだけだろ……」

 二人は完全に意気消沈してしまったようだ。
 
 ポールは素直に
「俺はただ……二人に『追いつけ追い越せ』精神でやってきただけだって」と打ち明けた。

「それでいうと、追い越してんだよなー。ああー!!」とエリオが吠えた。
「飛び級できる時点でね……」とダグラスが補足した。
「ええ~? だって、できちゃったからさあー」
「『勝手になった』みたく言うなあ!」

 彼らの話の半分も、ロゼには理解できなかったかもしれない。

 孤児院の外の世界、学校すらも行けていないロゼにとって、それは未知の世界で、良し悪しもわからない。衣食住も、学習も、院内で事足りる。
「十分に満足なはず、だったのに……何が、物足りないというのだろう?」
 頭の中に浮かんだ疑問を払拭したくて、思わず真下を向いた。
しおりを挟む
「創発のバイナリ」の続編、公開中です。
「IO--イオ」
◆あらすじ◆あれから五年の月日が経った。ロボットと人間、その境は徐々に曖昧に。ロゼと仲間らは「イオ」と名乗る青年ロボットと出会う。ロボットを取り巻く社会情勢の変化に彼らは立ち向かう!「IO--イオ」
感想 0

あなたにおすすめの小説

廃線隧道(ずいどう)  

morituna
SF
  18世紀末の明治時代に開通した蒸気機関車用のシャチホコ線は、単線だったため、1966年(昭和41)年に廃線になりました。  廃線の際に、レールや枕木は撤去されましたが、多数の隧道(ずいどう;トンネルのこと)は、そのまま残されました。   いつしか、これらの隧道は、雑草や木々の中に埋もれ、人々の記憶から忘れ去られました。  これらの廃線隧道は、時が止まった異世界の雰囲気が感じられると思われるため、俺は、廃線隧道の一つを探検することにした。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

感情を失った未来、少年が導く人間らしさを取り戻す冒険の旅

ことのは工房
SF
未来の地球は、技術が進化しすぎて人類の生活がほぼ全て機械によって管理されています。しかし、AIが支配する世界において、感情や創造性を失った人々は、日々の生活をただ無感動に繰り返すだけの存在となっています。そんな中、ある少年が目を覚まし、心に残る一つの奇妙な夢に導かれながら、未知の世界へと旅立つ決意を固めます。その旅の途中で、彼は「人間らしさ」を取り戻すための鍵を握る謎の存在と出会います。 この物語は、機械による支配と人間らしさを求める冒険を描き、AIと人間の関係性、感情、自由意志といったテーマを探求します。

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...