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第二部 前編
04 ロゼの大好物
しおりを挟む店内はスパイシーな香りで充満しており、匂いが食欲を刺激した。
テーブルを囲み、食事が運ばれてくるのを待つ間、四人は会話に花を咲かせていた。
「へえ、お兄さんたち高校生なんだ。思ったより若かったなあ」
ロゼは、大人だと思っていた彼らがまだ青年期真っ只中だったことに、聞いて驚いた。
彼女の向かい合わせに座るエリオは真隣を指さした。
「こいつは二学年下だけどな」
「へえ! 一番背高いのに」
少女の悪気ない一言にポールは困り顔で笑った。「一九〇くらいあるからね。それと――」
「一八九だろ! 一センチを盛るなっ!!」
透かさずエリオはキレ気味に訂正した。
ロゼは彼が何故怒っているのか理解不明だった。
「今から伸びねぇかな……あと一センチでいいから」と今度は嘆いている。
「一センチじゃ変わんねぇだろ」とダグラスが呟いた時だった。
舌打ちが聞こえて「一八〇センチ代は大台だろうが。一センチの差は大きいんだっ!」と、エリオは大声で怒った。
「はっ。小せぇヤツ……」
そんなに大台に乗ることが大事なのかと、喉の上まで言いかけて止めたダグラスだ。
「んなああ? 俺はお前よりは〝二センチ〟勝ってっからあ!!」
「なんで他人の背丈把握してんだよ。気持ち悪いんだけど」
「逆になんで気にしねぇの? 高い方がいいじゃん。舐められにくいっつーか」
「あーあ……そういうとこが〝小さい〟んだよ……」
「あと一センチ、一センチなんだよ……なー、俺の身長、夢の一八〇センチ、欲しかったな~……」
友人の醜態にげんなりした黒髪の青年は、隣の少女が話に置き去りにされているのを思い出した。
「ごめんね? こいつがうるさいのはいつものことだから、気にしないでね?」
「う、うん……?」
「ああ? ダグ!?」
彼は地獄耳なのか。向かい合わせの友人に再び吠えた。
「ほら、ねー?」ダグラスは友人にはそっぽ向いて、少女に呆れ顔を見せた。
エリオは目を細めて睨みつけ、視線を合わせない彼に怒りを覚えながら、それきり何も言わなかった。
ダグラスは流し目で、黙った彼を確認し喧嘩の矛を納めた。
「君の方こそ、十二歳なのにしっかり、肝が据わってるね」
と唐突にポールが発言した。
「そーかー? もっとチビかと思った」
エリオがつまらなそうに頬杖をついている。空いてる手の指でテーブルをタタンタタンと叩いた。
「チビ……」ロゼは目を丸くした。
身長は一五〇センチにも満たないので『小さい』のは自覚していた。面と向かって言われても、今更過ぎて何の感情も湧かない。
ところでエリオの言った『チビ』とは内面の話なのだが、少女には読み取るのが難しかったかもしれない。
「大丈夫、そんなことないよ。料理がでてくれば機嫌直すと思うから」
ダグラスは気を利かせて少女に微笑みかけた。
エリオは「うっせ」と小さく悪態をついた。
「ロゼはよく来るの?」
態度の悪い友人は無視して、会話を続けた。
「ううん。実は前より自由に外出できるようになって。理由を伝えれば外に出られるようになったの。だからそれから、外で食べる時はここにしようって決めたの。私カレー大好きだから!」
「へぇ。この国の人にしては珍しいよね」
「そうなの?」
「ん。カレー……しかもライスってね?」
「ダグの方が――」
機嫌を直したエリオが話に入った。
「親戚ん家のある国がカレーライス発祥の地じゃん?」
「そうなの!?」
ロゼは飛び上がりそうなくらい驚いた。羨ましいと目をキラキラさせた。
「発祥地とは違うよ……歴史的には、まあ……植民地から持って帰ったとか。でも俺、育ちはこっちだし、あんまり知らんのだけど?」
「え、そっち? てっきり母方のが発祥地だとばかり……ライスだし?」
「は? 違うだろ。コメ……ライスは主食らしいけどね?」
ロゼは話を聞きながら、カレーライスの歴史を知った。そして両親共にカレーライスとそれぞれ関わりの深い国の人、その子どもであるダグラスが羨ましく感じた。
「そんなに羨むことないと思うけど……ライスだって、こっちでも結構流行ってんじゃん」
さっきはライスが好きなのは珍しいと言ってこの調子だ。悪気は無さそうだ。彼の性格なのだろう。
「確かに」とポールがうんうん頷いている。
先に届いたラッシーが空になる勢いでストローを吸った。
「ジャポニスム? 世界中に結構馴染んでるよね?」
「ジャポニスムは古くね?」エリオは自分の記憶を探りながら言った。
「え? そうだっけ??」
ポールの天然発言に笑いが巻き起こった。四人の心がポカポカと温かくなった。
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