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第一部
01 世界の在り方
しおりを挟む西暦XXXX年 地球
人類繁栄により人間の領土は、地球の隅々まで広げられた。
しかしその結果、『業』と言った方が正しいか、地球の資源は食い尽くされ、残すところ僅かばかりになってしまった。
人々は資源を求めて世界を巻き込む大戦争を起こし、遂には全世界の人口は、戦前の約半分にまで減少した。
資源の枯渇までもう僅かだ。世界の寿命のカウントダウンが刻一刻と刻まれる最中、この星に救世主が現れた――。
「皆さん! 私が発明したヒューマノイドロボットを使ってください」
彼女の名はアマレティアという。科学者である。
独自の科学分野『アルケミープロジェクト』を立ち上げ、外見が人間そっくりのヒューマノイドロボットを世に生み出した。
バイオテクノロジーとロボットの夢の融合、地球のあらゆる環境に適応可能のスーパーマンの誕生だ。
「彼らは、あなたたち――我々人間の代わりに、労働者として輝いてみせることでしょう。
戦争で負った傷を癒しましょう。仕事から解放されましょう!
……そうです。人間はもう働かなくて良いのです。私が生み出した、こちら――
アスカデバイスが、
全てを、解決へ導くでしょう」
教壇に立つ彼女の瞳は黒々と、自信に満ち満ちていた。彼女は輝いていた。
聴衆は藁をも掴む心持で彼女の話に耳を傾ける。
「ヒューマノイドロボット・アスカデバイスに、石油や発電所の電気は一切必要ありません」
聴衆はざわついた。
「――水です。〝水〟さえ与えてやれば良いのです。水は無限です。さあ、皆さん幸せになりましょう! もう何も、考えなくて良いのです」
湧きたつ観衆、それは熱狂的な、ある意味宗教的な歓声だった。
人々はこぞってアスカデバイスを我が物にせんと手を伸ばした。一家に一台は当たり前、一人に対して一体を持つ家庭も少なくはない。
度重なる悲劇で人間の心は荒んでいた。人の温もりが恋しい。
特に『裏切られない、絶対の信頼』が欲しい。
愛がほしい。愛してほしい。
心の穴を埋めるようにひょいと現れたのが、このヒューマノイドロボット・アスカデバイスだ。
『人に寄り添うロボット』と銘打って、世界中瞬く間に普及した。
戦前から、ほとんどのライフラインが自動化された現代社会だ。
次世代の労働者は、何の疑いもされず、人々に広く受け入れられた。
「どうせ他のAIと同じだろう」くらいにしか思われなかった。
特に対人職種がアスカデバイスの得意分野だった。
例えば、看護師や介護士といった仕事だ。患者たちを、四六時中お世話してくれるスーパーマン的存在として重宝された。
嫌な顔一つせず、患者を機械的に看護、介護し続ける。
人間を介護鬱から救ってくれた。
畜産や農業も、アスカデバイスが担うことになった。動物相手や食物を育てるのに温かみを感じるからと、消費者からは大好評だった。
様々な職種がロボタイズされ、あれもロボタイズこれもロボタイズと頻繁に報道されると、いつしか複雑な名称よりも、聞き馴染ある「ロボット」と人々に呼ばれるようになった。
もっと親しみを込めて「ロボットさん」と呼称する人もいた。
他社製のロボットは昔から存在するものの、大衆はアマレティアのことを『ロボット創始者』と褒めたたえた。
彼女の造った『あなたの隣に、いつも』が宣伝文句のアスカデバイスは、もはやロボットの代名詞となった。
とはいえ、通称を唱える人の方が相変わらず少ない。正式名称を知らない人がほとんどだった。
そもそも個体それぞれが識別名を名乗っているので、自分たちもいちいち「人間です」と名乗らないのに、アスカデバイスという通称は初めから浸透するはずなかったのだ。
〝ロボットさん〟の需要は尚も増え続け、今や世界人口と並び立てるまでに個体数を増やしていった。
千差万別な彼らに一つ一つ名前を付けるのにもたいへん骨が折れそうだ。誠にアマレティア様様だ。
ロボットを所有することは良い事尽くめだと、誰もが思った。
今や人間は、アスカ……ロボットさん無しでは生きていけない頭と体になっていた。
人々は、そんな奇跡のロボットを生み出してくれた彼女に、感謝を忘れなかった。
ここに、救世主アマレティア神話が誕生した……。
孤児院に身を置く少女ロゼも所有者の一人だ。マキナというメイド型ロボットを貰い、孤児ながらも幸せに暮らしていた。
当初のロゼは気難しい性格の幼児で、マキナと出会うまでは、なかなか心を開かない(大人に云わせれば)『大変な子』であった。
四歳で両親共、戦争で失ったせいもあるのかもしれない。孤児院へ入って暫くロボットを取っ替え引っ替えするもので、大人たちは手を焼いていた。
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