働きアリの婚活

１１．働きアリの結末（２）

ナオトは仕事、睡眠、食事以外の時間、すべてをチェスに捧げるようになっていった。
対コンピューター、オンラインを通じた対人戦、とにかくチェスをやり続けていた。

そして、あることに気づく。
もっとチェスが強くなりたい。
子供の頃に憧れていた世界チャンピオンになりたいと。

その気持ちに気づいた夜、ナオトは両親と話をする。
今まで自分の気持ちに蓋をして生きてきたことを。
両親はその話を聞き、ナオトに告げた。
「一度きりの人生、好きなように生きなさい。子供のやりたいことを応援するのが親の務めだ。もっと親を頼っていいんだよ」
その言葉を聞いたナオトは、溢れ出す涙を止めることができなくなっていた。
翌日、ナオトは会社に退社の意向を告げた。
そして、寝食以外の時間をチェスの勉強に費やした。

3年後、ナオトはチェスのプロとしてヨーロッパへ渡りトーナメントに挑戦していた。
負けても失うものがないナオトは強かった。
勝ち続けることにプレッシャーを感じることもなく、ただ純粋にチェスを楽しんだ。
好きなことを仕事にすることに賛否両論あるだろうが、ナオトにとってチェスはまさに天職であった。
連戦連勝を重ね、気づけばチャンピオンにまで上り詰めていた。

日本人初のチェスチャンピオンとしてインタビューを受け、テレビで特集されることもあった。
女性から声を掛けられる機会も何度かあった。
思えば結婚に至るチャンスがもあったのかもしれないが、目もくれずにチェスに没頭した。