【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~

みなみなと

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魔獣激戦

垣間見た戦士【後編】

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 最短距離を狙い。且つ必要最低限の魔獣を、勢いの乗った剣で切り伏せる。肉は容易く断てたとしても、だが、やはり骨は硬い。手に伝わる衝撃は普段の倍だ。振るえば振るうだけ握力はたちまちに著しく低下し、剣は手元から地に落ちる。

 普通ならば連撃に向かない雷吼ではあるが、それを補うのはシリウスの研鑽と経験だ。

「貴方は……シリウスさん」

 別段焦った様子も、救済により垣間見た希望に声を震わすことも無く。実に冷静な面持ちで、ヤクモはそう言った。

「てめぇ、こんな所で何やってんだよ」
  
 シリウスは隣に立つのではなく、背をヤクモと合わせる。これは死角を奪われない為だ。

「俺は鍛錬を」
「鍛錬……ってお前」

 こんなのは鍛錬の域を逸脱している。魔獣と戦う事で剣術を磨くのは当たり前ではあるが。背後に居る男は、この辺り一帯の現状を知りながら、一人で外に出て鍛錬をしているのだ。

 頭がいかれているとしか思えない。

「はい。二刀流の。初めての試みなので、練習しないと」
「馬鹿か。お前の剣はもう使い物にならねぇだろ?自分の命を無駄にするな。此処は一先ず撤た──」

 シリウスの声をヤクモが振るう刀の音と魔獣の断末魔が遮る。

「すみません、まだ納得がいかないのでこの場から離れる訳には」
「納得ッて……お前、何を考えてんだよ」
「皆さんは各々、役割があり果たすべき任があります。ですが、俺はない。なら、個でも戦力になるだけの技術を磨く必要があるんです」

 背を合わせ、顔が見えずとも分かる。それは正に漢の覚悟だ。

 ならば、これ以上シリウスが何かをいう権利はなにもない。

「わかったよ」

 剣を構えたシリウスはヤクモに付き合うと決める。

「そん代わり、無理はするな」
「はい」
狂乱必死デス・パレードは、広まる。戦いが長引けば長引く程、数を増やす」
「分かりました」
「じゃあ、行くぞ!!」

 気合いを乗せた声を轟かせ、シリウスは眼前の魔獣に斬り掛かる。

「……武技・乱刃らんは!」


【乱刃】
 不規則な軌道を描き、敵を数手に渡る斬撃で斬り伏せる。体の柔軟さと素早さを活かした武技であり、シリウスの得意とする技だ。

 この武技を以てすれば、反射神経の比較的高い狼種も逃げる事は困難。

「ぐるぐがぁぁぁ?!」

 シリウスにはその他にも洞察力が長けていた。故に、不規則であったとしても的確に動脈を断ち切り、少しの負担で大きな結果を残す。

 理解ができないであろう、魔獣が腱を断たれ、動脈を斬られ身動きが取れないまま死に伏して逝く。だが、それでも次から次へと魔獣がわらわらやって来ては牙をむける。

 ──これじゃあ、剣の斬れ味が。

「ヤクモ、てめぇは大丈夫か?」

 そういって視線を目の前から外したりシリウスは、ヤクモの動きに言葉を失う。

 何が初めての試みだ。しっかりと型になってるし。なによりも、一つ一つの動作がしなやかであり、力強い。一太刀振るえば、鋭い音が空を裂き骨を断つ。二太刀目で二体の魔獣は胴体を貫き割いた。しかも、それは回数を増す毎により一層の力を発揮してゆく。

 勇猛と呼ぶには余りある姿は、シリウスの心を強く動かした。

 絶え間なく振り下ろし振り上げられる斬撃は、隙がなく。だが、そこに我武者羅という言葉は無い。馴染んだ動きであり、違和感が一切なかった。

 ──武技も使わずに此処までとは。

 返答もしないヤクモは、まるで自分の世界に入っているようだった。

「……なら、俺は背を任せ目の前に専念しよう」
「グガァァァァ!!」
「うるせぇ……なっ!!」

 迫り来る怒涛の猛攻をいなして、的確に殺して行く中で斬れ味が衰えて行くのを感じる。

「はあはあ……」

 残りは六体程度か。よりにもよって、皮膚が硬いオーガとはな。

 握力も限界に近い。肩も不規則に上下し、呼吸も上手く出来なくなっていた。ゆうに三十体は倒しただろうか。散らばる死屍累々をぺちゃりと、その大きな足で踏み潰してオーガは、大腕を振り上げる。

 けして早くはない攻撃は、躱すに容易いが今の陣形が崩れてしまう。ならば、何としてでも受け切り、攻撃に転じなくては。

 息をのみ、鋭い眼光に命の灯火を宿してシリウスは剣の柄を強く握る。

「来やがれノロマ。武技──」
「シリウスさん!屈んでください!!」
「ッ!?」

 咄嗟に屈んだ刹那、振り上げられた大腕。

「ぐるぁぁぁぁあがぁぁあ!!」
「うらぁぁあ!!」

 空を遮り、ヤクモはなんとオーガの首元に刃を突き刺し切り裂いた。だが、そんな事をしては後方が。

「全滅してるだと……?」
「あとは俺が一人で!!」
「一人って……オーガだぞ!?」

「──シリウスさん、俺を信じてください」と、背中を見せて剣と刀を斜に構える青年は言った。

 数多の魔獣の骨を断ちながらも、しかし刃こぼれ一つない刃を日に煌めかせながら。

「……分かった。俺の剣も限界に近い。後は任せた」
「ありがとうございます」

 強敵を前にして感謝をする神経はイマイチ理解は出来ないが、息ひとつ乱さないヤクモの姿を見ていると、難なく終わらせてしまいそうな──そんな感じがしてならない。

「速攻……終わらせる!!」

 剣を抜き、次のオーガに特攻。遅れてきた突風がシリウスの髪を後ろへ靡かせる。

 雷吼を使わずに、ここまで素早い動きが出来るのか。寧ろ、雷吼を使ったシリウスの動きよりも早いかもしれない。

 ヤクモ──彼は一体何者なんだろうか。

 硬い皮膚をいとも簡単に切り裂き、心臓を突き刺したかと思えば、両方の武器で振り上げて腹から頭まで裂いてみせる。

 動きは遅いオーガだとしても、ここまで圧倒してみせるのは、疲労が一切ないシリウスでも難しいかもしれない。

 攻撃をする暇を一切与えない、二刀流の連撃。まだ目で終える速さではあるが、ヤクモの鍛錬次第では近いうちに捉えるのが不可能になるかもしれない。

 それほどまでに彼の実力は素晴らしいものだった。
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