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外伝
条件
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仲間が次々に倒れ、夢と共に眠りにつく。それでもカルマは膝を折る訳にはいかなかった。
団長だと言ってくれた者のため。師だと慕ってくれた者のため。国で愛する者達と平和を願う者のため。
「団長!これ以上はもう!!」
「分かっている!だが……ッ!!」
眼前に迫る猛威は、勢い衰える事がない。地鳴りは焦りを与え、怒号が轟き震える空気は恐怖を振り撒く。
この劣勢を覆すには──
───────────────────────────
カルマは鋒矢の陣(弓の形状を生した陣形)を組むと、魔獣軍の一点突破を試みる。愚行にも思われそうだが、無謀ではない。
単騎偵察を頼んだリュカが相手の指揮官・奇才のザルバを発見したのだ。
運がいいのか悪いのか、魔竜陣営は他の魔獣陣営と対峙しておりこちらに姿は無い。この機に乗じる他、活路は見当たらない。
カルマ達はリュカが上空で先導するのを見ながら後を追った。
そして──
「カルマよ。お主には多大な恩がある。何か一つ、願いはあるか?」
王都・ヘリヤル。その宮廷、謁見の間にて国王・グランド=フォルカスの威厳足る声が響いたのは、殿を担ってから一週間後の事だった。
あの後、指揮官であるザルバを討伐し、陣形が崩れた魔獣軍は一時撤退。今は、三国で平和条約を結ぶ話を進めてるらしい。
カルマ達がとった決死の行動は今、世界を少しいい方向に進めていた。
「では、俺の方から一つだけ」
膝をつき、頭を下げたままカルマは言う。
「処分対象だった魔人を引き取らせてください」
生き残ったのは九名。彼等は人類の脅威になるとされ、戦いが終わればどの道、処分される運命だった。
「何を言ってらっしゃるのですか??カルマ殿」
驚いた様子で声を上げたのは──
「テネブラエ教皇、そう怒鳴るでない」
テネブラエ教皇。女神・エミルを讃え、神の教えを説者であり、王族の次に発言権を有した老爺だ。白い法衣服を纏い、首からは蛇が巻きついた剣の首飾りを下げている。
「私は反対だった。邪神の血を潔白足る人の血と混ぜるなぞ。良いか?奴らは人間じゃない。今すぐ処刑すべきだ」
カルマは顔をあげ、教皇ではなく王のみを見つめていった。
「もし仮に、彼らが悪事を働けばこの手で俺が罰を与えます。リュカ・イルベ・ザックス・フォルタ・エスタ・シリカ・エテルペ・ライラ・ジュードは、未だ子供。これから色々、学ばなくてはならないんです」
「言わんこっちゃない。私は言っていたはずですよ?彼等は道具であり人じゃない。名前を付ける必要がないと」
腹が立つ。カルマは最初からこの教職者が好きじゃなかった。何かと言えば、神神神神と。全ては神の為にと。自分の選択は無い。神に縋った弱者だ。
「俺は彼らと一緒に孤児院を営みたいとおもっております」
「孤児院とな」
「はい」
「なるほどのう」
「一つ、我から条件がある」と、長く伸びた顎髭を指で撫で付けながら、言う。
「何でしょうか」
「国民にカルマ達の部隊は公言しない。混乱を招きかねないからな。だから、白鯨騎士団・団長として凱旋に出て欲しい。加えて、人に魔人である事を明かしてはならない。魔人は存在しなかった。その条件が呑めるなら、孤児院の件は前向きに考えよう」
「お言葉ですが、あの戦いは俺一人ではなし得なかったものです。彼等を無きものにするなら、俺も名誉は要りません。他の誰かにでも上げてやってください」
「お前!!カルマ!!民兵上がりの癖に、何を生意気な!」
語気を荒げる大臣に王は「黙れ」と一喝。
「本当にそれでよいのだな?」
「構いません。リュカ達がこの先も平穏で暮らせるなら」
団長だと言ってくれた者のため。師だと慕ってくれた者のため。国で愛する者達と平和を願う者のため。
「団長!これ以上はもう!!」
「分かっている!だが……ッ!!」
眼前に迫る猛威は、勢い衰える事がない。地鳴りは焦りを与え、怒号が轟き震える空気は恐怖を振り撒く。
この劣勢を覆すには──
───────────────────────────
カルマは鋒矢の陣(弓の形状を生した陣形)を組むと、魔獣軍の一点突破を試みる。愚行にも思われそうだが、無謀ではない。
単騎偵察を頼んだリュカが相手の指揮官・奇才のザルバを発見したのだ。
運がいいのか悪いのか、魔竜陣営は他の魔獣陣営と対峙しておりこちらに姿は無い。この機に乗じる他、活路は見当たらない。
カルマ達はリュカが上空で先導するのを見ながら後を追った。
そして──
「カルマよ。お主には多大な恩がある。何か一つ、願いはあるか?」
王都・ヘリヤル。その宮廷、謁見の間にて国王・グランド=フォルカスの威厳足る声が響いたのは、殿を担ってから一週間後の事だった。
あの後、指揮官であるザルバを討伐し、陣形が崩れた魔獣軍は一時撤退。今は、三国で平和条約を結ぶ話を進めてるらしい。
カルマ達がとった決死の行動は今、世界を少しいい方向に進めていた。
「では、俺の方から一つだけ」
膝をつき、頭を下げたままカルマは言う。
「処分対象だった魔人を引き取らせてください」
生き残ったのは九名。彼等は人類の脅威になるとされ、戦いが終わればどの道、処分される運命だった。
「何を言ってらっしゃるのですか??カルマ殿」
驚いた様子で声を上げたのは──
「テネブラエ教皇、そう怒鳴るでない」
テネブラエ教皇。女神・エミルを讃え、神の教えを説者であり、王族の次に発言権を有した老爺だ。白い法衣服を纏い、首からは蛇が巻きついた剣の首飾りを下げている。
「私は反対だった。邪神の血を潔白足る人の血と混ぜるなぞ。良いか?奴らは人間じゃない。今すぐ処刑すべきだ」
カルマは顔をあげ、教皇ではなく王のみを見つめていった。
「もし仮に、彼らが悪事を働けばこの手で俺が罰を与えます。リュカ・イルベ・ザックス・フォルタ・エスタ・シリカ・エテルペ・ライラ・ジュードは、未だ子供。これから色々、学ばなくてはならないんです」
「言わんこっちゃない。私は言っていたはずですよ?彼等は道具であり人じゃない。名前を付ける必要がないと」
腹が立つ。カルマは最初からこの教職者が好きじゃなかった。何かと言えば、神神神神と。全ては神の為にと。自分の選択は無い。神に縋った弱者だ。
「俺は彼らと一緒に孤児院を営みたいとおもっております」
「孤児院とな」
「はい」
「なるほどのう」
「一つ、我から条件がある」と、長く伸びた顎髭を指で撫で付けながら、言う。
「何でしょうか」
「国民にカルマ達の部隊は公言しない。混乱を招きかねないからな。だから、白鯨騎士団・団長として凱旋に出て欲しい。加えて、人に魔人である事を明かしてはならない。魔人は存在しなかった。その条件が呑めるなら、孤児院の件は前向きに考えよう」
「お言葉ですが、あの戦いは俺一人ではなし得なかったものです。彼等を無きものにするなら、俺も名誉は要りません。他の誰かにでも上げてやってください」
「お前!!カルマ!!民兵上がりの癖に、何を生意気な!」
語気を荒げる大臣に王は「黙れ」と一喝。
「本当にそれでよいのだな?」
「構いません。リュカ達がこの先も平穏で暮らせるなら」
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