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謎の少女
刀鍛冶師のリスタート
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歯を食いしばり目を閉じて、ヤクモは辿り着くのをひたすらにまった。
「ほれ、もう着くぞ」
リュカの声がしっかりと聞こえたのは、辺りの景色がちゃんと一望出来た頃だった。
「んぁ……おぉ」
本来ならこの広大な景色に息をのみ、感慨深い何かを感じるべきなのだろう。しかし残念ながら、今のヤクモには一切の余裕がなかった。かなりの高度だし、宙ぶらりんになった足から伝わる妙な浮遊感がとてつもなく怖い。
そんなこんなで、着陸したのは良いものの産まれたての小鹿並に膝はガクガクと震えてしまっていた。出来る事なら隠して、男の余裕を見せたい所だが──
「……プッ」
と言う事で、耳は赤く染まる訳だが、割愛。二人は今、表通りを抜け商業地区へと足を踏み入れ、ヤクモの家の前に来ていた。
「な、なんだよ……これ」
工場と家の扉や壁には、立退きの張り紙が何十枚と貼られていた。
「おお、ヤクモ」
扉から出てきたのは黒いスーツを着た男──クザだった。
「これは、どういうことですか!?」
「約束を破ったお前が悪いだろ」
「そんな……そんな……こんなのあんまりですよ!!」と、ヤクモはクザの腕に縋り付く。
「うるせぇよ!!」
強引に振り払い、尻餅をつくヤクモを見下してクザは、悪意を込めて口にした。
「全部、お前の父親がわりぃーんだよ。良いか?此処にお前の居場所はねぇ。さっさと、この街から消えやがれ」
「そんな……クザさん……」
クザは今まで、確かに口や態度は悪かったが──それでも強引に巻き上げる事なんかしなかった。それが何故今になって。
仲間には裏切られ、魔獣には殺されかけ、大切なものすらも守れない。
力無くその場にへたり込んだヤクモの前にリュカは立つ。
「お主……クザと言ったか?」
「あ?誰だ、お嬢ちゃん」
「下の名前はなんて言う?」
「そんなん聞いてなにになるんだ?」
「よいから、言ってみろ。金が欲しいんじゃろ?エミル金貨、一枚でどうじゃ」
そう言ってリュカが、後ろのポケットから金貨を一枚取り出すと舌打ちをしながらもクザは答える。
「クザ=ヴェイグだ」
「ふむ……なるほどの。あの小童がのぅ」
「あ?あんまり大人を揶揄うなよ、ちび」
「今日支払わなくちゃいけない額を、わっちが払う」
「駄目だ。約束を破っちゃポリシーに反する」
このままでは二人が喧嘩してしまう。元はと言えば、約束を守れなかった自分が悪い。元はと言えば、父親が借金をするのが悪い。この二人がいがみ合う必要はない。
ヤクモはどうにか立ち上がり、リュカの肩に手を添えて引く。
「もういい。ありがとう、リュカ」
「じゃが……」
「決心がついたようだな」
「はい。今まで迷惑かけてすみませんでした」
頭を下げる。震えた唇を噛み締め、今にも咽び泣きそうな精神に楔を打ち込み、拳を強く握った。
「少年……」
「行こう、リュカ」
沢山の思い出があった。父の刀を打つ姿を見て、憧れを抱いた事がきっかけでなった刀鍛冶。お金がないなりに祝ってくれた誕生日。一緒に散策に出掛けたこと。派手な事はした事なかったけれど、た人よりひもじい生活だったかもしれないけど。でも、それでも幸せだった。
父がいつかは帰ってくるんじゃないか。そんな期待を未だに捨てきれず──だけど、もう。
踵を返すヤクモにクザは単調に言葉を投げかける。
「おい」
「はい、なんですか」
「家を売り払うにあたって、余るであろう金だ。持ってけ」
リュカから貰った金貨を袋に入れると、投げつけるのではなく近寄り、クザはしっかりと手渡した。
「強く生きろよ」
「ありがとう……ございます」
ここからの事はあまり覚えていない。気がついた時、ヤクモはあの教会に戻り、椅子に座っていたのだ。
「少年、お前さんはわっちに言いおったよな?」
「……」
「じゃから、それを今使う」
「…………なにかな」
投げやりであり、覇気のない声。情けないのもわかる。でも、どうしようもない感情が頭をグルグル回って、ヤクモの思考を苛む。
「これからは、わっちと共に人生を進むんじゃ」と、両肩を掴み、リュカは元気よく言った。
「共にって……」
「お前さんは、全てを失った。そうじゃろ?」
「俺のせいでね」
「家なんか買い戻せばよい!お前さんは、今日から生まれ変わるんじゃ。全てを失い、どん底に落ちた者は強いんじゃよ。這い上がるだけなんじゃ。じゃから、めげるでない。視線を伏せては前に進めぬ──」
「……少年!!前を見よ。そこにあるのは壁なんかじゃない。お前さんにしか歩めぬ未来が待っておる!!」
ヤクモは家に縋っていた。家を守ると言う行動が、生きる目的であり、故に借金を支払う為に生きてきた。
何もかもなくなって、何をすべきか。ヤクモにはもう分からなかった。
「お前さんの親は……カルマ=アルクルは、そんな弱く育てては居ないはずじゃ!!」
「な……なんで、父さんの名前を」
「わっちの師であり恩人じゃからじゃ。で、どうするんじゃ?わっちと共に行くか、膝を抱え前に進まぬか」
「俺は……」
「これは、少年の少年だけの物語じゃ」
「分かった。行くよ、俺。過去ではなく前を見よう。俺にしか出来ない事が必ずあるはずだから」
「ほれ、もう着くぞ」
リュカの声がしっかりと聞こえたのは、辺りの景色がちゃんと一望出来た頃だった。
「んぁ……おぉ」
本来ならこの広大な景色に息をのみ、感慨深い何かを感じるべきなのだろう。しかし残念ながら、今のヤクモには一切の余裕がなかった。かなりの高度だし、宙ぶらりんになった足から伝わる妙な浮遊感がとてつもなく怖い。
そんなこんなで、着陸したのは良いものの産まれたての小鹿並に膝はガクガクと震えてしまっていた。出来る事なら隠して、男の余裕を見せたい所だが──
「……プッ」
と言う事で、耳は赤く染まる訳だが、割愛。二人は今、表通りを抜け商業地区へと足を踏み入れ、ヤクモの家の前に来ていた。
「な、なんだよ……これ」
工場と家の扉や壁には、立退きの張り紙が何十枚と貼られていた。
「おお、ヤクモ」
扉から出てきたのは黒いスーツを着た男──クザだった。
「これは、どういうことですか!?」
「約束を破ったお前が悪いだろ」
「そんな……そんな……こんなのあんまりですよ!!」と、ヤクモはクザの腕に縋り付く。
「うるせぇよ!!」
強引に振り払い、尻餅をつくヤクモを見下してクザは、悪意を込めて口にした。
「全部、お前の父親がわりぃーんだよ。良いか?此処にお前の居場所はねぇ。さっさと、この街から消えやがれ」
「そんな……クザさん……」
クザは今まで、確かに口や態度は悪かったが──それでも強引に巻き上げる事なんかしなかった。それが何故今になって。
仲間には裏切られ、魔獣には殺されかけ、大切なものすらも守れない。
力無くその場にへたり込んだヤクモの前にリュカは立つ。
「お主……クザと言ったか?」
「あ?誰だ、お嬢ちゃん」
「下の名前はなんて言う?」
「そんなん聞いてなにになるんだ?」
「よいから、言ってみろ。金が欲しいんじゃろ?エミル金貨、一枚でどうじゃ」
そう言ってリュカが、後ろのポケットから金貨を一枚取り出すと舌打ちをしながらもクザは答える。
「クザ=ヴェイグだ」
「ふむ……なるほどの。あの小童がのぅ」
「あ?あんまり大人を揶揄うなよ、ちび」
「今日支払わなくちゃいけない額を、わっちが払う」
「駄目だ。約束を破っちゃポリシーに反する」
このままでは二人が喧嘩してしまう。元はと言えば、約束を守れなかった自分が悪い。元はと言えば、父親が借金をするのが悪い。この二人がいがみ合う必要はない。
ヤクモはどうにか立ち上がり、リュカの肩に手を添えて引く。
「もういい。ありがとう、リュカ」
「じゃが……」
「決心がついたようだな」
「はい。今まで迷惑かけてすみませんでした」
頭を下げる。震えた唇を噛み締め、今にも咽び泣きそうな精神に楔を打ち込み、拳を強く握った。
「少年……」
「行こう、リュカ」
沢山の思い出があった。父の刀を打つ姿を見て、憧れを抱いた事がきっかけでなった刀鍛冶。お金がないなりに祝ってくれた誕生日。一緒に散策に出掛けたこと。派手な事はした事なかったけれど、た人よりひもじい生活だったかもしれないけど。でも、それでも幸せだった。
父がいつかは帰ってくるんじゃないか。そんな期待を未だに捨てきれず──だけど、もう。
踵を返すヤクモにクザは単調に言葉を投げかける。
「おい」
「はい、なんですか」
「家を売り払うにあたって、余るであろう金だ。持ってけ」
リュカから貰った金貨を袋に入れると、投げつけるのではなく近寄り、クザはしっかりと手渡した。
「強く生きろよ」
「ありがとう……ございます」
ここからの事はあまり覚えていない。気がついた時、ヤクモはあの教会に戻り、椅子に座っていたのだ。
「少年、お前さんはわっちに言いおったよな?」
「……」
「じゃから、それを今使う」
「…………なにかな」
投げやりであり、覇気のない声。情けないのもわかる。でも、どうしようもない感情が頭をグルグル回って、ヤクモの思考を苛む。
「これからは、わっちと共に人生を進むんじゃ」と、両肩を掴み、リュカは元気よく言った。
「共にって……」
「お前さんは、全てを失った。そうじゃろ?」
「俺のせいでね」
「家なんか買い戻せばよい!お前さんは、今日から生まれ変わるんじゃ。全てを失い、どん底に落ちた者は強いんじゃよ。這い上がるだけなんじゃ。じゃから、めげるでない。視線を伏せては前に進めぬ──」
「……少年!!前を見よ。そこにあるのは壁なんかじゃない。お前さんにしか歩めぬ未来が待っておる!!」
ヤクモは家に縋っていた。家を守ると言う行動が、生きる目的であり、故に借金を支払う為に生きてきた。
何もかもなくなって、何をすべきか。ヤクモにはもう分からなかった。
「お前さんの親は……カルマ=アルクルは、そんな弱く育てては居ないはずじゃ!!」
「な……なんで、父さんの名前を」
「わっちの師であり恩人じゃからじゃ。で、どうするんじゃ?わっちと共に行くか、膝を抱え前に進まぬか」
「俺は……」
「これは、少年の少年だけの物語じゃ」
「分かった。行くよ、俺。過去ではなく前を見よう。俺にしか出来ない事が必ずあるはずだから」
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