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謎の少女

報復には報復を

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 ──さて、と。

 リュカは横たわるヤクモを確認してから、外へと出た。空は茜に焼け、涼やかな風が迫る夜を教える。

 これからリュカが行うのは身勝手な正義だ。それでも罪悪感は一切ない。相手が人間だからか、あるいはクズだからか。今となってはどうでもいい理由・・だ。

 彼等三人が向かった方角は、ザザン。ここら一帯を治める領主・クザンの屋敷がある大型の街であり、冒険者ギルドがある場所。

「じゃあ、行くとするかのぅ」

 リュカは屈むと、背中に全神経を集中させた。血の巡り、筋肉の動き、魔力・気の流れ。

「換装・エアリア」

 そう言葉を紡げば、背中からは翼が顕現。リュカは魔竜のDNAを組み込まれた人間──魔人だ。
 空を仰ぎ見、翼を翻して突風を起こし飛翔する。けたたましい音が耳に残る中、空へ浮かぶリュカは先で明かりが灯る街を見た。

「ここからなら、全速力で向かえば二十分弱ってところかのう」

 体を水平にすると、一気に進んだ。景色が線になるほどのスピードは、鳥等を次次に追い越してゆく。そして眼前に迫るザザンは、至る所から煙が立ち上がっている。

 リュカは、人気のない場所に降りると──

「内包」

 翼が粒子となり消えると同時に備え付けのフードを深く被った。とは言え、ザザンに来るのは初めてではない。寧ろ、あの場で寝泊まりしている目的は、ここにあると言っても過言ではなかった。

 リュカは足早に街に入ると、出店などにも目をくれずギルドを目指す。彼女にとって、街の賑わいは喧騒でしかなく嫌悪そのものだった。

「ここじゃな」

 目の前で堂々構える巨大な扉。リュカは何食わぬ顔で扉を開けた。酒場とギルドが同じ場所の為か、ガヤガヤした音とアルコールと油の臭いが眉間に皺を寄らせる。

 何がそんなに楽しいのか。何でこんなに楽しめるのか。

 ──不快だ。

 リュカは視線を伏せ、受付のあるカウンターまで向かう。そこで待つ一人の女性に対し口を開く。

「ヤクモ=アルクルの知人じゃ」

 すると、何かを察したかのように女性は表情を引き攣らせた。

「ヤクモさんの……この度は──」
「ヤクモと同じギルドメンバーが来てるはずなんじゃが」
「それなら」と、送る視線の先に彼等はいた。顔を赤く染め、他の冒険者達の机に並んでる以上に豪勢な食を並べて。

 リュカは頭を下げると、ブーツの音に怒りを隠しテーブルの前に立つ。

「なんだいお嬢ちゃん」

 虚ろな目で男は馴れ馴れしく語りかける。

「…………ヤクモ=アルクル」
「ああ、アイツねぇ。本当にお気の毒だよ」
「そうよね。わざわざ敵が居る場所に勝手に行くなんて」
「制止を振り切って、報酬の為に……欲に塗れた奴だったよ」

 ──なるほど。

「つまり、奴は勝手に命令を無視して魔獣に挑んだと。元々、欲望に従順で人の言う事をいっさい聞かない奴じゃったって事、じゃな?」
「ん?ああ。そんな所だ。んで、死んだヤクモに何か用か?」
「ちょっ! イーバ!! ぷぷぷ」

 酒を呑んで高揚してるのか、三人は仲間の死をネタに笑っている。──いいや。

「元々仲間じゃなかったんじゃろうな。いい事を教えてやろう。ヤクモは生きておる。あの死地を乗り切り復讐の劫火に身を燃やしておるわ」
「何かと思えば、そんなハッタリ」
「わっちがなぜ、お前達を見つけ出すことができたと思う?顔見知りでもない……知りたくもないお前達を。聞いたからじゃよ」
「聞いたって何を」
「全てじゃよ。お前達がヤクモにした仕打ちをな」

 三人が蔑視と敵意をリュカに向ける。

「ちょっと外でお話しようか」
「ふむ。わっちも鼻っからそのつもりじゃったからの。都合がよいわ」

 四人はザザンの外。加えて、人気のない暗がりに移動をした。直後、イーバと呼ばれていた男は、剣を抜いてリュカに向ける。

「んで、ヤクモは何処にいる?」 
「おーおー盛っておるのぉ」
「御託はいい。何処に居るんだって聞いてんだよ」
「聞いてどうする? 謝りにいくのかの?」
「お前は全てを聞いてるといったな」

 血走った目でイーバはリュカを睨み付ける。気が立った様子を見せる男の呼吸は荒く、沸点が近い事が窺えた。リュカは知りながら、尚もおどけた態度を三人に見せつける。

「そうじゃが?」
「ならお前と一緒の場所に送りつけてやる」
「ふむ? わっちと同じ場所──とな?」
「イーバ、コイツふざけてるわ」
「だな。どうせお前の死は決まってる。なら痛め付け無理やり吐いてもらう」
「ふむ……」

 こめかみをポリポリかくリュカを横目に、イーバは猛る。

「恨むんだったら、話したやつを恨むんだなあ!!」

 若干可視化された気を纏った剣をイーバは、リュカ目掛け容赦なく振り下ろした。だが──なんだ、この遅さは。この弱さは。間合いを詰めすぎだし、その割に剣は大振りだし。
 洞察力に長けているものなら、イーバの攻撃を見切り躱すなんて造作もないだろう。

 けれど避けてしまえば面白くない。

「ふぁあーあ」
「なっ……?」
「ちょ! イーバ、なに手加減してんのよ! 片手で受け止められてるじゃないの!!」
「んあ?なんじゃ?今のは手加減じゃったか。ならほれ、全力で攻撃してくるがよい」

 そう言って指先で押さえた刃を離した。
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