【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~

みなみなと

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謎の少女

死を運ぶ狼

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 黒い毛並み真っ赤な瞳孔、鋭い牙に鋭利であろう剥き出しになった爪を持つ魔獣──死を運ぶ狼ヘルハウンド

 十体程度構成された群れは、ずば抜けた統率力を誇ると言われている。

「グルァァァァア!!」

 武技も扱えないヤクモが出来るのは、純粋な剣術。未だに動揺はしているが、深呼吸で誤魔化し今ある現状の打開につとめる。

「ふぅ……」

 目の前に居るのは八体。少々少ない気はするが、少ないに越した事がないのも事実。精神を統一し、一気にヤクモは踵を返し走る。背を向けた事により、ヘルハウンドは一斉に襲いかかった。

 唸り声が無数の足音と共に徐々に近づいてくる。死へと運ぶ地獄の声が。それでもがむしゃらに一心不乱にヤクモは走る。

「此処ならッ……!!」

 無謀にも思えた逃亡、無策に見える愚行──しかし、ヤクモにとってその行動の先にある結果こそが、死中に活だった。巨大な大木、それを背に刀を構える。

 父に教わった多勢に対しての戦い方。背中とは大きな隙になる。ならば、壁に背中を預ける。そうすれば、敵は視界の範囲内でしか攻撃が出来ない。

「グルルル……」

 八体のヘルハウンドは、刀の間合いギリギリをうろつく。まったく諦める気がない。むしろ、狩り方を考えているのだろう。緊迫した時間を割いたのは、一体の遠吠えだった。

 耳を塞ぎたくなるような遠吠えに、片目をすがめた矢先、二体のヘルハウンドが左右に分かれ一斉に飛びかかる。

「クソッ!!」

 ヤクモは右から飛びかかる一体に刀を振り下ろす。切れ味の鋭い刀身は、骨すらすんなりと断ち切る程だった。

 しかし、胴と頭が離れ血が噴き出す瞬間には、ヤクモの足が噛み付かれ、肉に鋭い牙が入り込み、激しい痛みが襲う。

「アガっ……」

 言葉に出来ない痛みに顔を顰めながら、それでも刀を力強く掴みヘルハウンドの脳天と地面を縫い付ける。

 だが、ヘルハウンドの猛攻は止まらない。真正面を向いていた筈のヤクモは、徐々に体が左へ右へ向き始め、無くしたかった死角が現れ始める。

 五体のヘルハウンドを討伐した時には既に、大木から体は離れていた。

「ゼェ……ゼェ……」

 ヤクモの着ている袴は劣化無効により、無傷。だが、着ているヤクモ自身のダメージは計り知れないものだった。

 ──だけど、残りは三体。こいつらさえ倒せば、生きれる。

 ヤクモは、歯を食いしばり一体に向けて突進。敢えて隙を作り、二体を誘導。

 飛び掛るタイミングを見計らい、刀を振り下ろし両断。残り一匹が逃げるのを確認してから、刀を地面にさして支えに立つ。

 ──勝った。終わったのだ。生き残れたのだ。

 体はボロボロ。四肢は未だに震え。アドレナリンすらも凌駕する痛みが全身を這う。

「はぁ……はぁ……」

 その場に座り込み、体力の回復に──

「俺のリュックが、ない」

 投げられた時に奪われたのだろうか。ならこの状態で帰るしかない。

「……グッ」

 震えた膝に力を入れるがまだ立てない。早く帰らなくては。日が落ちてしまえば、生還は難しい。早く、早く。

「……ッ!?」

 焦るヤクモを突き刺す殺意の宿った眼光。それは、茂った木々の間から向けらたものだった。

「嘘……だろ?」

 姿を表したのは、十体のヘルハウンド。内、一体は他の個体と異なり大きい。ヤクモは一目で奴が、この群れのリーダーだと理解した。

 つまり、さっき倒したヘルハウンドは群れの一部に過ぎなかったって事。そして、あの遠吠えは、仲間を呼ぶものだった。策を講じ有利に立ってたはずが、逆に策の術中にハマっていたのだ。

 ──声が聴こえる。

 破れかかった鼓膜が微かに捉える醜悪でおぞましい唸り声。朦朧とした意識の中、掠れた視界に写るヘルハウンド達は、鋭い眼光を向けている。

 もう逃げる余力も当然、ヤクモにはなかった。十分に戦ったのだ。物語るように、辺りには魔獣の死骸が幾つも転がっている。

「はあ……はあ……」

 息を整えたくても、折れた肋が肺に傷を負わせてる為に出来ない。吐血は止まらず。そして必然的に陥る酸欠がヤクモを正常な判断から遠ざける。

 ふと視界に入ったのは地面に刺さった一本の刀。ヤクモの固有スキル・劣化無効クレーロスにより、激闘を繰り広げて尚、刃こぼれ一つない鋭利で且つ芸術的な曲線美を成したそれが訴えかける。

 “ここで終わっていいのか”と。

「そう、だ……終わっていい筈が、ない」

 ヤクモには成すべき事があった。この刀を遺してくれた父の不可解な自殺。その真実を見つけ出す事。その為にヤクモは鉄を叩くだけではなく・・・・・・刀を振るう事を決めたのだ。

「ゼェ……ゼェ……」

 震えた手で刀を握り、裏切り者が落としていった布切れを使い刀と手を縛りつける。

「死ぬつもりでこい、犬っころ」

 ヤクモは、魔獣にも劣らない野生じみた鋭く黒い眼光を穿つ。宿したそれは生き抜く為の渇望ではない。紛れもなく、ヤクモの瞳に宿るそれは、生への執着・・だった。

「ワオォーン!!」

 八方向から一斉に襲い掛かるヘルハウンド。いなす事も躱す事も防がれた状況。ヤクモに残っているのは、肉を斬らせる事だけ・・だった。

「ガルルガァァァ」

 七体に体を噛ませ、一体を確実に仕留める。

「俺の命が持つか、お前らが俺を先に餌にするか勝負だ」

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