【3章開始】刀鍛冶師のリスタート~固有スキルで装備の性能は跳ね上がる。それはただの刀です~

みなみなと

文字の大きさ
上 下
3 / 54
謎の少女

見えぬ予兆

しおりを挟む
 冷たい夜を過ごしたヤクモは、日もまだ開けきらない時間帯に起き、刀の手入れを始める。少しでも仲間の手を引っ張らない為の準備。そして、手入れを終えれば、剣技の自主トレを熟す。

 基礎の構えや心得は、父に教わっていた。刀鍛冶師として、武器の事を知る為には武器を振るう者を理解しなくてはならないからだとヤクモの父は言っていた。

 だが、武技を教わる財力などは一切なく、純粋な剣術のみがヤクモの武器。前衛として心もとない存在であるのは間違いなかった。

 それでも──だからこそ、毎回全力でいる必要がある。足を引っ張らない為に。少しでも皆が楽できるように。恩を返せるように。

「皆おはよう」と、ヤクモが住まう街・ザザンの出入口で聴こえたのは、そこから五時間程過ぎた頃。本来なら、冒険者ギルドで待ち合わせなのだが、評判を下げさせないように、ヤクモなりの配慮だった。

 メンバーは気にしなくて良いと言っていたが、皆が陰口を言われたりするのは耐えられない。

ヤクモ君・・・・、おはよう」
「おはよう、イーバ」

 爽やかな笑顔を向ける好青年が、ギルド・レギオンのリーダー。見た目も筋骨隆々とは言わず、豪傑とは程遠いが、カリスマ性は十分にあった。重装備はせず、胸当てと鉄製の手甲と片手剣を装備するイーバは、ヤクモと同じで前衛を担う。

「ヤクモ君、聞いてよ!! イーバったら、寝坊よ!? 有り得ないでしょ! リーダーなのに!!」と、やれやれと気だるげな声を上げたのは、黒衣を身に纏った魔法師。僅か十七歳で上位の魔法を使える天才。白銀の長い髪に、大人びた顔つき。リーダーにも遠慮せずに物事をハッキリ言う性格が後衛に適していた。

「あー……そりゃあ。その寝癖を見たら分かるよ。はは」

 ただでさえ癖のある赤毛が寝癖も合わさり物凄い事になっている。

「本当にだらしないわよね。なんなら、ダイルの髪型見習いなさいよ」
「いやいや、ミーナ。ダイルの髪型とかもう無いじゃん」

 ジトっとした目線をイーバは、筋骨隆々の大男に向ける。

「おい、なんだよその目は」

 イーバとミーナ、二人分はありそうな大柄な男、ダイル。フルプレートアーマーを装備し、背中に背負った盾を使って皆を攻撃から守る盾役。この三人のチームワークが圧巻だった。

「だってハゲじゃん」
「おい、うるせーよ!!」
「まあ確かに、十八歳でハゲは無いわよね」
「おい!?ハゲハゲうるせーぞ!これは俺のトレンドだ!!」

 明るく和やかな雰囲気。この時だけは孤独を忘れられる。

「あー怖い怖い。んでヤクモ君、いつも通りリュックには入れてるね?」
「薬草・回復薬・毒消し草。武器の手入れをする為の道具──その他諸々入ってるよ」
「よし。いつもありがとう。自腹を切らせてしまっているし」
「良いんだ。俺には俺に出来る事をしたいだけ」
「そうか」
「に、しても便利よね、ヤクモ君のスキルは」

 ミーナがヤクモの背負ったリュックをポンポンと叩いた。

「ああ、劣化無効クレーロスだっけか?」
「そうそう。スキル所持者が持ってる限り劣化しないって凄いわよね」

 唯一ヤクモが持っていたユニークスキル。とは言え、刀鍛冶師としては適していても、冒険者としてはあまり意味がなかった。だからこそ、ヤクモは薬草や素材を運ぶ役を自ら担っている。

 適材適所と言い聞かせながら。

「でも、手を離れてしまえば、いつも通り劣化は進むから大して凄くないと俺は思うよ」
「おいおい、ヤクモ君! 謙遜はいかんなぁ!!」
「そうだぞ、ヤクモさん。君のお陰で俺たちは万全を維持出来る」
「そのとーり!! ──よしっと。それじゃあ、行きますかぁ!! 気合いを入れて魔獣討伐に!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【短編】依頼失敗率が最高な国家公認のFランク冒険者~仲間に裏切られた少女を救いたい~

みなみなと
ファンタジー
依頼達成率が最下位の国家公認冒険者・デイルは到着早々、重大な任務を依頼される。内容は、森の中で暴れ回る黒い影を討伐してくれとの事だった。だが、ビーストテイマーであるデイルはこの依頼に眉を顰める。 依頼達成率最下位の所以がそこにはあった──

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...