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ベアトリス編
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「悪役令嬢の奴、ついにユリウス王子の婚約者候補を外されたんだってな」
「無理もない。あんなに評判の悪い女、ユリウス王子に相応しくないからな。必死に周囲の女をイジメてユリウス王子の婚約者候補にしがみついていたっていうのに、無様だな」
「言えてる」
エディットがユリウス王子の婚約者候補から外れたことは、誰が発表したわけでもないのに、あっという間に社交界中に広まっていた。
先日の話を、誰かに聞かれていたのか。
それともエディットが王宮に行かなくなったことは、王宮勤めの者なら誰でも知る事ができたから、その理由が広まるのも早かったのか。
私はといえば、補佐する相手がいなくなったにも関わらず、まだ無意味に王宮に通う日々を送っているのだけど。
……多分、次の婚約者候補の女性が決まったら、またその女性を補佐する役割を賜るのだろう。
――エディット以外の女性がユリウス王子の婚約者になることを、応援できる気はしない。
また今日も、同年代の者達が集まっての交流会的なお茶会が開催されていた。
貴族にとって、社交はとても大事なことなのだ。
婚約者候補から外れたけれど、エディットも招待されている。
先ほどから、わざわざ聞こえるように、耳を塞ぎたくなるほど心無い言葉が聞こえてくる。
中でも特に酷いのは、パスカル・ギレム侯爵令息だ。
前王の弟の孫にあたる。
ギレム侯爵家はアーノン侯爵家の反対派閥の筆頭だ。
その嫡男であるパスカルには妹がいて、ギレム家ではその妹をユリウス王子と結婚させようと、躍起になっているのだ。
パスカルは昔からエディットに対して当たりが強かったけれど、シャルルに対してもよく絡んでいる。
エディットが悪役令嬢と呼ばれるきっかけとなった事件で、シャルルのことを取り囲んでいたいじめっ子の中にも、彼はいた。
シャルルが子爵家なのにもかかわらず、絵の才能を認められてユリウス王子と仲が良い事をひがんでいるのだ。
「ユリウス王子が優しいからって調子に乗ってさ。俺の妹なんて、どれだけあの女にイジメられたことか」
「パスカル! いくらなんでも酷すぎます! 大体エディットが悪役令嬢と言われているのだって、あなたが言い始めたことでしょう!?」
「うるせーな! 取り巻きは黙ってろ」
その時だった。
「お前に決闘を申し込む」
後ろから聞こえた声に驚いて振り向く。
そこには息をのむほど鋭い目をした、シャルルがいた。
綺麗な顔をしているだけに、睨むとその目は氷のように冷たく、思わず背筋に寒気が走る。
「はあ!? お前、シャルル? 今時決闘ってなんだよ。大体決闘って、何するんだ。お前、剣なんて持ったこともないだろう」
「剣でいい」
シャルルの発言に、私を含めた、周囲の全員が驚いている。
妖精のようにか弱い印象で、いつも筆以上に重い物などもったことないようなシャルルの決闘宣言。
周囲の人たちはまだ冗談だと思っているようだった。
――だけどシャルルは、そんな冗談を言うような人ではないわ。
もう5年間も、近くでエディットとシャルルのことを見ていたから分かる。
シャルルは見た目のか弱さとは裏腹に、とても意志が強くて、自分の発言に責任を持つ人だ。
普段絵筆しか持ったことがないように見えるのは、それが好きだから。
他の何をする時間よりも、絵を描くことが好きだから、描いている。ただそれだけ。
決して本当に弱い人なわけではない。
「いいだろうシャルル。決闘を許可する。ただし、昔行われていたような生死を賭けた決闘は禁止だ。まだ子供だしね。刃を潰した剣を使用して、胸当てを付けること。急所への攻撃はナシ。胸当てに攻撃を当てるか、相手が剣を取り落とすか、降参をした場合に勝ちとする」
「ユリウス様!?」
驚いたことにいつの間にか、すぐ近くにユリウス様がいた。
きっと騒ぎに気が付いて、様子を見にきたのだろう。
ユリウス様は笑っていなかった。
他の人たちのように、冗談だとか、無謀だとか、そんなことは全く考えていないようだ。
――ユリウス王子の考えていることが分からない。
シャルルはユリウス王子のお気に入りの友人ではないのか。
いつも絵ばかり描いているシャルルが、パスカルに剣で勝てるわけがない。
なのになぜ、シャルルは決闘なんて申し込むのか。ユリウス様は止めないのか、目的が分からなかった。
「はっ。何考えてんのか分かんないけど、こんなヒョロヒョロの女男に負けるわけないだろう。決闘を受けてやるよ。その代わり、俺が勝ったらお前は俺の子分だ。うちで小姓として働いてもらう!」
「いいだろう。ただし僕が勝ったら、お前にはエディット嬢に、正式に謝罪をしてもらう」
小姓とは、よくオジサン貴族とかが、見た目が良い若者を着飾って連れて回っているやつだ。
昔からパスカルって、妙にシャルルにつっかかっていると思っていたけれど、まさかあの態度で、シャルルの事を気に入っていたとでもいうのだろうか?
そこのところは、あまり掘り下げて考えない方が良い気がする。
「お、お控えなさいシャルル。ワタクシは守られるほど弱くなくてよ。あのような発言、相手にするまでもな……」
「エディット。大丈夫だから」
シャルルがパスカルの小姓になるかもしれないと聞いて、不安になったのだろう。
エディットが悪役令嬢モードで決闘を止めようとしたのを、シャルルが止めた。
そのままシャルルはエディットの手を取って、その目を見つめた。
「エディット。あなたに初めて会った日のことは忘れない。あなたは自分が震えながらも、気高く、美しく、僕を助けてくれた。……今度は僕に、あなたを守らせて欲しい」
どうやらシャルルは、5年前、エディットが悪役令嬢になった日、泣きそうになって震えていたことを気が付いていたらしい。
それなのに必死になって守ってくれた正義感が強い少女。
あの日から、シャルルがエディットのことしか見ていないのも、当然のことだったのだ。
「無理もない。あんなに評判の悪い女、ユリウス王子に相応しくないからな。必死に周囲の女をイジメてユリウス王子の婚約者候補にしがみついていたっていうのに、無様だな」
「言えてる」
エディットがユリウス王子の婚約者候補から外れたことは、誰が発表したわけでもないのに、あっという間に社交界中に広まっていた。
先日の話を、誰かに聞かれていたのか。
それともエディットが王宮に行かなくなったことは、王宮勤めの者なら誰でも知る事ができたから、その理由が広まるのも早かったのか。
私はといえば、補佐する相手がいなくなったにも関わらず、まだ無意味に王宮に通う日々を送っているのだけど。
……多分、次の婚約者候補の女性が決まったら、またその女性を補佐する役割を賜るのだろう。
――エディット以外の女性がユリウス王子の婚約者になることを、応援できる気はしない。
また今日も、同年代の者達が集まっての交流会的なお茶会が開催されていた。
貴族にとって、社交はとても大事なことなのだ。
婚約者候補から外れたけれど、エディットも招待されている。
先ほどから、わざわざ聞こえるように、耳を塞ぎたくなるほど心無い言葉が聞こえてくる。
中でも特に酷いのは、パスカル・ギレム侯爵令息だ。
前王の弟の孫にあたる。
ギレム侯爵家はアーノン侯爵家の反対派閥の筆頭だ。
その嫡男であるパスカルには妹がいて、ギレム家ではその妹をユリウス王子と結婚させようと、躍起になっているのだ。
パスカルは昔からエディットに対して当たりが強かったけれど、シャルルに対してもよく絡んでいる。
エディットが悪役令嬢と呼ばれるきっかけとなった事件で、シャルルのことを取り囲んでいたいじめっ子の中にも、彼はいた。
シャルルが子爵家なのにもかかわらず、絵の才能を認められてユリウス王子と仲が良い事をひがんでいるのだ。
「ユリウス王子が優しいからって調子に乗ってさ。俺の妹なんて、どれだけあの女にイジメられたことか」
「パスカル! いくらなんでも酷すぎます! 大体エディットが悪役令嬢と言われているのだって、あなたが言い始めたことでしょう!?」
「うるせーな! 取り巻きは黙ってろ」
その時だった。
「お前に決闘を申し込む」
後ろから聞こえた声に驚いて振り向く。
そこには息をのむほど鋭い目をした、シャルルがいた。
綺麗な顔をしているだけに、睨むとその目は氷のように冷たく、思わず背筋に寒気が走る。
「はあ!? お前、シャルル? 今時決闘ってなんだよ。大体決闘って、何するんだ。お前、剣なんて持ったこともないだろう」
「剣でいい」
シャルルの発言に、私を含めた、周囲の全員が驚いている。
妖精のようにか弱い印象で、いつも筆以上に重い物などもったことないようなシャルルの決闘宣言。
周囲の人たちはまだ冗談だと思っているようだった。
――だけどシャルルは、そんな冗談を言うような人ではないわ。
もう5年間も、近くでエディットとシャルルのことを見ていたから分かる。
シャルルは見た目のか弱さとは裏腹に、とても意志が強くて、自分の発言に責任を持つ人だ。
普段絵筆しか持ったことがないように見えるのは、それが好きだから。
他の何をする時間よりも、絵を描くことが好きだから、描いている。ただそれだけ。
決して本当に弱い人なわけではない。
「いいだろうシャルル。決闘を許可する。ただし、昔行われていたような生死を賭けた決闘は禁止だ。まだ子供だしね。刃を潰した剣を使用して、胸当てを付けること。急所への攻撃はナシ。胸当てに攻撃を当てるか、相手が剣を取り落とすか、降参をした場合に勝ちとする」
「ユリウス様!?」
驚いたことにいつの間にか、すぐ近くにユリウス様がいた。
きっと騒ぎに気が付いて、様子を見にきたのだろう。
ユリウス様は笑っていなかった。
他の人たちのように、冗談だとか、無謀だとか、そんなことは全く考えていないようだ。
――ユリウス王子の考えていることが分からない。
シャルルはユリウス王子のお気に入りの友人ではないのか。
いつも絵ばかり描いているシャルルが、パスカルに剣で勝てるわけがない。
なのになぜ、シャルルは決闘なんて申し込むのか。ユリウス様は止めないのか、目的が分からなかった。
「はっ。何考えてんのか分かんないけど、こんなヒョロヒョロの女男に負けるわけないだろう。決闘を受けてやるよ。その代わり、俺が勝ったらお前は俺の子分だ。うちで小姓として働いてもらう!」
「いいだろう。ただし僕が勝ったら、お前にはエディット嬢に、正式に謝罪をしてもらう」
小姓とは、よくオジサン貴族とかが、見た目が良い若者を着飾って連れて回っているやつだ。
昔からパスカルって、妙にシャルルにつっかかっていると思っていたけれど、まさかあの態度で、シャルルの事を気に入っていたとでもいうのだろうか?
そこのところは、あまり掘り下げて考えない方が良い気がする。
「お、お控えなさいシャルル。ワタクシは守られるほど弱くなくてよ。あのような発言、相手にするまでもな……」
「エディット。大丈夫だから」
シャルルがパスカルの小姓になるかもしれないと聞いて、不安になったのだろう。
エディットが悪役令嬢モードで決闘を止めようとしたのを、シャルルが止めた。
そのままシャルルはエディットの手を取って、その目を見つめた。
「エディット。あなたに初めて会った日のことは忘れない。あなたは自分が震えながらも、気高く、美しく、僕を助けてくれた。……今度は僕に、あなたを守らせて欲しい」
どうやらシャルルは、5年前、エディットが悪役令嬢になった日、泣きそうになって震えていたことを気が付いていたらしい。
それなのに必死になって守ってくれた正義感が強い少女。
あの日から、シャルルがエディットのことしか見ていないのも、当然のことだったのだ。
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