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3章 闇の聖女
第19話 舞踏会への招待
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ブルーノさんが警吏に連れて行かれるまでを見守ってから、急いで当初の予定通り、魔道具屋『カエルの王子』へと向かう。
大勢の警吏の中に、お城の衛兵の制服を着た人たちが何人か混じっていたようだけれど、あれはどういうことなんだろうか。
……深い意味はなく、たまたま通りかかっただけなのかもしれない。
「こんにちは、グウェンさん。すみません、遅くなって」
「お、いらっしゃい待っていたよニーナちゃん。ランス君も。何かあったの? 遅かったから心配していたよ。また急病人がいたのかな」
「いえ、急病人ではないんですが……」
遅れた手前、その理由である先ほどの事件を、かいつまんでグウェンさんに説明する。
遅刻の理由を説明するくらいの軽い気持ちで話していたら、グウェンさんは、予想以上に深刻な表情になってしまった。
普段の軽い態度と違って、真剣な顔で私が話し終わるまで聞いていた。
「最初は普通の青年だったのに、別人のように攻撃的になっていった……か」
「はい、そうです」
「それが聖水で正気に戻ったんだ?」
そしてなにやら考え込んでしまう。
「その男は今どこに?」
「警吏の人たちがきて、連れて行きました。だから町の詰所か……。あ、でもお城の衛兵の人もいたから、もしかしたらお城の牢かもしれませんが。……いえでも、町中でちょっと暴れただけだから、それはないですね」
グウェンさんは、私が「お城の衛兵」と言った瞬間、ハッとしたように顔を上げて反応した。
「衛兵がいたのか。じゃあもう王宮が動いているんだな」
「え?」
グウェンさんは、ホッとしたようで、少しいつもの調子に戻っている。
「おい、グウェン。説明しろ。なんで町中で貴族の私兵が一人暴れたくらいで、衛兵が動くんだ? ブルーノとやらのあの状態に、何か心当たりがあるようだが」
私が疑問に思っていたことを、ランスが聞いてくれた。
「ああ、人が変わったかのように気が荒くなる現象がさ……今密かに社交界で問題になっているんだよ」
「問題?」
「今貴族の中で、そのような状態になっている者が何人かでてきているんだ。まだ数人だし、下位貴族がほとんどだからそれほど騒ぎになっていないけど。だけどこのままだと……」
そこまで話すと、グウェンさんはまた黙り込んでしまった。
――貴族の中にも、あんな感じで攻撃的になったり、生気を失ったような人が何人かいる。
「ランス、ニーナちゃん。頼みがある。もうすぐ貴族たちが一堂に会す舞踏会があるから、それに参加してくれないか。そこで様子がおかしいと思われる貴族を、試しにニーナちゃんが浄化してみてくれないか。それと気がつかれないように」
浄化――先ほどはポーションをかけたけれど、もちろん聖者の力でも、同様の効果を得る事はできる。即効性はないかもしれないけど。
確かに、何も事情を知らない人にポーションをかけるよりも、知られないように浄化魔法をかけたほうが、貴族相手にはいいのかもしれない。
グウェンさんは深々と頭を下げると、真剣な様子で頼んできた。
その様子を見ていたランスが、やれやれと肩を竦めて、ため息をつく。
「……お前にそれほど頼まれたら、俺は断れる立場ではないが。……ニーナはいいのか? 舞踏会に参加するの」
「えーっと……」
貴族たちが一堂に会す舞踏会にランスと参加して、様子がおかしい貴族を浄化してみる。
うん、それはいい。
きっとその人たちや、その周辺の人たちは困っているだろうから、私が浄化すれば元に戻るのであれば、やってあげたい。
「その舞踏会って……なんの舞踏会なんですか? グウェンさん」
「ああ、毎年やっているやつだよ。王宮の舞踏会」
大勢の警吏の中に、お城の衛兵の制服を着た人たちが何人か混じっていたようだけれど、あれはどういうことなんだろうか。
……深い意味はなく、たまたま通りかかっただけなのかもしれない。
「こんにちは、グウェンさん。すみません、遅くなって」
「お、いらっしゃい待っていたよニーナちゃん。ランス君も。何かあったの? 遅かったから心配していたよ。また急病人がいたのかな」
「いえ、急病人ではないんですが……」
遅れた手前、その理由である先ほどの事件を、かいつまんでグウェンさんに説明する。
遅刻の理由を説明するくらいの軽い気持ちで話していたら、グウェンさんは、予想以上に深刻な表情になってしまった。
普段の軽い態度と違って、真剣な顔で私が話し終わるまで聞いていた。
「最初は普通の青年だったのに、別人のように攻撃的になっていった……か」
「はい、そうです」
「それが聖水で正気に戻ったんだ?」
そしてなにやら考え込んでしまう。
「その男は今どこに?」
「警吏の人たちがきて、連れて行きました。だから町の詰所か……。あ、でもお城の衛兵の人もいたから、もしかしたらお城の牢かもしれませんが。……いえでも、町中でちょっと暴れただけだから、それはないですね」
グウェンさんは、私が「お城の衛兵」と言った瞬間、ハッとしたように顔を上げて反応した。
「衛兵がいたのか。じゃあもう王宮が動いているんだな」
「え?」
グウェンさんは、ホッとしたようで、少しいつもの調子に戻っている。
「おい、グウェン。説明しろ。なんで町中で貴族の私兵が一人暴れたくらいで、衛兵が動くんだ? ブルーノとやらのあの状態に、何か心当たりがあるようだが」
私が疑問に思っていたことを、ランスが聞いてくれた。
「ああ、人が変わったかのように気が荒くなる現象がさ……今密かに社交界で問題になっているんだよ」
「問題?」
「今貴族の中で、そのような状態になっている者が何人かでてきているんだ。まだ数人だし、下位貴族がほとんどだからそれほど騒ぎになっていないけど。だけどこのままだと……」
そこまで話すと、グウェンさんはまた黙り込んでしまった。
――貴族の中にも、あんな感じで攻撃的になったり、生気を失ったような人が何人かいる。
「ランス、ニーナちゃん。頼みがある。もうすぐ貴族たちが一堂に会す舞踏会があるから、それに参加してくれないか。そこで様子がおかしいと思われる貴族を、試しにニーナちゃんが浄化してみてくれないか。それと気がつかれないように」
浄化――先ほどはポーションをかけたけれど、もちろん聖者の力でも、同様の効果を得る事はできる。即効性はないかもしれないけど。
確かに、何も事情を知らない人にポーションをかけるよりも、知られないように浄化魔法をかけたほうが、貴族相手にはいいのかもしれない。
グウェンさんは深々と頭を下げると、真剣な様子で頼んできた。
その様子を見ていたランスが、やれやれと肩を竦めて、ため息をつく。
「……お前にそれほど頼まれたら、俺は断れる立場ではないが。……ニーナはいいのか? 舞踏会に参加するの」
「えーっと……」
貴族たちが一堂に会す舞踏会にランスと参加して、様子がおかしい貴族を浄化してみる。
うん、それはいい。
きっとその人たちや、その周辺の人たちは困っているだろうから、私が浄化すれば元に戻るのであれば、やってあげたい。
「その舞踏会って……なんの舞踏会なんですか? グウェンさん」
「ああ、毎年やっているやつだよ。王宮の舞踏会」
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