私は陥れられていたようです

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2章 領主の息子とカエルの王子

第12話 朝食の風景

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ランスロートは、せっかく王都へ来たのだからと、しばらく滞在するつもりなのだそうだ。
 私も、大分おさまってきたとはいえ、まだ流行り病にかかる人がいることと、もう少しここでの生活をしていたかったのでちょうど良かった。



 宿屋の朝は早い。
 早起きをすると、おばあと一緒に道の掃除をできるからだ。
 おばあが初日に言っていたように、朝宿屋の前で掃除していると色んな人に会う事ができた。
 朝早く仕事へ向かう人、早起きして散歩をするご老人。
 同じように、家の前の道を掃除する人。
 体を鍛えるために走っている? 傭兵か、警吏らしき人。

 そういう人たちと少しずつ親しくなっていくのが楽しかった。


 掃除が終わると、宿泊客のための朝食づくりだ。
 朝食は、いつもスープとパンを用意する。

 パンは、パン屋さんが毎朝届けてくれる、焼きたての白パンだ。
 スープは前日に仕入れておいたり、余ってしまった食材を入れた日替わりのスープ。


 既に火をおこし、支度にとりかかっているベルさんに、私のできることを聞く。


「ニーナちゃんは、ここにある食材を、細かく刻んでくれる?」
「はい!」


 今日の朝食はカブのスープのようだった。
 ベルさんがカブの皮を、手際よく次々にむいていっている。

 私の仕事は1本の半分しかないニンジンだとか、塩漬け肉の端の部分を細かく刻むこと。
 最初はそんなものをスープに入れるのかと驚いたけれど、実際に食べてみると、メインの食材だけのスープよりも味に深みが出て、美味しいのだ。
 特に塩漬け肉の端切れを入れたスープは私の大好物になっている。
 これから自分で料理をする時は、余った食材を刻んで入れることにしよう。

 既に沸かしてあった大量のお湯に、切れた食材から順番に投入していく。


 トン トン トン


 誰かが階段を降りてくる音が聞こえてくる。
 厨房の天井は、半分が階段の下にあるので、お客さんが降りてくればすぐに分かる。

「今日の一番乗りは、気が早いね」


 ベルさんが言う通り、まだ大分朝が早い。
 スープが出来上がるにはもう少し時間がかかりそうだ。


「おはよう、ニーナ。ベルさん」
「ランス! おはよう」


 気の早い客はランスだった。
 王都にしばらく滞在することにしたランスロートだったけど、大辺境伯の令息だと言うのに、なんとこの宿に泊まっているのだ。
 お目付け役の従者と一緒に。
 お目付け役の名前はカイと言って、ランスロートと同じ年の青年だ。
小柄ですばしっこくて、剣の腕はランスと並んで一級品。
 無口だけれどなぜかランスと気が合うということで、子どもの頃から彼の従者をやっているので、ニーナも良く知っている。



 もう少し警備の手厚い、高級な宿にしてはどうかと言ったのだけど、ランスはここが良いと言ってどうしても折れなかった。
 昔から言いだしたらきかない頑固なところがあるのを知っているので、私のほうが早々に説得することを諦めたところもあるのだけれど。
 まあカイもいることだし、ランス本人もとても強いので、この二人が一緒ならどこに泊っても大丈夫なのだろう。

 それに、下町と言ってもここはとても治安が良くて、活気があって、気持ちが良い町だ。
 

 私が途中から、ランスが「ジャックとオリーブ亭」に泊る事に賛成しだすと、ベルさんや、なぜか常連客さんたちが必死に止めようとしていたのが面白かった。

「おはようございます、ドレスディア様。ゆっくりお休みになられましたか」

 ベルさんは、流石の女将の貫禄で、貴族相手なのに落ち着いて接客をしている。

「ああ、とてもいい良い宿だな。俺も何か手伝おうか?」
「それは勘弁してくださいな。ドレスディア様からは、お代をしっかりといただいているんですから、手伝いなんてさせられませんよ。ニーナちゃんは、宿泊料を無料にして、少しお給金を払うことで、手伝ってもらうことになっているんですよ」
「そうか。では大人しく、朝食ができるのを待っていることにする」

 断られたというのに、ランスはとっても楽しそうだった。
 朝から機嫌が良さそうだ。


 最初にこの宿の仕事を手伝わせてもらうことになった時、私なんて掃除も洗濯も、なにもした経験がないのだから、むしろお邪魔かもしれない、教えていただくというつもりなのでお給料なんていりませんと申し出た。
 そうしたら、やっぱりベルさんとおばあに本気で叱られてしまった。


 あれは結構、本気で怖かった。


 その時のことを思い出して、思わず野菜を切りながら笑ってしまう。

最後の食材を切り終えて、さあ、これもスープに入れようと顔を上げると、ランスがこちらの方を見つめていたことに気が付いた。
椅子に座って、テーブルに肘をつけて手のひらに顔を乗せて、なにやら機嫌よさげにこちらを見ている。


「なあに? ランス」
「いや別に。お前が楽しそうにしているから、見てた」

 きっとヒマなんだろうし、私が料理をするのなんて初めて見るだろうから、珍しいんだろう。
 でもあまりジロジロ見て居られていると、ちょっとやりにくい。

「……あんまり見ないでくれる?」
「やだ」


 やだ……って。
 なんだか子どもの頃のような言い方だ。



 気になるけれど、これ以上言ってもきかなそうなので、無理やり作業に集中することにする。

 
 従者のカイも、途中で起きてきて、ランスと同じテーブルに座っていた。
 他の宿泊客も、パラパラと階段を降りてきはじめた。

朝食が出来上がったので、降りてきた順にお客さんの座ったテーブルに運んで並べる。
 部屋で食べることもできるのに、ランスも普通の宿泊客たちに混ざって、食堂で食べていた。



 私はいつも、お客さんたちが食べ終わった頃に、ベルさんとおばあと3人で朝食をとっている。
 私が来るまでは、おばあとベルさんは朝食の準備中などに、合間を見て適当にパンをかじったり、味見のスープだけで済ましていたりしていたそうだけれど、私がこの宿屋に泊まって、仕事を手伝うようになったら、一緒に食べてくれるようになった。
 王都にきてから3年間、いつも一人で急いで流し込むように食事をしていたので、おばあとベルさんが一緒に食べてくれるのが、本当にうれしくて、大好きな時間になっていた。




 朝食の後は、おばあはシーツの洗濯をして、ベルさんが厨房の片づけ、それが終わったら客室の掃除をすることになっている。
 通常なら、私はその日によって、洗濯か片付けを手伝うのだけど、今日はランスが来たばかりなのだからと言って、私は休憩にされてしまった。

 ちなみに客室掃除が終わったら、昼の食事は宿屋では出さないので、夕飯の準備までは長めの休憩時間となる。


 休憩時間をになったら、ランスと街へ出かける約束だった。

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