9 / 18
父親が横領の罪で捕まらなかったIFバージョン
第6話 対戦
しおりを挟む
入隊から二週間が過ぎた。
新兵の20人のうち、なんと既に5人が姿を見かけなくなってしまった。
まだ新兵は、付いていくのにやっとで、・・・・いや、リタイアしないだけで精いっぱいで、任務に就くどころか実技訓練すら行っていない。
先輩騎士達が実技訓練をしている時間は、ひたすら体力づくりか、素振り、型をなぞったりしていた。
「ユージーン・フェルクス。イルゼ・シュナイツ。2人は今日から実技訓練にも混ざるように。」
よし!
イルゼは内心で叫んだ。
体力づくりの基礎訓練は、イルゼに少々不利だった。まあだからこそ、逆に訓練が必要であることは、分かっていたが。
イルゼの本領が一番発揮されるのは、その剣技だった。
物心つくまえから、父と打ち合いをしていたのだ。
それが父との唯一の遊んだ記憶。
・・・・遊びだか訓練だか分からないほど激しかったらしいが。
歩くのや走るのと変わらないくらい、体に馴染んでいる。
少なくとも同年代には、負けた事がない。
この2週間、基礎訓練だけでさすがに参りかけていたイルゼは、思いっきり鬱屈を晴らすべく、練習用の刃の潰した剣を受け取った。
「順番に並べ。笛が鳴ったら、次の相手と交代するように。それでは始め!!」
5分毎に相手を変えて、順番に打ち合いをしていくらしい。
訓練の打ち合いで、当然体には当てない。打って良いのは相手の剣だけ。その条件であっても、騎士団に入るような実力者同士だと、勝敗は自分たちで分かる。
――――この人は少し背筋が弱い。打ち合った時、もう一押しすればバランスを崩す。
――――この人は左利きか。活かしきれていないな、もったいない。
――――勝ち気が足りない。お上品な、試合会場じゃ、ないんだぞ!!!!
「――――ッ!そ、そこまで!!!」
あれ。もう終わりか。
打ち合ったのは8人。一人5分で、交代と交代の間が2分だったので、1時間弱。あっと言う間に過ぎ去っていった。
この集中した時間が、なんとも言えず、イルゼは好きだった。
ユージーンとの順番は回ってこなかった。残念だ。
騎士学校に通っていた時は、実力順で必ず相手していたのに。
「8戦全勝した者だけ立て。」
部隊長の言葉に、殆どの者が座る。
立っている人物を見て、訓練場に驚愕が広がった。
訓練する者と、職務に就くもので分かれているので、今日の実技訓練に参加しているのは、イルゼとユージーンを加えて20人。
そのうち、全勝したのは、イルゼを含め2人。
もう1人は、ユージーンだ。
――――おいおい、マジかよ。卒業したばかりのひよっこだぞ。
アレフのやつ、2敗してたぞ。
マジかよ。
俺は負けてないね。
お前、ラッキーで当たらなかっただけだろ!
「静かに。それでは立っている2人は前に出ろ。せっかくだ。白黒つけておけ。」
「「はい!!」」
部隊長の言葉に、ユージーンと向き合う。
鋭く冷たい目が、イルゼを射抜く。
これだ。これがイルゼの知っているユージーンだ。
ここ2~3週間のユージーンの言動で、もしかしたら何かと中身が入れ替わっているのかと、本気で考え始めていたイルゼだった。
変わっていない。
女だからと手加減する気など一切ない、好敵手と認めた相手を食い殺す勢いの目。
この目と対戦することが嬉しくて、イルゼは笑った。
獲物を見つけた狼のように。
――――体中、素晴らしい筋肉が付いている。
――――バランスが良い。ここ2週間だけで大分変った。
――――気力も申し分ない。負ける事など微塵も考えていないな。
では、この相手にどうしたら勝てるだろうか。
とうに5分は過ぎているが、笛はならなかった。
―――――そんなの決まっている。技で、実力で、押して、押して、押して、押して、押して、押して、押しまくる!!!!!!!
「そこまでぇ!!勝負あり!勝者イルゼーーーー!!!!!」
うおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!!!
固唾をのんで見守っていた隊員たちが、興奮して雄たけびの声をあげる。
気が付けば他の団の者も集まってきていた。
何かの大会の決勝戦が行われたのかと勘違いするほどの歓声の中、座り込んでいるユージーンに手を貸すイルゼ。
「・・・・・・恐ろしい女だな。」
「誉め言葉だ。」
素直にイルゼの手を取る負けたユージーンの顔は、悔しさを感じさせずさっぱりとしたものだった。
次は、勝つ。それだけのことだ。
新兵の20人のうち、なんと既に5人が姿を見かけなくなってしまった。
まだ新兵は、付いていくのにやっとで、・・・・いや、リタイアしないだけで精いっぱいで、任務に就くどころか実技訓練すら行っていない。
先輩騎士達が実技訓練をしている時間は、ひたすら体力づくりか、素振り、型をなぞったりしていた。
「ユージーン・フェルクス。イルゼ・シュナイツ。2人は今日から実技訓練にも混ざるように。」
よし!
イルゼは内心で叫んだ。
体力づくりの基礎訓練は、イルゼに少々不利だった。まあだからこそ、逆に訓練が必要であることは、分かっていたが。
イルゼの本領が一番発揮されるのは、その剣技だった。
物心つくまえから、父と打ち合いをしていたのだ。
それが父との唯一の遊んだ記憶。
・・・・遊びだか訓練だか分からないほど激しかったらしいが。
歩くのや走るのと変わらないくらい、体に馴染んでいる。
少なくとも同年代には、負けた事がない。
この2週間、基礎訓練だけでさすがに参りかけていたイルゼは、思いっきり鬱屈を晴らすべく、練習用の刃の潰した剣を受け取った。
「順番に並べ。笛が鳴ったら、次の相手と交代するように。それでは始め!!」
5分毎に相手を変えて、順番に打ち合いをしていくらしい。
訓練の打ち合いで、当然体には当てない。打って良いのは相手の剣だけ。その条件であっても、騎士団に入るような実力者同士だと、勝敗は自分たちで分かる。
――――この人は少し背筋が弱い。打ち合った時、もう一押しすればバランスを崩す。
――――この人は左利きか。活かしきれていないな、もったいない。
――――勝ち気が足りない。お上品な、試合会場じゃ、ないんだぞ!!!!
「――――ッ!そ、そこまで!!!」
あれ。もう終わりか。
打ち合ったのは8人。一人5分で、交代と交代の間が2分だったので、1時間弱。あっと言う間に過ぎ去っていった。
この集中した時間が、なんとも言えず、イルゼは好きだった。
ユージーンとの順番は回ってこなかった。残念だ。
騎士学校に通っていた時は、実力順で必ず相手していたのに。
「8戦全勝した者だけ立て。」
部隊長の言葉に、殆どの者が座る。
立っている人物を見て、訓練場に驚愕が広がった。
訓練する者と、職務に就くもので分かれているので、今日の実技訓練に参加しているのは、イルゼとユージーンを加えて20人。
そのうち、全勝したのは、イルゼを含め2人。
もう1人は、ユージーンだ。
――――おいおい、マジかよ。卒業したばかりのひよっこだぞ。
アレフのやつ、2敗してたぞ。
マジかよ。
俺は負けてないね。
お前、ラッキーで当たらなかっただけだろ!
「静かに。それでは立っている2人は前に出ろ。せっかくだ。白黒つけておけ。」
「「はい!!」」
部隊長の言葉に、ユージーンと向き合う。
鋭く冷たい目が、イルゼを射抜く。
これだ。これがイルゼの知っているユージーンだ。
ここ2~3週間のユージーンの言動で、もしかしたら何かと中身が入れ替わっているのかと、本気で考え始めていたイルゼだった。
変わっていない。
女だからと手加減する気など一切ない、好敵手と認めた相手を食い殺す勢いの目。
この目と対戦することが嬉しくて、イルゼは笑った。
獲物を見つけた狼のように。
――――体中、素晴らしい筋肉が付いている。
――――バランスが良い。ここ2週間だけで大分変った。
――――気力も申し分ない。負ける事など微塵も考えていないな。
では、この相手にどうしたら勝てるだろうか。
とうに5分は過ぎているが、笛はならなかった。
―――――そんなの決まっている。技で、実力で、押して、押して、押して、押して、押して、押して、押しまくる!!!!!!!
「そこまでぇ!!勝負あり!勝者イルゼーーーー!!!!!」
うおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!!!
固唾をのんで見守っていた隊員たちが、興奮して雄たけびの声をあげる。
気が付けば他の団の者も集まってきていた。
何かの大会の決勝戦が行われたのかと勘違いするほどの歓声の中、座り込んでいるユージーンに手を貸すイルゼ。
「・・・・・・恐ろしい女だな。」
「誉め言葉だ。」
素直にイルゼの手を取る負けたユージーンの顔は、悔しさを感じさせずさっぱりとしたものだった。
次は、勝つ。それだけのことだ。
45
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

冴えない子爵令嬢の私にドレスですか⁉︎〜男爵様がつくってくれるドレスで隠されていた魅力が引きだされる
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のラーナ・プレスコットは地味で冴えない見た目をしているため、華やかな見た目をした
義妹から見下され、両親からも残念な娘だと傷つく言葉を言われる毎日。
そんなある日、義妹にうつけと評判の男爵との見合い話が舞い込む。
奇行も目立つとうわさのうつけ男爵なんかに嫁ぎたくない義妹のとっさの思いつきで押し付けられたラーナはうつけ男爵のイメージに恐怖を抱きながらうつけ男爵のところへ。
そんなうつけ男爵テオル・グランドールはラーナと対面するといきなり彼女のボディサイズを調べはじめて服まで脱がそうとする。
うわさに違わぬうつけぷりにラーナは赤面する。
しかしテオルはラーナのために得意の服飾づくりでドレスをつくろうとしていただけだった。
テオルは義妹との格差で卑屈になっているラーナにメイクを施して秘められていた彼女の魅力を引きだす。
ラーナもテオルがつくる服で着飾るうちに周りが目を惹くほどの華やかな女性へと変化してゆく。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
救助隊との色恋はご自由に。
すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。
ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。
助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・
香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」
ほたる(消防関係の人だ・・・!)
『消防署員』には苦い思い出がある。
できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。
しまいには・・・
「ほたるから手を引け・・!」
「あきらめない!」
「俺とヨリを戻してくれ・・!」
「・・・・好きだ。」
「俺のものになれよ。」
みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。
『俺がいるから大丈夫』
そう言ってくれるのは誰?
私はもう・・・重荷になりたくない・・・!
※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる