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父親が横領の罪で捕まらなかったIFバージョン
第3話 キュウコン
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パーティーも終わり、フェルクス家の馬車で、イルゼを送ってくれると言うユージーン。
パートナーの令嬢を家まで送り届けるのは、男性の役割な事を知っているイルゼは、ありがたく馬車に乗せてもらう。
卒業パーティーに第2騎士団長が出席していたため、今日は職務に就いていたはずの父、ローガンももう帰っている時間だろう。
ちなみに、新人の騎士はいつでも呼び出せるように、集団で寮生活を送るものだ。待機もない完全休養日に限り、外出と家に帰る事が許される。
ローガンは副団長な為、個人宅に住むことが許されているが、今でも寮に泊まる事が多い。
幼いころに母親を亡くしたイルゼは、寂しい思いをすることも多かった。
その事情を知っているユージーンは、ふと疑問を持った。
「立ち入ったことを聞くが、ローガン殿がいらっしゃらない日は、どうしているんだ?」
「住み込みの家政婦さんがいるんだ。私が生まれてすぐに母は亡くなっているから、その家政婦さんが母代わりだな。」
「女性か?」
「もちろん。」
住み込みの女性が一人と聞いて、一瞬安心しかけるが、いやいやいや、と逆に不安の方が湧いてくる。
「王都は治安が良いとはいえ、家に女性二人だけだったのか・・・・。」
「・・・・君は本当に、貴族の令息なんだな。学校では、生徒は皆同じ扱いだったから、忘れていたよ。」
バカにするでもなく、驚いたようにイルゼにそう言われ、ユージーンは少しムッとする。
「平民でお手伝いさんがいるだけでもすごいことなんだよ。父親がいない家、母親がいない家、いくらでもある。」
「・・・・・・・・・。」
言われてみればその通りだった。一般的な平民の生活を、知識としては知っているが、どうしても貴族の感覚として、警備のない家に女性と子供だけで住んでいるのは驚いてしまう。
「まあ、父はもちろんだけど、今となっては私に敵う素人はいない。うちを襲う間抜けはいないよ。」
「それはそうか。」
騎士学校を首席で卒業した今となっては、イルゼに敵うのは現役の王国騎士団員くらいだろう。イルゼの実力を心から認めるユージーンは、そこは素直に頷いた。
しかし、学園に入学する前は、どうしていたのだろうか。
「・・・・小さいころはね、やっぱり寂しくて。」
ちょうどそう考えていた時、イルゼが話を始めた。卒業パーティーで生まれて初めて飲んだと言っていた葡萄酒が、少し口を軽くしているのかもしれない。
それで?と続きを促すがように、ユージーンは頷いて見せた。
「でも、家にいる時、父は色んな事を話してくれたんだ。何のために働いていて、任務では何をしてきたか、それで誰がどう助かったのか。話せることは全部話してくれた。」
「幼い子供に?」
「うん。」
貴族の子どもも、あらゆる知識を詰め込まれるが、具体的に領地の経営状況や家業について勉強するのは、もう少し大きくなってからだ。
小さな子供、しかも女の子にそのような話をするのは、珍しいのではないだろうか。
「どんなふうに出世して、いくら稼いで、それを何に使っているのかとかもね。そういう話を全部聞いていたから、『ああ、今頃父はこの人たちのために、こんな風に働いているんだな』って思えたから。心から尊敬することができた。」
「そうか。元々人格者だという噂は聞いていたが。素晴らしいお父上だったんだな。」
「うん。」
そんな父親だからこそ、イルゼも同じ騎士になることを目指したのだろう。
あまり家にいられないローガン殿の、それが精いっぱいの子育ての形だったのだろうなと、ユージーンは思った。
王宮のほど近くに、イルゼの家はあった。
やはり緊急の呼び出しに対応しやすいようにだろう。
王宮からの距離優先なせいか、こじんまりしているが几帳面に掃除され整っていて、かと思えば庭の木が妙に可愛らしい形に刈り込まれていたり、なんだかイルゼの家らしいな、とユージーンは思った。
馬車を家の前につけると、ユージーンが先に降りて、イルゼをエスコートする。
一人で飛び降りた方が早いだろうイルゼが、大人しくユージーンの手を取って降りるものだから、ユージーンは野生動物にエサをやるのを成功した様な、妙な感動を覚えた。
ドアノックに手を伸ばそうとしたところで、ドアが内側から勢いよく開かれる。
鍛え抜かれた動体視力で、危なげなく腕を引っ込めて事なきを得るユージーン。
「おう!お帰り。・・・楽しんできたようだな。」
「ただいま父上。もう!ちゃんと外を確認してから開けないと、危ないじゃないか。ぶつかるところだった。」
「おおそうだった。悪い悪い。」
平民出身初の騎士団副長にまで上り詰めた男。
そして先ほどのイルゼの話に出てきた、優しい父親である、ローガン・シュナイツだった。
ユージーンは心からの尊敬を込めて、頭を下げた。
「ローガン・シュナイツ殿。お会いできて光栄です。ユージーン・フェルクスです。本日は大切なお嬢様をお借りいたしました。」
「よせよせ。侯爵家のお坊ちゃんに頭を下げられるなんて、落ち着かねーわ。」
そう言いつつも、数多くの貴族を部下としてきただろう男は、さすがの貫禄で余裕を感じさせた。
「今日はありがとうな。こいつ騎士服でパーティーに出るって言ってきかなかったんだが、お前さんに誘われたってんで、さすがに観念してドレスを着てくれたよ。母親がいないもんで、あんまり可愛らしい服とか、今まで用意してやれなくてな。」
しかし百戦錬磨のはずの男は、穏やかに、父親の顔で笑っていた。
「ドレスも用意してくれるっていうのに、無理言って俺の方で用意させてもらって。悪かったな、一度でいいから、買ってやりたかったんだ。恩に着る。」
「いえ。次からは私に用意させていただければ、構いません。」
「おうそっか!ははは。」
ドアの前で会話を続け、帰る様子を見せないユージーン。
イルゼは、こういう時どうするのだろう、お茶でも飲んでもらうんだったかなと、授業で習ったマナーを思い出そうとしていた。
確か夜遅い舞踏会の帰りでは、そのまま帰っていただいても失礼に当たらなかったような記憶があるが。
「・・・・何やら話がありそうだな。入れよ、お茶でもごちそうさせてくれ。」
「はい、お言葉に甘えます。」
そうこうしているうちに、いつの間にかお茶を飲んでいってもらうことになっていた。
住み込みのマーサは、いつもはもう自室で休んでいる時間だったが、今日はイルゼの帰りを待ってくれた。
お茶の準備も想定内だったのだろう。応接間はいつでも来客に対応できるよう、整えられていた。
三人でマーサの淹れてくれた紅茶を飲む。
パーティーの食べ物も飲み物も、とても美味しかったけれど、やっぱりマーサの淹れてくれる紅茶が一番落ち着く。
「とても美味しいです。優しい味のお茶ですね。」
「ありがとう。私の故郷のお茶なのよ。」
ユージーンが、使用人であるマーサの目を見て、直接お礼を言っているのを見て、イルゼは嬉しくなってしまった。
さっき母親代わりだと言ったのを、覚えていてくれたのかもしれない。
不思議なのは座る位置だった。
普通なら来客があれば、親子で隣同士に座って、お客さんと対面するものなのだが、父ローガンが二人掛けのソファーのど真ん中にドシリと座ってしまったものだから、自然とユージーンと並んで、父と対面する位置になってしまう。
なんだか少し落ち着かない。
「それで、本題は?」
ローガンの鋭い目が、ユージーンのそれを真っ直ぐ見据える。
ユージーンは目を逸らすことなく、しっかりと見つめ返した。
「ローガン殿、イルゼへの求婚を認めていただきたい。」
「うん、まあそんなとこだよな。」
予想していたのか、ローガンは驚いた様子もない。
―――――キュウコン?キュウコン・・・・ああ球根か。
対してイルゼは、まだ混乱していた。
「まあ求婚は好きにしてもらったら良いけどよ。ただし結婚は、イルゼ本人が了承したらだ。」
「それは当然です。ただイルゼの大切なお父上に、事前に許可をいただきたくて。」
「そっか、分かった。」
そう言うと、話は済んだとばかりにローガンが立ち上がる。
ユージーンもあっさりと席を立った。どうやら帰る流れのようだ。
―――――なんだ。こんなにあっさり話が終わるなら、別に立ち話でも良かったのに。キュウコンて、キュウコン・・・・・。
話にイマイチついていけていないイルゼは、慌てて二人の後を追う。
実は二人の会話の意味を分かっていない事もないのだが、何というか、気持ちが追いつかない。
「ありがとうな、ユージーン。本物のお貴族様にとっちゃ、騎士爵なんざ、あってないようなもんだろうに。しっかりと手順を踏んでくれたんだな。」
帰り際、ローガンがその逞しい手を、ユージーンの頭に置いた。
そしてワシャワシャと、美しく、綺麗に手入れされた銀髪をかき混ぜる。
息子がいたら、こんな感じだったのかもしれない。
「気を付けて帰れよ。」
「はい、失礼いたします。」
明後日から別の隊とは言え上官になる男に、乱れたままの髪のままで恭しく礼をした後、ユージーンはまだ混乱中のイルゼに向き直る。
「そういう事だから、これから覚悟しておけよ。」
返事は待たずに、ユージーンは言うだけ言って、待たせていた馬車の方へ歩いて行ってしまった。
ユージーンを乗せた馬車が完全に見えなくなるまで、親子で無言で見送り続けた後、ようやくイルゼが口を開いた。
「父上。一応確認なんだけど、キュウコンて、どっちの意味のキュウコンだと思う?」
「・・・・・・・・・・いや、むしろ他にどんなキュウコンがあるんだよ。」
パートナーの令嬢を家まで送り届けるのは、男性の役割な事を知っているイルゼは、ありがたく馬車に乗せてもらう。
卒業パーティーに第2騎士団長が出席していたため、今日は職務に就いていたはずの父、ローガンももう帰っている時間だろう。
ちなみに、新人の騎士はいつでも呼び出せるように、集団で寮生活を送るものだ。待機もない完全休養日に限り、外出と家に帰る事が許される。
ローガンは副団長な為、個人宅に住むことが許されているが、今でも寮に泊まる事が多い。
幼いころに母親を亡くしたイルゼは、寂しい思いをすることも多かった。
その事情を知っているユージーンは、ふと疑問を持った。
「立ち入ったことを聞くが、ローガン殿がいらっしゃらない日は、どうしているんだ?」
「住み込みの家政婦さんがいるんだ。私が生まれてすぐに母は亡くなっているから、その家政婦さんが母代わりだな。」
「女性か?」
「もちろん。」
住み込みの女性が一人と聞いて、一瞬安心しかけるが、いやいやいや、と逆に不安の方が湧いてくる。
「王都は治安が良いとはいえ、家に女性二人だけだったのか・・・・。」
「・・・・君は本当に、貴族の令息なんだな。学校では、生徒は皆同じ扱いだったから、忘れていたよ。」
バカにするでもなく、驚いたようにイルゼにそう言われ、ユージーンは少しムッとする。
「平民でお手伝いさんがいるだけでもすごいことなんだよ。父親がいない家、母親がいない家、いくらでもある。」
「・・・・・・・・・。」
言われてみればその通りだった。一般的な平民の生活を、知識としては知っているが、どうしても貴族の感覚として、警備のない家に女性と子供だけで住んでいるのは驚いてしまう。
「まあ、父はもちろんだけど、今となっては私に敵う素人はいない。うちを襲う間抜けはいないよ。」
「それはそうか。」
騎士学校を首席で卒業した今となっては、イルゼに敵うのは現役の王国騎士団員くらいだろう。イルゼの実力を心から認めるユージーンは、そこは素直に頷いた。
しかし、学園に入学する前は、どうしていたのだろうか。
「・・・・小さいころはね、やっぱり寂しくて。」
ちょうどそう考えていた時、イルゼが話を始めた。卒業パーティーで生まれて初めて飲んだと言っていた葡萄酒が、少し口を軽くしているのかもしれない。
それで?と続きを促すがように、ユージーンは頷いて見せた。
「でも、家にいる時、父は色んな事を話してくれたんだ。何のために働いていて、任務では何をしてきたか、それで誰がどう助かったのか。話せることは全部話してくれた。」
「幼い子供に?」
「うん。」
貴族の子どもも、あらゆる知識を詰め込まれるが、具体的に領地の経営状況や家業について勉強するのは、もう少し大きくなってからだ。
小さな子供、しかも女の子にそのような話をするのは、珍しいのではないだろうか。
「どんなふうに出世して、いくら稼いで、それを何に使っているのかとかもね。そういう話を全部聞いていたから、『ああ、今頃父はこの人たちのために、こんな風に働いているんだな』って思えたから。心から尊敬することができた。」
「そうか。元々人格者だという噂は聞いていたが。素晴らしいお父上だったんだな。」
「うん。」
そんな父親だからこそ、イルゼも同じ騎士になることを目指したのだろう。
あまり家にいられないローガン殿の、それが精いっぱいの子育ての形だったのだろうなと、ユージーンは思った。
王宮のほど近くに、イルゼの家はあった。
やはり緊急の呼び出しに対応しやすいようにだろう。
王宮からの距離優先なせいか、こじんまりしているが几帳面に掃除され整っていて、かと思えば庭の木が妙に可愛らしい形に刈り込まれていたり、なんだかイルゼの家らしいな、とユージーンは思った。
馬車を家の前につけると、ユージーンが先に降りて、イルゼをエスコートする。
一人で飛び降りた方が早いだろうイルゼが、大人しくユージーンの手を取って降りるものだから、ユージーンは野生動物にエサをやるのを成功した様な、妙な感動を覚えた。
ドアノックに手を伸ばそうとしたところで、ドアが内側から勢いよく開かれる。
鍛え抜かれた動体視力で、危なげなく腕を引っ込めて事なきを得るユージーン。
「おう!お帰り。・・・楽しんできたようだな。」
「ただいま父上。もう!ちゃんと外を確認してから開けないと、危ないじゃないか。ぶつかるところだった。」
「おおそうだった。悪い悪い。」
平民出身初の騎士団副長にまで上り詰めた男。
そして先ほどのイルゼの話に出てきた、優しい父親である、ローガン・シュナイツだった。
ユージーンは心からの尊敬を込めて、頭を下げた。
「ローガン・シュナイツ殿。お会いできて光栄です。ユージーン・フェルクスです。本日は大切なお嬢様をお借りいたしました。」
「よせよせ。侯爵家のお坊ちゃんに頭を下げられるなんて、落ち着かねーわ。」
そう言いつつも、数多くの貴族を部下としてきただろう男は、さすがの貫禄で余裕を感じさせた。
「今日はありがとうな。こいつ騎士服でパーティーに出るって言ってきかなかったんだが、お前さんに誘われたってんで、さすがに観念してドレスを着てくれたよ。母親がいないもんで、あんまり可愛らしい服とか、今まで用意してやれなくてな。」
しかし百戦錬磨のはずの男は、穏やかに、父親の顔で笑っていた。
「ドレスも用意してくれるっていうのに、無理言って俺の方で用意させてもらって。悪かったな、一度でいいから、買ってやりたかったんだ。恩に着る。」
「いえ。次からは私に用意させていただければ、構いません。」
「おうそっか!ははは。」
ドアの前で会話を続け、帰る様子を見せないユージーン。
イルゼは、こういう時どうするのだろう、お茶でも飲んでもらうんだったかなと、授業で習ったマナーを思い出そうとしていた。
確か夜遅い舞踏会の帰りでは、そのまま帰っていただいても失礼に当たらなかったような記憶があるが。
「・・・・何やら話がありそうだな。入れよ、お茶でもごちそうさせてくれ。」
「はい、お言葉に甘えます。」
そうこうしているうちに、いつの間にかお茶を飲んでいってもらうことになっていた。
住み込みのマーサは、いつもはもう自室で休んでいる時間だったが、今日はイルゼの帰りを待ってくれた。
お茶の準備も想定内だったのだろう。応接間はいつでも来客に対応できるよう、整えられていた。
三人でマーサの淹れてくれた紅茶を飲む。
パーティーの食べ物も飲み物も、とても美味しかったけれど、やっぱりマーサの淹れてくれる紅茶が一番落ち着く。
「とても美味しいです。優しい味のお茶ですね。」
「ありがとう。私の故郷のお茶なのよ。」
ユージーンが、使用人であるマーサの目を見て、直接お礼を言っているのを見て、イルゼは嬉しくなってしまった。
さっき母親代わりだと言ったのを、覚えていてくれたのかもしれない。
不思議なのは座る位置だった。
普通なら来客があれば、親子で隣同士に座って、お客さんと対面するものなのだが、父ローガンが二人掛けのソファーのど真ん中にドシリと座ってしまったものだから、自然とユージーンと並んで、父と対面する位置になってしまう。
なんだか少し落ち着かない。
「それで、本題は?」
ローガンの鋭い目が、ユージーンのそれを真っ直ぐ見据える。
ユージーンは目を逸らすことなく、しっかりと見つめ返した。
「ローガン殿、イルゼへの求婚を認めていただきたい。」
「うん、まあそんなとこだよな。」
予想していたのか、ローガンは驚いた様子もない。
―――――キュウコン?キュウコン・・・・ああ球根か。
対してイルゼは、まだ混乱していた。
「まあ求婚は好きにしてもらったら良いけどよ。ただし結婚は、イルゼ本人が了承したらだ。」
「それは当然です。ただイルゼの大切なお父上に、事前に許可をいただきたくて。」
「そっか、分かった。」
そう言うと、話は済んだとばかりにローガンが立ち上がる。
ユージーンもあっさりと席を立った。どうやら帰る流れのようだ。
―――――なんだ。こんなにあっさり話が終わるなら、別に立ち話でも良かったのに。キュウコンて、キュウコン・・・・・。
話にイマイチついていけていないイルゼは、慌てて二人の後を追う。
実は二人の会話の意味を分かっていない事もないのだが、何というか、気持ちが追いつかない。
「ありがとうな、ユージーン。本物のお貴族様にとっちゃ、騎士爵なんざ、あってないようなもんだろうに。しっかりと手順を踏んでくれたんだな。」
帰り際、ローガンがその逞しい手を、ユージーンの頭に置いた。
そしてワシャワシャと、美しく、綺麗に手入れされた銀髪をかき混ぜる。
息子がいたら、こんな感じだったのかもしれない。
「気を付けて帰れよ。」
「はい、失礼いたします。」
明後日から別の隊とは言え上官になる男に、乱れたままの髪のままで恭しく礼をした後、ユージーンはまだ混乱中のイルゼに向き直る。
「そういう事だから、これから覚悟しておけよ。」
返事は待たずに、ユージーンは言うだけ言って、待たせていた馬車の方へ歩いて行ってしまった。
ユージーンを乗せた馬車が完全に見えなくなるまで、親子で無言で見送り続けた後、ようやくイルゼが口を開いた。
「父上。一応確認なんだけど、キュウコンて、どっちの意味のキュウコンだと思う?」
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