【完結】ループ三周目に入った私たち ─二度と口説きたくない王子と闇落ちピンク髪と私─

雪野原よる

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二回目の世界

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 時は巻き戻され、私たちが学園に入学したその日から始まっていました。

 何もかもが同じ話、同じ展開でした。

 自分の身体が自分の自由にならない。勝手に動いて、どこか空虚な物語のあらすじをなぞっていくのも同じです。

 ですが、今回の私たちは何となく、分かっていたのです。

(ここにいる全員、自分の意識がある!)





 全員、というのは、王子とピンク髪と私のことです。

 哀れな操り人形たち。

 勝手に動かされているだけで、不本意だという気持ちがその目の奥、引き攣った顔の表情に浮かんでいるのが見えるのです。

「私の可愛いタンポポ。君の桃色の綿毛は全て私のものだよ」

(何言っちゃってるんですか殿下)

 頭は大丈夫ですか?

 という感情が滲み出ていたのでしょう、さっきまで虚ろな顔をしながら爽やかな声でピンクを口説いていた王子が、憎悪と羞恥のごった煮がグツグツ煮詰まったような目で私を睨みました。

 それはそうでしょう。

 これが殿下の意思ではなく、強制的に恥ずかしい台詞を囁かされているのだとすれば、真面目な優等生であった王子には耐えられないはずです。

 ですが、学園の中にいる限り、私たちに打つ手はありません。殿下の黒歴史が貯まりに貯まって、だんだん目の下の隈が酷いことになってきているようですが、私だって負けじと黒歴史を積み上げているのです。

(なんとも無様で可哀想ですわね、殿下)
(君もなッ!)

 などと、ちらりと交わした視線で伝え合うしかないのです。

 活路を見出そうと、我々は頑張りました。自由の効く範囲を探し、検証に検証を重ね、色々な無理を通して分かってきたのは、「学園の外であれば、ある程度自由に動ける」「短いメモ程度であれば残せる」ということでした。

 あからさまに手紙を渡すようなことは出来ませんが、あやふやな単語や言葉であれば、誰かの机に置き去りにしました、という態で受け渡すことが出来るのです。

 そして、学園から帰宅した後の私は、優秀な魔術師たちを集めて訓練に励みました。

 最初は、この異様な事態を打開するために、魔術師たちの力を借りたいと考えていたのですが。呪いなのか、大掛かりな魔術なのか、何一つ手掛かりが掴めないのです。ですが、何もしないで諦めるわけにはいきません。

 そうやって始めた魔術の特訓に夢中になって、私は学園にいる間はまるで眠ったような状態で過ごしました。目を瞑っていたって、勝手に身体が動いて行動しているわけで、本当に寝ていたっていいのでは? 王子やピンクだって、私が意識を飛ばしていた方が気楽でしょう。

 そう思っていたのですが、

「ずるいぞこの野郎」
「ずるいですわアイシア様」

 私の机の上に残されていたメモ書きには、乱雑な文字でそんな言葉が書き殴られていました。

 清廉潔白なフィオゼル様らしくもない、乱れた文字に乱れた言葉遣いです。野郎って……仮にも公爵令嬢に向かって何という言い方を。毎日タンポポタンポポ言わされて、頭がおかしくなったのでしょうか。うん、それはなるかもしれないわね。

 だったら、自分たちも半分意識を飛ばしていればいいのに、と思ったのですが、ピンクに愛を囁く王子の暗い目は血走っていて、

(自分の発する言葉にすさまじい寒気が走って走って、そのたびに現実に引き戻されるんだどうしてくれる)

 そう語りかけてきます。

 いや、どうしてくれる、と言われましても。知りませんわよ。

 倦怠期どころか氷河期に陥ったような会話を視線で交わす私たちの横では、ピンクが怒りでひび割れたような声を上げました。

「公爵令嬢アイシア様! 私の名はピンクではなくミオルです! いつも私をピンクピンク言うのは止めて下さい! あまりに侮辱的です」

 ……あ、今の言葉は操られて言ったものではなく、本心の、心からの叫びだったわね。

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