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8.継母、継娘に手を焼く
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(くそっ、まだ挽回の余地はあるぞ)
基本的に、シェランは諦めの悪さを主武器にしてのし上がってきた男である。
金も血筋も頼れない、貧しい境遇から生き残るにはそれしかない。食い物にされるのを防ぐために、持ち前の美貌は封印せざるを得なかったので、彼の武器はもう長いこと、1に諦めの悪さ、2にはそれを補う状況判断力である。
だから、シェランは諦めるつもりはないのだが──
「シンデレラ! 窓の桟に埃が残って……シンデレラ?! なぜ夜中に水汲みをしているの?!」
「シンデレラ! 夜中の二時に起き出して働くのはやめなさい!」
「シンデレラ! 今日のお前のおやつはいかにも地味そうなオートミール粥……なぜ、飲まず食わずで働いているのかしら?!」
「警告! 合わない靴のまま石炭運び二十周とか、地獄のような行為は即刻やめなさい!」
「ええい、いい加減にしろですわ!!」
心が折れそうである。
彼の貴重な状況判断力も鈍ったのだろうか。寝かしつけても寝かしつけても働くために起き上がってくる(ゾンビか?)シンデレラが、夜中の二時に竈の灰の中から豆を拾い出しているのを見たとき、シェランは思わず「いいから寝ろ!!ざます!!」と怒鳴りつけてしまった。
(手強い、手強すぎるぞシンデレラ……!)
シンデレラの身になってみれば、その行動の意味も分からないではない。「働くことしか存在価値がない」と思い込まされてきた娘だ。まともな食事と質のいい睡眠を与えれば与えるほど、その分働こうとするだろう。それだけが自分の居場所を保てる理由なのだから。
それを説得したり、言いくるめたりするだけの心の繋がりは、シェランとシンデレラの間には無い。というか、シェランとシンデレラの間の心の距離は滅茶苦茶遠い。心が通じ合うどころか、互いの言っていることが理解できるかどうかも怪しい距離である。出会ったばかりのシンデレラを剥いだり洗ったりした強引な経緯に加え、シェランはシンデレラが普通の女の子というより、手負いの小動物が人間を怖がって一定距離を空けて歩いているようにしか見えないし、シンデレラはシンデレラで、まともな人間関係がどんなものなのか知らない。
(あれは何を言い聞かせても無駄だな)
シェランは早々に見切りをつけた。
いや、諦めたわけではない。彼には最大にして最強の手段があるのだ。
通販番組という武器が……!
「マジカルネット☆TAKAIの時間ですよ☆」
「王国最高の高値販売! 目を剥くようなゼロの桁! 今日も皆様の心を震わせるためにやって参りました~」
「提供は、この世界きっての傍若無人、フェアリーゴッドマザー団でお送りします☆」
「今日もご一緒に、Fairy good☆」
「ククク……今日も始まったか」
自室の壁に掲げた鏡に映し出される、色とりどりの映像を見据えながら、シェランは低い声で呟いた。
この番組が始まるときはいつでもそうだが、シェランは据わった目になっている。瞬くこともせず番組に見入って、数時間後には何故か? 財布の中身が空っぽになっていたりするのだが、不思議と心の内も軽くなっている。その理由は誰にも分からない……
※「マジカルネット☆TAKAI」は違法魔術の使用痕跡ありとして、現在捜査対象となっています。
基本的に、シェランは諦めの悪さを主武器にしてのし上がってきた男である。
金も血筋も頼れない、貧しい境遇から生き残るにはそれしかない。食い物にされるのを防ぐために、持ち前の美貌は封印せざるを得なかったので、彼の武器はもう長いこと、1に諦めの悪さ、2にはそれを補う状況判断力である。
だから、シェランは諦めるつもりはないのだが──
「シンデレラ! 窓の桟に埃が残って……シンデレラ?! なぜ夜中に水汲みをしているの?!」
「シンデレラ! 夜中の二時に起き出して働くのはやめなさい!」
「シンデレラ! 今日のお前のおやつはいかにも地味そうなオートミール粥……なぜ、飲まず食わずで働いているのかしら?!」
「警告! 合わない靴のまま石炭運び二十周とか、地獄のような行為は即刻やめなさい!」
「ええい、いい加減にしろですわ!!」
心が折れそうである。
彼の貴重な状況判断力も鈍ったのだろうか。寝かしつけても寝かしつけても働くために起き上がってくる(ゾンビか?)シンデレラが、夜中の二時に竈の灰の中から豆を拾い出しているのを見たとき、シェランは思わず「いいから寝ろ!!ざます!!」と怒鳴りつけてしまった。
(手強い、手強すぎるぞシンデレラ……!)
シンデレラの身になってみれば、その行動の意味も分からないではない。「働くことしか存在価値がない」と思い込まされてきた娘だ。まともな食事と質のいい睡眠を与えれば与えるほど、その分働こうとするだろう。それだけが自分の居場所を保てる理由なのだから。
それを説得したり、言いくるめたりするだけの心の繋がりは、シェランとシンデレラの間には無い。というか、シェランとシンデレラの間の心の距離は滅茶苦茶遠い。心が通じ合うどころか、互いの言っていることが理解できるかどうかも怪しい距離である。出会ったばかりのシンデレラを剥いだり洗ったりした強引な経緯に加え、シェランはシンデレラが普通の女の子というより、手負いの小動物が人間を怖がって一定距離を空けて歩いているようにしか見えないし、シンデレラはシンデレラで、まともな人間関係がどんなものなのか知らない。
(あれは何を言い聞かせても無駄だな)
シェランは早々に見切りをつけた。
いや、諦めたわけではない。彼には最大にして最強の手段があるのだ。
通販番組という武器が……!
「マジカルネット☆TAKAIの時間ですよ☆」
「王国最高の高値販売! 目を剥くようなゼロの桁! 今日も皆様の心を震わせるためにやって参りました~」
「提供は、この世界きっての傍若無人、フェアリーゴッドマザー団でお送りします☆」
「今日もご一緒に、Fairy good☆」
「ククク……今日も始まったか」
自室の壁に掲げた鏡に映し出される、色とりどりの映像を見据えながら、シェランは低い声で呟いた。
この番組が始まるときはいつでもそうだが、シェランは据わった目になっている。瞬くこともせず番組に見入って、数時間後には何故か? 財布の中身が空っぽになっていたりするのだが、不思議と心の内も軽くなっている。その理由は誰にも分からない……
※「マジカルネット☆TAKAI」は違法魔術の使用痕跡ありとして、現在捜査対象となっています。
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