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第三話,竜を狩りに
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「クラド殿下、こちらが姫君の絵姿です」
「……ようやくか」
隣国の使いが、見事な額装絵を運んできます。
「姫君の可憐さ、妖精のような風情を写し取れる絵師がなかなかおりませんで……」
緩んだような愛想笑いを顔中に浮かべながら、使者がクラド殿下に分厚い書面を手渡しました。おそらく、運命の姫君の身上書でしょう。軽く眉をひそめながら、殿下がパラパラと頁をめくります。
「……なるほど。何よりも花を好まれる女性で、嫁いでこられたあかつきには、この国を大きな花畑にしたいと夢見ておいでなのか」
「『花の妖精姫』と呼び慕われておいでです。全く、どこまでも純粋で麗しく、我が国の至宝といっても過言ではないお方で」
「……」
殿下は沈黙し、じっと姫君の絵姿を見つめられました。
まんまるに見開いた、大きな瞳が印象的な少女です。ふんわりとしたピンクブロンドの髪が腰まで流れ落ち、花束を持つ細い手の小指を立てて微笑んでいます。
「……そうか」
殿下の表情筋が死んでしまったようで、何をお考えなのか読み取れません。じきに首を振って、気を取り直したように仰いました。
「ともあれ、これで、姫君に贈る宝石が選べるな」
柘榴石、翠玉、紅玉、真珠、金剛石。
それに合わせる、金、銀、白銀の台座。
そう、幾らでも姫君に贈る宝石は選べたはずです。
「魔石?! それも、古代竜を屠ってようやく得られる真魔石ですか? なぜ!」
「ありきたりの宝石ではつまらんだろう」
抜き身の剣を手に佇むクラド殿下の外套の裾が、パタパタと夜風にはためきます。
ただの風ではありません。巨大な古代竜の巣が間近にあって、周囲の魔素を撹乱して放出しているのです。
並の兵士であれば、その威圧に当てられて逃げ出すところですが、クラド殿下は全く揺らがず、平然となさっています。
「わざわざ討伐の手間をかけて手に入れた魔石の方が、より感動が増すというものだろう。レベル60以上の魔石だし、喜んでくれるんじゃないのか」
「そうですかね……?」
「お前なら嬉しいだろう? 以前、最上級の魔剣に嵌め込みたいと言っていたのを覚えているぞ」
「そうですね、それは勿論、私なら嬉しいですが……」
この人は何を言っているんだ。
(そもそも、何故私が巻き添えにされているんだ)
夜も更け、寝静まった王宮に不寝番が立つ頃。そろそろ眠りにつこうとして、私があてがわれた寝室で服を脱ごうとしていた矢先に、王子が窓をコツコツと叩かれたのです。
危うく、不審者かと思って一撃を食らわすところでした。
「殿下、何故、このような深夜に、不審者のような真似を……」
「竜を狩りに行くぞ。付き合え」
それだけのやり取りで、強引に戦場となる竜の高峰まで引っ張って来られたのです。
欠伸を噛み殺す私を愉快そうに見遣って、クラド殿下は仰いました。
「強化魔法だけ掛けてくれればいい。後は私一人で何とかなるだろう」
「完全に同意いたします」
むしろ、私が連れて来られた意味など無いのでは?
そう思いながら、私はクラド殿下に速度上昇、筋力強化、防御強化の呪文を重ね掛けしました。私は基本的に剣士タイプではありますが、殿下の護衛騎士を務める上で、殿下の補助となる術は一通り修めているのです。私の魔力は殿下に馴染みやすく、その辺の魔法術士よりも余程効果が高い、とクラド殿下は仰います。
(それは、私が殿下の「運命」だからだろうか)
その考えが脳裏を掠めて、私の胸がつきりと痛みを訴えました。
「……ようやくか」
隣国の使いが、見事な額装絵を運んできます。
「姫君の可憐さ、妖精のような風情を写し取れる絵師がなかなかおりませんで……」
緩んだような愛想笑いを顔中に浮かべながら、使者がクラド殿下に分厚い書面を手渡しました。おそらく、運命の姫君の身上書でしょう。軽く眉をひそめながら、殿下がパラパラと頁をめくります。
「……なるほど。何よりも花を好まれる女性で、嫁いでこられたあかつきには、この国を大きな花畑にしたいと夢見ておいでなのか」
「『花の妖精姫』と呼び慕われておいでです。全く、どこまでも純粋で麗しく、我が国の至宝といっても過言ではないお方で」
「……」
殿下は沈黙し、じっと姫君の絵姿を見つめられました。
まんまるに見開いた、大きな瞳が印象的な少女です。ふんわりとしたピンクブロンドの髪が腰まで流れ落ち、花束を持つ細い手の小指を立てて微笑んでいます。
「……そうか」
殿下の表情筋が死んでしまったようで、何をお考えなのか読み取れません。じきに首を振って、気を取り直したように仰いました。
「ともあれ、これで、姫君に贈る宝石が選べるな」
柘榴石、翠玉、紅玉、真珠、金剛石。
それに合わせる、金、銀、白銀の台座。
そう、幾らでも姫君に贈る宝石は選べたはずです。
「魔石?! それも、古代竜を屠ってようやく得られる真魔石ですか? なぜ!」
「ありきたりの宝石ではつまらんだろう」
抜き身の剣を手に佇むクラド殿下の外套の裾が、パタパタと夜風にはためきます。
ただの風ではありません。巨大な古代竜の巣が間近にあって、周囲の魔素を撹乱して放出しているのです。
並の兵士であれば、その威圧に当てられて逃げ出すところですが、クラド殿下は全く揺らがず、平然となさっています。
「わざわざ討伐の手間をかけて手に入れた魔石の方が、より感動が増すというものだろう。レベル60以上の魔石だし、喜んでくれるんじゃないのか」
「そうですかね……?」
「お前なら嬉しいだろう? 以前、最上級の魔剣に嵌め込みたいと言っていたのを覚えているぞ」
「そうですね、それは勿論、私なら嬉しいですが……」
この人は何を言っているんだ。
(そもそも、何故私が巻き添えにされているんだ)
夜も更け、寝静まった王宮に不寝番が立つ頃。そろそろ眠りにつこうとして、私があてがわれた寝室で服を脱ごうとしていた矢先に、王子が窓をコツコツと叩かれたのです。
危うく、不審者かと思って一撃を食らわすところでした。
「殿下、何故、このような深夜に、不審者のような真似を……」
「竜を狩りに行くぞ。付き合え」
それだけのやり取りで、強引に戦場となる竜の高峰まで引っ張って来られたのです。
欠伸を噛み殺す私を愉快そうに見遣って、クラド殿下は仰いました。
「強化魔法だけ掛けてくれればいい。後は私一人で何とかなるだろう」
「完全に同意いたします」
むしろ、私が連れて来られた意味など無いのでは?
そう思いながら、私はクラド殿下に速度上昇、筋力強化、防御強化の呪文を重ね掛けしました。私は基本的に剣士タイプではありますが、殿下の護衛騎士を務める上で、殿下の補助となる術は一通り修めているのです。私の魔力は殿下に馴染みやすく、その辺の魔法術士よりも余程効果が高い、とクラド殿下は仰います。
(それは、私が殿下の「運命」だからだろうか)
その考えが脳裏を掠めて、私の胸がつきりと痛みを訴えました。
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