【求む】武人な義弟が爽やかに笑いながら斬りかかってきた時の対処法

雪野原よる

文字の大きさ
上 下
9 / 9

【悲報その9】それはもはや悲劇としか言いようがなく

しおりを挟む
※「年齢制限無しでどこまでエロコメを書けるか」という謎のチャレンジング精神で書いてきたこのお話、「これ以上は確実に制限がかかる」と思って完結にしていたのですが、何だか続きを書けそうな気がしてきたので続けてみます。
※これまで以上に下世話な話、ギリギリな展開、匂わせ表現等が飛び交うと思いますのでご注意下さい。
※設定は相変わらずのゆるふわです。
※思い付きだけで書きますので、不定期更新となります。

─────


「……義姉上」

 近付いてくる足音。

 夜闇に沈んだ木々が、風を孕んでざわざわと揺れます。

 急に、すぐ下にある地面がぬかるんで、その中にずぶずぶと嵌まり込んでいきそうな錯覚に襲われました。今すぐ起き上がって、ここから逃げ出さねばならない。そう思っているのに、身体が言うことを聞きません。動けないのです。

 ただ息を呑んで、残酷な捕食者が現れるのを待っているかのような私。

「……ルクセルド」

 自分でも、何が言いたかったのか分かりません。この期に及んで、義弟を止められるはずがないと分かっていながら、掠れた声で呼び掛けました。

 現れたルクセルドは、しばらく黙って私を見下ろしていました。禁欲的な佇まいを裏切るように、その目にはあからさまな欲が燃えているのが見えます。

 ごくり、とその喉元が動きました。そのまま何かを……どうしても断ち切れぬ姉弟の絆を振り切るように、鬱陶しそうに服の襟元を緩めると、彼は私に近付き、飢え切った獣のような手を伸ばして……

 彼は…………


 大変なことになりました。







(本当に……なんてことかしら)

 その後起きたことを思うと、私はきゅっと胸が締め付けられるような気持ちになります。こんな悲劇があっていいのでしょうか。

 あまりにも可哀想すぎます。

 誰が可哀想なのかというと、ルクセルドが、です。

 ルクセルドは頑張ったのです。いや、私を強姦するために頑張ったわけなので、私が同情しているのもおかしな話なのですが、結果から言いますと。

 童貞には荷が重すぎたのです。

 初めてなのに野外。あいにくの新月でしたので明かりもほとんどなく。

 どうやら数年間に渡って溜め込んだらしい、今にも暴発しそうな欲を抱えながら、非協力的な姉にあんなことやこんなことをする……そんな困難な道を選んだのはルクセルド本人ですので、その咎もルクセルドが負わねばならないのですが、ともあれ、私は抵抗らしい抵抗もろくにしなかったというのに、ルクセルドは「うっ」「……っ?!」「くぅっ」といちいち誰かに攻撃されたかの如く呻き、驚愕し、震え、そして失敗、してしまったのです。

(どうしよう……こんな状況になって、ルクセルドに対する同情心しか浮かんでこないなんて)

 むしろ今までになく、慈母のような気持ちにさせられています。

 大変だったわね、恥ずかしがらなくていいのよ、誰にでも起こりえることじゃない、大丈夫よ、ルクセルド……などと言いながら、丸まった背中を撫でてしまいました。「また頑張ればいいのよ」と言いながら、(私、何を言っているのかしら)と思わないでもなかったのですが、最近の私、姉らしく振舞えるところでは自然と姉モードのスイッチが入ってしまうのです。

「…………」

 バッと顔を上げて私を睨み付けてきたルクセルドの目が、僅かに潤んでいて、

(あれ、私の方がルクセルドを強姦しちゃった……?)

 と、妙な錯覚を起こしそうになりましたが、大丈夫、何も完遂されてはいません。多分それが大丈夫じゃないのですが。

「……余裕ですね、義姉上。こんな場所で、そんな姿にされておきながら、ご自分の状況が分かっているのですか」

 ルクセルドが脅かしてきますが、これは完全に負け犬の遠吠えです。傷付いた矜持を守るために必死なのです。

 確かに私の格好は大変なことになっていますが……ルクセルドが乱暴に脱がしたのでボタンは全て取れて、布もあちこち引き裂かれていますが(スマートに脱がそうとしても、童貞には無理難題だったのです)、この格好を見ても、さっき無惨に失敗したルクセルドがもはやそんな気にならないことは察しています。可哀想に、本心ではこの場から走り去って、布団を引き被って寝台に閉じ籠もり、「ウワアアア」と悲鳴を上げていたいはずです。ズタボロになった矜持だけが、彼をこの場に留めているのです。可哀想に。

(私、何回ルクセルドのことを「可哀想」と言ったかしら)

 私が考えていると、ルクセルドが立ち上がりました。若干よろめいているようですが、何とか隠し通せるくらいの気力は残っているようです。

「……部屋に戻りましょう。今回のことは、義姉上にご自分の立場を分からせるためにやったことです。さぞかし恐ろしかったでしょうが、俺が自制したお陰で貞操が守れたことは感謝して欲しいですね」

 あ、そういう設定で通すんですね。

 可哀想な義弟を慰めるために、私は儚く微笑みました。

「ええ、分かっているわ、ルクセルド」

 そのまま、彼の手に支えられて(逆に支えているような気もしましたが)私は屋内へ戻りました。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

【完結】私の義弟が病み過ぎていて私にしか止められない

雪野原よる
恋愛
王子殿下はおっしゃいました。──「これは婚約破棄しても仕方がないな」  ※軽いコメディのつもりでしたが、想像以上に酷い内容になりました。

「俺が君を愛することはない」じゃあこの怖いくらい甘やかされてる状況はなんなんだ。そして一件落着すると、今度は家庭内ストーカーに発展した。

下菊みこと
恋愛
戦士の王の妻は、幼い頃から一緒にいた夫から深く溺愛されている。 リュシエンヌは政略結婚の末、夫となったジルベールにベッドの上で「俺が君を愛することはない」と宣言される。しかし、ベタベタに甘やかされているこの状況では彼の気持ちなど分かりきっていた。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】婚約者とのお茶の時に交換条件。「 飲んでみて?」

BBやっこ
恋愛
婚約者との交流といえば、お茶の時間。客間であっていたけど「飽きた」という言葉で、しょうがなくテラスにいる。毒物にできる植物もあるのに危機感がないのか、護衛を信用しているのかわからない婚約者。 王位継承権を持つ、一応王子だ。継承一位でもなければこの平和な国で、王になる事もない。はっきり言って微妙。その男とお茶の時間は妙な沈黙が続く。そして事件は起きた。 「起こしたの間違いでしょう?お嬢様。」

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。

BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。 何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」 何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

義姉さんは知らない

こうやさい
恋愛
 殿下に婚約を破棄され家に戻ってきた義姉に、家を継がせるために家族から引き離され養子にされた血の繋がらない義弟は何を思うのか――。  はっきり言って出オチです(爆)。  婚約破棄なら恋愛カテゴリでいいんだよね? って事でまたです。深く考えずに読んで下さい。  余話はセルフパロディーです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります、ご了承ください。  しかし婚約破棄ネタにするわりには「ざまぁ」が足りない気がする。

【完結】聖女は辞めたのに偉そうな従者様につきまとわれてます

雪野原よる
恋愛
「田舎くさい小娘だな」 聖女として召喚されたとき、第二王子のオルセア様は、私を三十秒ほどひたすら見詰めた後でそう言った。以来、何かと突っ掛かってくる彼を、面倒くさいなあと思いながら三年間。ようやく聖女から引退して、自由になれたと思ったのに……  ※黒髪、浅黒肌、筋肉質で傲慢そうな王子(中身は残念)×腹黒クール、面倒くさがりな元聖女の攻防。  ※元聖女がひたすら勝ち続け、王子がたまに喘がされます(ギャグ)  ※五話完結。

乗っ取られた家がさらに乗っ取られた。面白くなってきたので、このまま見守っていていいですか?

雪野原よる
恋愛
不幸な境遇の中で廃嫡され、救い出されて、国王の補佐官として働き始めた令嬢ユーザリア。追い出した側である伯爵家が次々と不幸に見舞われる中、国王とユーザリアの距離は近付いていき……  ※このあらすじで多分嘘は言っていない  ※シリアスの皮を被ったコメディです  ※これで恋愛ものだと言い張る

処理中です...