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1.ある日突然依田さんが
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「フッ……こやつは四天王の中でも最弱」
どこかで聞いたことあるような台詞だな? と思うような言葉が聞こえた。
(うーん、テンプレ)
そう言って、鼻で笑ってやりたいところだけれど、問題は、それを言われている「四天王中最弱」が私だということだ。しかも、それを否定するような材料を私は持たない。なんとか否定したいところだけど。
それなりに元気とやる気があれば、今すぐ目を開けて、「人が眠っている間に何を好き勝手に言ってくれてるんじゃああ」とか言って食ってかかれるのかもしれない。けれど今、私は本当に眠っているわけでもなかったりする……これは眠りではなく気絶です。
なんで気絶しているのか? それは勿論、勇者様御一行にやられたからですが?
「……」
どこかで、ぴちゃりと水が跳ねるような音が聴こえた。
ここは暖かい。周りの空気は冷え切っているのに、何か温かくて柔らかいものにすっぽりくるまれているから暖かい、そんな感じだ。ふわふわした熱に甘やかされて、だらけきった身体に少しも力が入らない。
(起きたくない……起きられない)
しかし、目覚めなければまた、好き勝手に言われてしまう。
「弱いから、護らねば死んでしまう……護らねば」
(ほら、また言われてる……!)
護らねば?
ちょっとテンプレとは違う気がするけれど、敢えて流れを読むとするならば。
四天王に護られる四天王……それはもう本当に、滅茶苦茶弱いってことだよね? ただ馬鹿にされるだけではなくて、「そんなにも弱いのだ」という屈辱を刻み付けるパターンなのか……それは恐ろしいわ……
「ほら、飲みなさい」
唇に何か冷たいものが触れた、と思う間もなく、硝子壜の口? らしきものが私の口に突っ込まれた。虚脱しきった私の喉は逆らうこともなく、圧力に負けて喉がこくりと鳴って、液体を飲み込み……ん?
(甘っっ!! 滅茶苦茶、甘い!)
「回復ポーション、限定:桃味」
説明書を読むような無機質な声が告げる。
限定味なのか……ポーションといえば薬そのもの、野草を口に突っ込まれるような味がするものだと思っていたので、わざわざ女子が好みそうな味のものを選んで突っ込んでくれたことは正直、高評価です。ありがとう。
──というか。
「えっ?」
ただの回復ポーションではなかったらしい。気絶するほど削り取られていたHPがぎゅるん! と音を立てそうなほど瞬く間に回復し、私はぱちりと目を開いた。
暗いダンジョンの壁が見え……いや、ここはダンジョンじゃないな。向こうに光の出口が見える。すぐ近くに開口部がある洞窟で、自然に削られて出来たような土壁が広がる。光を背にして、後光に塗れて輪郭がぼやけている男、それもやたら長身の男が手足を折り畳むように座って、私を覗き込むように見下ろしていた。
その顔を見た途端、私の意識が一気に覚醒した。
「よ……依田さん!! 依田さんじゃないですか!」
どこかで聞いたことあるような台詞だな? と思うような言葉が聞こえた。
(うーん、テンプレ)
そう言って、鼻で笑ってやりたいところだけれど、問題は、それを言われている「四天王中最弱」が私だということだ。しかも、それを否定するような材料を私は持たない。なんとか否定したいところだけど。
それなりに元気とやる気があれば、今すぐ目を開けて、「人が眠っている間に何を好き勝手に言ってくれてるんじゃああ」とか言って食ってかかれるのかもしれない。けれど今、私は本当に眠っているわけでもなかったりする……これは眠りではなく気絶です。
なんで気絶しているのか? それは勿論、勇者様御一行にやられたからですが?
「……」
どこかで、ぴちゃりと水が跳ねるような音が聴こえた。
ここは暖かい。周りの空気は冷え切っているのに、何か温かくて柔らかいものにすっぽりくるまれているから暖かい、そんな感じだ。ふわふわした熱に甘やかされて、だらけきった身体に少しも力が入らない。
(起きたくない……起きられない)
しかし、目覚めなければまた、好き勝手に言われてしまう。
「弱いから、護らねば死んでしまう……護らねば」
(ほら、また言われてる……!)
護らねば?
ちょっとテンプレとは違う気がするけれど、敢えて流れを読むとするならば。
四天王に護られる四天王……それはもう本当に、滅茶苦茶弱いってことだよね? ただ馬鹿にされるだけではなくて、「そんなにも弱いのだ」という屈辱を刻み付けるパターンなのか……それは恐ろしいわ……
「ほら、飲みなさい」
唇に何か冷たいものが触れた、と思う間もなく、硝子壜の口? らしきものが私の口に突っ込まれた。虚脱しきった私の喉は逆らうこともなく、圧力に負けて喉がこくりと鳴って、液体を飲み込み……ん?
(甘っっ!! 滅茶苦茶、甘い!)
「回復ポーション、限定:桃味」
説明書を読むような無機質な声が告げる。
限定味なのか……ポーションといえば薬そのもの、野草を口に突っ込まれるような味がするものだと思っていたので、わざわざ女子が好みそうな味のものを選んで突っ込んでくれたことは正直、高評価です。ありがとう。
──というか。
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その顔を見た途端、私の意識が一気に覚醒した。
「よ……依田さん!! 依田さんじゃないですか!」
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