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1.最終兵器、転生
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「生まれ変わりに当たって、あなたには、最強のスキルを幾つか用意させてもらいました。さあ、ごらんなさい」
おねだり(兄限定) ランクSSS
上目遣い(兄限定) ランクSSS
泣き落とし(兄限定) ランクSS
……
「そんな異世界転生があってたまるかああああ」
謎の異空間に、私の叫び声がむなしく響いた。
私は今、宇宙? 次元の狭間? のようなところに、もやもやと漂っている。目の前にはやはり、もやもやとした白いものが浮かび上がっていて、まだちゃんと肉体を得ていない私にも分かる、強烈で清冽な気を発している。女性っぽい声が響いてくるところをみると、女神さまなんだろう。
でも、その女神さまの言うことといえば。
「自分をごまかしてはいけませんよ。あなたは極度の兄好き、義理でも近親でもいける兄萌えでしょう。前世において、兄妹ものであれば何でもいけると豪語し、供給不足のため自らも創作に手を染め」
「いやああああああ」
私は頭を抱えてうずくまった。頭も手も、まだないけど。精神的に。
生前ひた隠しにしてた性癖暴露とか、女神さまがそんな鬼畜なことをやっていいの? ここ、地獄? まさか、悪の女神さまなの?
「失礼な。私はまぎれもなく人にとって善の女神、人類を守るために頑張っている健気で美しい神さまです。崇めなさい」
「はあ……」
「まあ、前回は守りきれなかったんですけどね~」
ゆるい。ゆるい口調で、何かとんでもないこと言ったぞ、この女神。
「守りきれなかった? 人類、滅んじゃったんですか?」
「ええ、まあ。悪の神が遣わした魔王に滅ぼされて、ですね」
「じゃあ、もう、私が転生する必要、というか、転生する場所がないんじゃないですか?」
「そこはほら、都合のいいやり直し、ということで。滅びる前に巻き戻ししました」
なんて適当な。
「でも、やり直しのために、限界まで力を使ってしまったので。今回、破滅を回避できなかったら、今度こそ人類は終わりですね~」
「あ、そうなんですか」
他にどう返せばいいというのか。
「それで、私が転生して、どうにかしろ、っていう流れですよね……」
スキル一覧表を眺めながら考え込む。
兄萌え魂に、兄限定スキルの数々。詳しくは見ていないけれど、二十ぐらいあるスキルの全てが、いさぎよく兄限定だ。
(「誘惑(風呂、兄限定)」って何だ……いや、分かるけど! すごく分かる! けどさあ!)
伊達に兄萌え人生は送っていない。これは問答無用で18禁に持ち込む禁断スキルだ。
だが、風呂で兄と18禁展開に持ち込むスキルで、どうやって世界を救えと?
「説明してあげましょう。私、善の女神は、人間の魔道士たちの力を借りて、魔王を人間の身体に封印するところまでは成功したのです」
「はあ」
「魔王を人間の少年として、強い魔道士夫婦のもとで健全に育てれば、破壊の衝動も浄化されていくのではないかと考えたのです。少年は平和な世界ですくすくと育ち、青年となり、」
「はい」
「先ほど、あっさり世界を滅ぼしました」
「おい!!!!!」
つっこみが止められない。
「計画がガバガバすぎですよね? 魔王を倒せずに封印しかできてない時点で、もう人類詰んでるってことですよね?」
「まあ、どうしても足りない要素があったのではないかと。私も反省したんですよ」
「反省?」
駄目な予感しかしない。
「何が足りなかったんですか?」
「魔王の兄を浄化してくれる、かわいい萌えっ子の妹です」
「この世界はもう駄目だ……」
「絶望してはいけません。あなたの兄魅了スキルの数々があれば、きっと魔王も骨抜きにできると信じています」
きりっとした声で言わないで欲しい。
「誘惑(風呂、兄限定)スキルで、ですか?」
「(兄限定)でスキル範囲を狭めることで、ただでさえ強力なスキルが殺人的な威力を発揮するんですよ」
そういうことじゃない。
「しかも、今度生まれてくるあなたの容姿は、ピンポイントで兄心を魅了する美少女に設定させてもらいました。病弱設定付きで、ちょっと足を引きずって歩くところなんか、庇護心を掻き立ててやまない感じで」
「き、鬼畜の所業」
「この妹を前にして妹萌え属性を開発されないのであれば、まさしく鬼畜、人のこころを持たない悪魔といっていいでしょう」
「いや、魔王なのでは……」
もう駄目だ。この世界は今回も滅びるであろう。間違いない。
「まあまあ。人に心を許さない冷酷で冷徹な美青年兄が、たった一人、心を開くことができる妹に執着して溺愛とか、大好きでしょう」
「それはもちろん……というか、詳しいですね女神さま?!」
「私は人類を愛する女神ですので」
人類の何を愛しているんだ。
「あなたが全力で兄萌えすればするほど、浄化スキルも発揮されて、魔王も浄化されていくことでしょう。スキル表の下の辺りをご覧なさい」
「?」
闇落ちしていても妹の声が届く(兄限定) ランクSSS
妹が尊すぎて全ての身体機能が停止する(兄限定) ランクSSS
魂浄化(兄限定) ランクSSS
「………スキル名、なんとかならなかったんですか」
しかも、「全ての身体機能が停止」って!!! 死んでる!!!
「兄は妹さえいれば生きていける生き物ですから大丈夫です」
おかしい!! 年季の入った兄妹萌えオタクの私よりも女神さまの方がおかしい!!
「……このスキルを使われる兄が可哀想になってきました」
「つまりは兄萌えですね。話が早くて何よりです。さあ、そろそろあなたに、新しい肉体と一体化してもらいましょう。大好きな兄萌え成分を摂取しつつ、世界を救うために頑張って下さい」
おねだり(兄限定) ランクSSS
上目遣い(兄限定) ランクSSS
泣き落とし(兄限定) ランクSS
……
「そんな異世界転生があってたまるかああああ」
謎の異空間に、私の叫び声がむなしく響いた。
私は今、宇宙? 次元の狭間? のようなところに、もやもやと漂っている。目の前にはやはり、もやもやとした白いものが浮かび上がっていて、まだちゃんと肉体を得ていない私にも分かる、強烈で清冽な気を発している。女性っぽい声が響いてくるところをみると、女神さまなんだろう。
でも、その女神さまの言うことといえば。
「自分をごまかしてはいけませんよ。あなたは極度の兄好き、義理でも近親でもいける兄萌えでしょう。前世において、兄妹ものであれば何でもいけると豪語し、供給不足のため自らも創作に手を染め」
「いやああああああ」
私は頭を抱えてうずくまった。頭も手も、まだないけど。精神的に。
生前ひた隠しにしてた性癖暴露とか、女神さまがそんな鬼畜なことをやっていいの? ここ、地獄? まさか、悪の女神さまなの?
「失礼な。私はまぎれもなく人にとって善の女神、人類を守るために頑張っている健気で美しい神さまです。崇めなさい」
「はあ……」
「まあ、前回は守りきれなかったんですけどね~」
ゆるい。ゆるい口調で、何かとんでもないこと言ったぞ、この女神。
「守りきれなかった? 人類、滅んじゃったんですか?」
「ええ、まあ。悪の神が遣わした魔王に滅ぼされて、ですね」
「じゃあ、もう、私が転生する必要、というか、転生する場所がないんじゃないですか?」
「そこはほら、都合のいいやり直し、ということで。滅びる前に巻き戻ししました」
なんて適当な。
「でも、やり直しのために、限界まで力を使ってしまったので。今回、破滅を回避できなかったら、今度こそ人類は終わりですね~」
「あ、そうなんですか」
他にどう返せばいいというのか。
「それで、私が転生して、どうにかしろ、っていう流れですよね……」
スキル一覧表を眺めながら考え込む。
兄萌え魂に、兄限定スキルの数々。詳しくは見ていないけれど、二十ぐらいあるスキルの全てが、いさぎよく兄限定だ。
(「誘惑(風呂、兄限定)」って何だ……いや、分かるけど! すごく分かる! けどさあ!)
伊達に兄萌え人生は送っていない。これは問答無用で18禁に持ち込む禁断スキルだ。
だが、風呂で兄と18禁展開に持ち込むスキルで、どうやって世界を救えと?
「説明してあげましょう。私、善の女神は、人間の魔道士たちの力を借りて、魔王を人間の身体に封印するところまでは成功したのです」
「はあ」
「魔王を人間の少年として、強い魔道士夫婦のもとで健全に育てれば、破壊の衝動も浄化されていくのではないかと考えたのです。少年は平和な世界ですくすくと育ち、青年となり、」
「はい」
「先ほど、あっさり世界を滅ぼしました」
「おい!!!!!」
つっこみが止められない。
「計画がガバガバすぎですよね? 魔王を倒せずに封印しかできてない時点で、もう人類詰んでるってことですよね?」
「まあ、どうしても足りない要素があったのではないかと。私も反省したんですよ」
「反省?」
駄目な予感しかしない。
「何が足りなかったんですか?」
「魔王の兄を浄化してくれる、かわいい萌えっ子の妹です」
「この世界はもう駄目だ……」
「絶望してはいけません。あなたの兄魅了スキルの数々があれば、きっと魔王も骨抜きにできると信じています」
きりっとした声で言わないで欲しい。
「誘惑(風呂、兄限定)スキルで、ですか?」
「(兄限定)でスキル範囲を狭めることで、ただでさえ強力なスキルが殺人的な威力を発揮するんですよ」
そういうことじゃない。
「しかも、今度生まれてくるあなたの容姿は、ピンポイントで兄心を魅了する美少女に設定させてもらいました。病弱設定付きで、ちょっと足を引きずって歩くところなんか、庇護心を掻き立ててやまない感じで」
「き、鬼畜の所業」
「この妹を前にして妹萌え属性を開発されないのであれば、まさしく鬼畜、人のこころを持たない悪魔といっていいでしょう」
「いや、魔王なのでは……」
もう駄目だ。この世界は今回も滅びるであろう。間違いない。
「まあまあ。人に心を許さない冷酷で冷徹な美青年兄が、たった一人、心を開くことができる妹に執着して溺愛とか、大好きでしょう」
「それはもちろん……というか、詳しいですね女神さま?!」
「私は人類を愛する女神ですので」
人類の何を愛しているんだ。
「あなたが全力で兄萌えすればするほど、浄化スキルも発揮されて、魔王も浄化されていくことでしょう。スキル表の下の辺りをご覧なさい」
「?」
闇落ちしていても妹の声が届く(兄限定) ランクSSS
妹が尊すぎて全ての身体機能が停止する(兄限定) ランクSSS
魂浄化(兄限定) ランクSSS
「………スキル名、なんとかならなかったんですか」
しかも、「全ての身体機能が停止」って!!! 死んでる!!!
「兄は妹さえいれば生きていける生き物ですから大丈夫です」
おかしい!! 年季の入った兄妹萌えオタクの私よりも女神さまの方がおかしい!!
「……このスキルを使われる兄が可哀想になってきました」
「つまりは兄萌えですね。話が早くて何よりです。さあ、そろそろあなたに、新しい肉体と一体化してもらいましょう。大好きな兄萌え成分を摂取しつつ、世界を救うために頑張って下さい」
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