極道オメガと魂の番~抗えない発情~

那野ユーリ

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「ったく、俺はお前にこれ以上深くハマるのが嫌だから、関わりたくなかったんだよ」
「おいおい、それって聞きようによっては、もう惚れてるみたいに聞こえるぞ」
 笑いながら雪成は言うが、和泉は静かだ。途端に雪成の笑顔が固まってしまう。
「え? マジ?」
「正直分からないな。俺は人にあまり興味が持てないんだよ。人を好きになるという感情も全く分からない。それなのにお前とは波長みたいなものが合うというのか、他人といて苦にならないのがお前が初めてなんだよ。だから……戸惑ってる」
 和泉の発した最後の言葉に、雪成には何か色んな感情が含まれているように感じた。確かに和泉は何かと葛藤している。先日感じた和泉の後ろ姿の空気と少し似てもいた。
「なんか……俺もそんな感じかもな。俺も真剣な恋愛なんてした事がないし、恋人もいたことがない。セックス出来れば十分ってね。でも龍とは素性が全く見えねぇのに、こうして話したり、会ったりするのがすごく楽だと思うんだよな」
 これも魂の番というものが関連して、引き寄せられているのか。また相性もいいからなのか、それは分からない。だが、雪成はこの感情は全て自分の意思だと思っている。
 そう、本能で動いているのではなくて、自分がそうしたいという明らかな意思が働いている。
 運命の番のように、本能に突き動かされたりはしない。
「なんだ俺らは相思相愛か」 
 和泉が可笑しそうに笑う横顔を、雪成はそっと窺う。作った笑いではなくて、心からの笑顔に雪成は目を細めた。
「ある意味な」
 恋愛感情というものはまだ雪成には分からない。それにヤクザが馴れ合うなど、本当はしてはならないのだろうが、一緒にいて気持ちが楽であることはどうしても否定出来なかった。
「なぁ、番号教えろよ」
 雪成は自身のスマホをジャケットのポケットから抜くと、それを振って見せた。
 和泉は何の躊躇いも見せずに番号を伝えてくる。それを登録すると直ぐに折り返した。すると和泉のデニムパンツのバックポケットから、バイブ音が聞こえた。疑っていたわけではないが、ちゃんと自分の番号を教えてくれたのだと思うと、やはり嬉しいものがあった。
 二十分ほど車を走らせて、谷原医院に着くと、二人は中へと招き入れられる。もちろん和泉を連れて行くことは連絡済みだ。
「よく来たね。中へ」
「突然すみません。お邪魔します」
 和泉は谷原へ頭を下げる。谷原は何とも嬉しそうな顔をして、雪成へと目配せをしてくる。きっと雪成の魂の番(仮)の相手を見ることが出来て嬉しいのだろう。雪成は苦笑いを浮かべながら、いつもの客室へと入った。
 和泉は谷原から渡された書類を黙って読み始める。その横で雪成は谷原が入れてくれたコーヒーを飲む。
(さぁ、アンタは笑うか? それとも……) 
「魂の番……」
 読み終えた和泉の第一声はそれだった。雪成と全く同じ反応だ。
「どう思う?」
 和泉から書類を取ると、雪成はそれをパラパラと捲る。対面するソファには谷原が二人を見守るように座っている。
「どう思うか……か」
 和泉は少し考え込む。

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