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兄貴
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谷原の元へ訪れてから二日経った現在、雪成の身体はあれから発情らしい症状も出ず、普段通りに過ごしている。
組事務所が入っている雑居ビルの一室で、雪成はパソコンで株の動きを眺めていた。一応この事務所には会長と若頭にはそれぞれに部屋があるのだが、当然のように中西は会長の部屋で仕事をしている。それもこれも二日前の出来事があったためだ。
雪成に発情のような症状が表れ、気が気でないのか、雪成にベッタリだ。でも仕事はきちんとしているので、文句は言えない。
中西には番がいてヒートをよく知っていることもあり、先日の雪成の症状には首を傾げる面もあると言った。それは谷原が言っていた事とほぼ同じだった。
普通オメガはヒートを起こすと〝孕みたい〟という強い本能に突き動かされるという。通常は濡れない後孔も、準備のためにしとどに濡れ、アルファを強く求めると。
雪成もあの時、あのアルファの下腹部を見て、欲情が一気に膨れ上がり、少し後孔が濡れたが直ぐに治まった。オメガのヒートはそう簡単に、しかも数分で引くことはないという。
皆が謎で終わったあの日。麻野も松山もその事に触れてくることはない。もしオメガとして発情したなら、タダでは済まないことを知っているからだ。他所へ吹聴することなく、口を固く閉ざしている。
二人に感謝しつつも、雪成もこのまま発情しない事を祈るところだが、やはり性分なのか、スッキリとしない事が無性に嫌な気分にさせていた。
ボーっとパソコンの画面を見つめていると、滅多にならない白いスマートフォンが着信を知らせてきた。雪成がスマートフォンを手に持つ様子を、中西が注意深く見ている。
「永野さん、お疲れ様です。はい、はい、大丈夫ですよ。分かりました」
雪成はスマホの通話を切ると、部屋のドアを開けて顔だけ事務所内に出した。
「おい誰か、二十時に赤坂の料亭【夕凪】に二人、予約入れておいてくれ」
「はい!」
雪成の命令に、事務所にいた四人の若中らが一斉に事務机から立ち上がり、元気よく返事をする。
「頼むな」
「はい!」
皆、雪成から命令されることが嬉しいのか、いつも誰が動くか揉める。雪成が名指しで命令すれば、それはそれで不公平だと何故か不満が上がってしまうのだ。だから雪成は皆に命令だけして、後は任すしかない。ジャンケンなり、あみだくじなり、好きに決めてくれと雪成はドアを閉めた。
「永野さんとご夕食ですか? かなり久しぶりですよね」
中西に頷きながら雪成は、ソファの背もたれに背中と頭を預けるようにどっかりと腰を下ろした。
「そうだな。二人でってのは一年ぶりくらいかもな」
「大丈夫なのですか? 先日のこともございますし」
中西の心配は分かるが、永野の誘いは断れない。それは中西も分かっているはずだが、雪成のことを思うと堪らずと口をついてしまったようだ。
「大丈夫だ」
それは何となくだが、雪成の中ではあの時のような事がそう簡単に起きるとは思えなかった。確証などないが、雪成が直感で感じる時は大抵当たることが多い。
組事務所が入っている雑居ビルの一室で、雪成はパソコンで株の動きを眺めていた。一応この事務所には会長と若頭にはそれぞれに部屋があるのだが、当然のように中西は会長の部屋で仕事をしている。それもこれも二日前の出来事があったためだ。
雪成に発情のような症状が表れ、気が気でないのか、雪成にベッタリだ。でも仕事はきちんとしているので、文句は言えない。
中西には番がいてヒートをよく知っていることもあり、先日の雪成の症状には首を傾げる面もあると言った。それは谷原が言っていた事とほぼ同じだった。
普通オメガはヒートを起こすと〝孕みたい〟という強い本能に突き動かされるという。通常は濡れない後孔も、準備のためにしとどに濡れ、アルファを強く求めると。
雪成もあの時、あのアルファの下腹部を見て、欲情が一気に膨れ上がり、少し後孔が濡れたが直ぐに治まった。オメガのヒートはそう簡単に、しかも数分で引くことはないという。
皆が謎で終わったあの日。麻野も松山もその事に触れてくることはない。もしオメガとして発情したなら、タダでは済まないことを知っているからだ。他所へ吹聴することなく、口を固く閉ざしている。
二人に感謝しつつも、雪成もこのまま発情しない事を祈るところだが、やはり性分なのか、スッキリとしない事が無性に嫌な気分にさせていた。
ボーっとパソコンの画面を見つめていると、滅多にならない白いスマートフォンが着信を知らせてきた。雪成がスマートフォンを手に持つ様子を、中西が注意深く見ている。
「永野さん、お疲れ様です。はい、はい、大丈夫ですよ。分かりました」
雪成はスマホの通話を切ると、部屋のドアを開けて顔だけ事務所内に出した。
「おい誰か、二十時に赤坂の料亭【夕凪】に二人、予約入れておいてくれ」
「はい!」
雪成の命令に、事務所にいた四人の若中らが一斉に事務机から立ち上がり、元気よく返事をする。
「頼むな」
「はい!」
皆、雪成から命令されることが嬉しいのか、いつも誰が動くか揉める。雪成が名指しで命令すれば、それはそれで不公平だと何故か不満が上がってしまうのだ。だから雪成は皆に命令だけして、後は任すしかない。ジャンケンなり、あみだくじなり、好きに決めてくれと雪成はドアを閉めた。
「永野さんとご夕食ですか? かなり久しぶりですよね」
中西に頷きながら雪成は、ソファの背もたれに背中と頭を預けるようにどっかりと腰を下ろした。
「そうだな。二人でってのは一年ぶりくらいかもな」
「大丈夫なのですか? 先日のこともございますし」
中西の心配は分かるが、永野の誘いは断れない。それは中西も分かっているはずだが、雪成のことを思うと堪らずと口をついてしまったようだ。
「大丈夫だ」
それは何となくだが、雪成の中ではあの時のような事がそう簡単に起きるとは思えなかった。確証などないが、雪成が直感で感じる時は大抵当たることが多い。
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