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親爺
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十畳程の広さのある部屋は、一般的に見られるような和室となっている。ただ一般家庭にはあまり無いものがこの部屋にはある。
床の間に鎮座しているのは、市松組の宝刀。初代の市松組長が作らせたものだという。代々伝わる日本刀は、歴代の組長がしっかり手入れをしているようだ。
「……親爺どうしたんです? 改まって」
「おぉ、まぁ、とにかく座れ」
「はい」
黒檀の座敷机を挟んで、雪成は座布団の上に腰を下ろした。こうして二人でゆっくりと顔を合わせるのは一年ぶりくらいだろうかと、雪成は緊張の中でも懐かしさを噛み締めていた。
「久しぶりだからお前とゆっくり話したいと思っていたが……。雪成、会費のことだが、いつも無理をするな」
「無理なんてしてませんよ。今のところ金にも困っていませんし」
実際に雪成は金に困っていない。自身が持つ風俗店の経営も上手くいっている。いや、上手く行き過ぎている。
雪成が経営する風俗店【kingdom】は風変わりな店で、キャストが全てアルファなのだ。即ち、オメガがアルファを買うという店になっている。
雪成が十九歳の時に始めた店で、当初はやはりキャストとなるアルファを集めることに苦労した。しかし探せば、アルファでも色んな境遇にいる者や、様々な嗜好を持つ者がいた。そして雪成は念入りに一人一人面接をし、テストをし、この男なら大丈夫だと認めた人間を雇った。
客であるオメガの要望を聞くという方針のため、オメガに対して、微々たるものでも嫌悪を見せる者では困る。必ず問題が発生するからだ。そのためバース性に囚われず、客を大事にしてくれるキャストを求めたのだ。
雪成の人選が良かった事で、今では十人のアルファが伸び伸びと働いている。
後は雪成は嗅覚にも長けていることもあって、個人で株をしている。デイトレでもかなり稼いでいたりもする。
親爺のため、そして自分の構成員のため、親として子を路頭に迷わせるわけにはいかないからだ。
「だがあの金額は……」
「親爺、そんなこと言ったら、贔屓してるって言われ兼ねないですよ」
「誰が言うんだ? 贔屓されるほどの働きぶりを、お前は見せているんだ。逆に言う奴の顔が見てみたいものだな」
菱本の言葉に雪成は苦笑を浮かべた。怖い男だと。菱本の目が黒いうちは、直接的には雪成へ何かする者はいない。それほどの度胸のある者などいないはずだからだ。とは言っても、〝陰〟でどう動くかは分からないが。
菱本が雪成を特別扱いをしていると感じている連中は組織内には結構いて、面白くないと感じている者は多いだろう。それに〝オメガ〟であることが加われば尚更だ。そのため雪成自身も気をつけなければならなかった。
小一時間ほど話して菱本と別れた雪成は、若中の松山を誘って飲みに向かっていた。その車中はとても賑やかなものになっている。
「新堂さんと久しぶりに飲みに行けるなんて、嬉しすぎます。兄貴らともご無沙汰ですし」
助手席でテンション高くなっている松山に、運転している麻野も同調して愉しそうにしている。
たまには息抜きも必要だ。すっかり夜の帳が降りた都内の景色を眺めながら、雪成は今夜は酔いたい気分になっていた。
床の間に鎮座しているのは、市松組の宝刀。初代の市松組長が作らせたものだという。代々伝わる日本刀は、歴代の組長がしっかり手入れをしているようだ。
「……親爺どうしたんです? 改まって」
「おぉ、まぁ、とにかく座れ」
「はい」
黒檀の座敷机を挟んで、雪成は座布団の上に腰を下ろした。こうして二人でゆっくりと顔を合わせるのは一年ぶりくらいだろうかと、雪成は緊張の中でも懐かしさを噛み締めていた。
「久しぶりだからお前とゆっくり話したいと思っていたが……。雪成、会費のことだが、いつも無理をするな」
「無理なんてしてませんよ。今のところ金にも困っていませんし」
実際に雪成は金に困っていない。自身が持つ風俗店の経営も上手くいっている。いや、上手く行き過ぎている。
雪成が経営する風俗店【kingdom】は風変わりな店で、キャストが全てアルファなのだ。即ち、オメガがアルファを買うという店になっている。
雪成が十九歳の時に始めた店で、当初はやはりキャストとなるアルファを集めることに苦労した。しかし探せば、アルファでも色んな境遇にいる者や、様々な嗜好を持つ者がいた。そして雪成は念入りに一人一人面接をし、テストをし、この男なら大丈夫だと認めた人間を雇った。
客であるオメガの要望を聞くという方針のため、オメガに対して、微々たるものでも嫌悪を見せる者では困る。必ず問題が発生するからだ。そのためバース性に囚われず、客を大事にしてくれるキャストを求めたのだ。
雪成の人選が良かった事で、今では十人のアルファが伸び伸びと働いている。
後は雪成は嗅覚にも長けていることもあって、個人で株をしている。デイトレでもかなり稼いでいたりもする。
親爺のため、そして自分の構成員のため、親として子を路頭に迷わせるわけにはいかないからだ。
「だがあの金額は……」
「親爺、そんなこと言ったら、贔屓してるって言われ兼ねないですよ」
「誰が言うんだ? 贔屓されるほどの働きぶりを、お前は見せているんだ。逆に言う奴の顔が見てみたいものだな」
菱本の言葉に雪成は苦笑を浮かべた。怖い男だと。菱本の目が黒いうちは、直接的には雪成へ何かする者はいない。それほどの度胸のある者などいないはずだからだ。とは言っても、〝陰〟でどう動くかは分からないが。
菱本が雪成を特別扱いをしていると感じている連中は組織内には結構いて、面白くないと感じている者は多いだろう。それに〝オメガ〟であることが加われば尚更だ。そのため雪成自身も気をつけなければならなかった。
小一時間ほど話して菱本と別れた雪成は、若中の松山を誘って飲みに向かっていた。その車中はとても賑やかなものになっている。
「新堂さんと久しぶりに飲みに行けるなんて、嬉しすぎます。兄貴らともご無沙汰ですし」
助手席でテンション高くなっている松山に、運転している麻野も同調して愉しそうにしている。
たまには息抜きも必要だ。すっかり夜の帳が降りた都内の景色を眺めながら、雪成は今夜は酔いたい気分になっていた。
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