極道オメガと魂の番~抗えない発情~

那野ユーリ

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※秘密の関係

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 噎せ返るような濃密な空気の中で、肉体同士が激しくぶつかり合う音と、荒い呼吸、そして粘着質な音が狭い一室に満ちている。
 男が男を組み敷き、それは暴力的にも映る激しい責め立てだが、受け身の男はたまらないといった愉悦の声を上げていた。
「ぁ……あ……いい……気持ちいい……」
 新堂雪成しんどうゆきなりは、自分の下で喘ぐ男に舌なめずりをして、満足気に眺めながら更に腰を打ちつけていく。
「あぁ……新堂……いぃ」
「おら、弛んでるぞ。もっとしっかり締めろ」
 雪成は男の引き締まった臀を平手で軽くはたく。すると雪成の要求通りに、自身の昂りをキュッと締め付けてきた。激しい抽挿に、目一杯に拡げられた小さな孔だが、それでも健気に雪成の肉棒に絡みついて応えている。
「新堂……もう……いく」
「あぁ、俺ももういくから、いけ」
 一際大きく腰をグラインドさせ、奥へ容赦なく突き上げる雪成の腰使いに、先に果てたのは受け身の男であった。
「あぁぁ! ……っ」
 雪成もその後直ぐに射精をし、快感に身をぶるりと震わせた。
 臀を高く上げ、四つん這いになっていた男は力尽きたように、そのままベッドへと沈む。その拍子で抜けた自身の性器に手を伸ばした雪成は、コンドームを取り外すと、先を縛ってゴミ箱へと投げ入れた。
「なぁ……新堂」
 ベッドから降りた雪成に声がかかり、気だるげに声の主へと振り向く。その美貌は見慣れている男でも息を呑み、見惚れてしまうものであった。纏う空気さえも艶やかなものがある。
 雪成の「なんだ?」の声で、男がようやく我に返るほどだ。
「あ……いやさ、終わって直ぐにシャワーじゃなくて、もっと、こうピロトークをだな、するべきじゃないか?」
「河東……お前、俺と睦言なんか交わしたいのか? 気色悪い」
 雪成はオーバーに身震いをし、冷ややかな目を男……河東かわとうへと据える。
 河東はその視線を受け、苦笑を浮かべながら雪成の背中へと視線を移していった。
「気色悪いって、酷いこと言うなぁ。〝観音菩薩〟を背負ってる人間が吐く言葉とは思えないね」
「ヤクザに何を期待してる」
 雪成はバスローブを羽織って、背中に彫られた見事な観音菩薩を隠した。そして「なぁ、警視正様」と河東へと顔を近づけた雪成は、不敵な笑みを浮かべる。
「警視正様はアルファでキャリア。お前に憧れを持つ部下も多くいる。そんなお前がオメガに、しかもヤクザの男に抱かれているなんてな。とんだスキャンダルものだな」
 雪成は更に笑みを深くしながら河東へと切り込む。だが雪成も実際に脅しているわけではない。こうして河東をからかってみたり、また逆にからかわれたりと、二人の関係は危ういものだが、お互いにセックスフレンドとして上手く付き合っている。
 アルファのくせに河東は抱かれたい。オメガなのに雪成はこの二十九年、一度も発情ヒートを起こしたことがないこともあり、抱かれるのではなくて、アルファを抱くことに固執している。そんな二人が情意じょうい投合をして今の関係があるのだ。
「お前との関係を続けてもう二年が経つんだ。その嫌味ったらしいセリフも何度聞かされたか」
「二年もよくバレずに続いてるもんだな……。まぁ河東の変装のクオリティが上がってるのもあるけど」
 雪成は、脱ぎ散らかった変装用の衣服やウイッグを見るや、愉快そうに笑う。
「今夜のテーマは秋葉原に通って数年の青年だ」
 瓶底風メガネとボサボサ頭のウイッグに、リュックやらと、持ち物も細かいこだわりがあるようだ。変装だけではなくて、お互いに会う場所も必ず変えている。徹底しないと、万が一見つかればお互いに先はないからだ。
「お前のイメージも相当偏ってるな……」
 雪成は呆れて、長いため息を聞かせると、シャワールームへと向かっていく。その後ろで河東が「偏ってるのか……?」とブツブツと言っているのを聞きながら、雪成はまた一人笑った。
 かなりの美男でキャリアなのに、少し残念な男だなと……。

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