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嵐のあと
《8》
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北山監督を目の辺りにして、拓海さんが気まずそうな表情を浮かべる。
監督も拓海さんを見て戸惑ったような顔をしている。
急に場の空気がビリッとする。
こんな展開になるとは思ってもみなかった。どうしよう。
「おー! 雨宮拓海!」
北山監督の隣にいた望月先生がいきなり拓海さんの背中を叩いた。
「『フラワームーンの願い』良かったぞ! 飲みに行くぞ」
ガバッと望月先生が拓海さんの肩を抱く。
「北山監督も一緒ですよ。今夜は僕に付き合ってもらいますから」
「あ、うん」
北山監督が渋々な感じで返事をした。
「僕はまだ仕事がありますので」
拓海さんが辞退しようとすると、望月先生が「あんたの為にお膳立てをした彼女の顔に泥を塗るのか?」と拓海さんに詰め寄ったから焦る。
「ちょっと、望月先生、変な事言いださないで下さい」
「本当の事だろう。全く羨ましい男だよ。こんなに想われていて」
望月先生が拓海さんの肩を叩いた。
「じゃあ、中島さん、こっちは俺に任せて」
そう言って望月先生が拓海さんと北山監督を連れて会場から出て行った。
望月先生の行動力にびっくり。まさか拓海さんと監督を連れて行っちゃうとは思わなかった。
拓海さんと監督、いろいろとわだかまりがあるみたいだけど、少しは解れるといいな。
深夜0時頃、マンションのインターホンが鳴った。こんな時間に誰かと思えば、モニターに映るのはスーツ姿の拓海さん。
玄関ドアを開けると、拓海さんにいきなり抱きしめられた。
拓海さんからはアルコールの匂いがする。望月先生と北山監督と本当に飲みに行ったんだ。
「拓海さん、大丈夫ですか?」
「うん。ちょっと休ませて」
「拓海さん、こっちにどうぞ」
拓海さんをソファまで連れて行き、座らせた。それからお水を渡すと、ゴクッと拓海さんが飲む。
よく見ると拓海さんの顔は赤い。かなりお酒を飲んで来たのかも。
「拓海さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫」
ははっと笑った拓海さんが普段よりも陽気な感じがする。
「奈々ちゃんも座って」
パンパンと拓海さんはソファを叩いた。
腰を下ろすと、拓海さんの頭が甘えるように私の肩の上に乗る。
「こうしていれば大丈夫。奈々ちゃんはいつもいい匂いがする」
「使っているシャンプーはごく普通のものですけど」
「好きな人の匂いはいい匂いなんだよ」
くんくんと拓海さんが私の首筋に鼻を押し付け始めた。
「ちょっと、拓海さん、くすぐったい」
「奈々ちゃん不足だったんだ。いきなり望月先生に飲みに連れて行かれて大変だったんだ。それに今日は大役も務めたし、甘えてもいいだろう?」
ぷっ。いつもしっかりしている拓海さんが子供みたい。
「はいはい。よく頑張りましたね」
「奈々ちゃん、頭なでなで」
「もうっ、仕方ないですね。拓海さん、今日はよく頑張りましたね。ステキでしたよ」
拓海さんの頭を撫でると嬉しそうに拓海さんが笑った。
その表情が可愛くて胸がキュンとする。
「奈々ちゃんに褒められるのが一番嬉しいよ。今日はありがとう。望月先生からいろいろ聞いたよ。北山監督が僕の父だって知って、会わせようとしてくれたんだろう?」
「……はい。招待客の中に監督の名前がありましたから」
「『フラワームーンの願い』も上映してくれてありがとう」
「いい作品だから多くの人の前で上映したかったんです。北山監督も見たがっていたし」
「よく佐伯リカコが許したな。彼女、あの映画を人目にさらすの嫌がっていたのに」
「もう引退したから自由にしていいと言われました」
「ちゃんと許可取ってあったんだ」
「当たり前です。細野監督のご遺族にも許可を取りましたよ」
「許可を取っていなかったのは脚本家だけか」
眼鏡の奥の瞳が少しだけ険しくなる。
まさかこれからお説教が始まるの?
監督も拓海さんを見て戸惑ったような顔をしている。
急に場の空気がビリッとする。
こんな展開になるとは思ってもみなかった。どうしよう。
「おー! 雨宮拓海!」
北山監督の隣にいた望月先生がいきなり拓海さんの背中を叩いた。
「『フラワームーンの願い』良かったぞ! 飲みに行くぞ」
ガバッと望月先生が拓海さんの肩を抱く。
「北山監督も一緒ですよ。今夜は僕に付き合ってもらいますから」
「あ、うん」
北山監督が渋々な感じで返事をした。
「僕はまだ仕事がありますので」
拓海さんが辞退しようとすると、望月先生が「あんたの為にお膳立てをした彼女の顔に泥を塗るのか?」と拓海さんに詰め寄ったから焦る。
「ちょっと、望月先生、変な事言いださないで下さい」
「本当の事だろう。全く羨ましい男だよ。こんなに想われていて」
望月先生が拓海さんの肩を叩いた。
「じゃあ、中島さん、こっちは俺に任せて」
そう言って望月先生が拓海さんと北山監督を連れて会場から出て行った。
望月先生の行動力にびっくり。まさか拓海さんと監督を連れて行っちゃうとは思わなかった。
拓海さんと監督、いろいろとわだかまりがあるみたいだけど、少しは解れるといいな。
深夜0時頃、マンションのインターホンが鳴った。こんな時間に誰かと思えば、モニターに映るのはスーツ姿の拓海さん。
玄関ドアを開けると、拓海さんにいきなり抱きしめられた。
拓海さんからはアルコールの匂いがする。望月先生と北山監督と本当に飲みに行ったんだ。
「拓海さん、大丈夫ですか?」
「うん。ちょっと休ませて」
「拓海さん、こっちにどうぞ」
拓海さんをソファまで連れて行き、座らせた。それからお水を渡すと、ゴクッと拓海さんが飲む。
よく見ると拓海さんの顔は赤い。かなりお酒を飲んで来たのかも。
「拓海さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫」
ははっと笑った拓海さんが普段よりも陽気な感じがする。
「奈々ちゃんも座って」
パンパンと拓海さんはソファを叩いた。
腰を下ろすと、拓海さんの頭が甘えるように私の肩の上に乗る。
「こうしていれば大丈夫。奈々ちゃんはいつもいい匂いがする」
「使っているシャンプーはごく普通のものですけど」
「好きな人の匂いはいい匂いなんだよ」
くんくんと拓海さんが私の首筋に鼻を押し付け始めた。
「ちょっと、拓海さん、くすぐったい」
「奈々ちゃん不足だったんだ。いきなり望月先生に飲みに連れて行かれて大変だったんだ。それに今日は大役も務めたし、甘えてもいいだろう?」
ぷっ。いつもしっかりしている拓海さんが子供みたい。
「はいはい。よく頑張りましたね」
「奈々ちゃん、頭なでなで」
「もうっ、仕方ないですね。拓海さん、今日はよく頑張りましたね。ステキでしたよ」
拓海さんの頭を撫でると嬉しそうに拓海さんが笑った。
その表情が可愛くて胸がキュンとする。
「奈々ちゃんに褒められるのが一番嬉しいよ。今日はありがとう。望月先生からいろいろ聞いたよ。北山監督が僕の父だって知って、会わせようとしてくれたんだろう?」
「……はい。招待客の中に監督の名前がありましたから」
「『フラワームーンの願い』も上映してくれてありがとう」
「いい作品だから多くの人の前で上映したかったんです。北山監督も見たがっていたし」
「よく佐伯リカコが許したな。彼女、あの映画を人目にさらすの嫌がっていたのに」
「もう引退したから自由にしていいと言われました」
「ちゃんと許可取ってあったんだ」
「当たり前です。細野監督のご遺族にも許可を取りましたよ」
「許可を取っていなかったのは脚本家だけか」
眼鏡の奥の瞳が少しだけ険しくなる。
まさかこれからお説教が始まるの?
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