雨宮課長に甘えたい

コハラ

文字の大きさ
上 下
160 / 179
嵐のあと

《2》

しおりを挟む
11月に入ると総務部は創立記念パーティーの準備で慌ただしくなった。特に拓海さんは普段の業務に加えて司会進行という重要な役をやる事になり、各部署との打ち合わせなどで忙しそう。

「中島さん、打ち合わせをしたいのですが、今、大丈夫ですか?」

忙しい拓海さんが庶務係までやって来て、私を呼んだ。
オフィスでの拓海さんは無表情でちょっと怖い。

私たちがつき合っている事はまだ内緒にしてある。内緒にしておいた方がいいと言ったのは拓海さん。

恋人のふりをする事は佐伯リカコの不倫の手助けをする事になっていたので、ごく一部の人からお叱りのメールを拓海さんは頂いているようだ。

つき合っている事を公表して私にもそんなメールが送られて来たりする事を拓海さんは物凄く心配している。

それぐらい私は平気なんだけど、でも、今は拓海さんの為にも余計な波風を立てない方がいいと思って内緒にする事にした。

「雨宮課長、大丈夫です」

眼鏡越しの目と合うと、つい表情が緩みそうになる。

昨日は日曜日で、一日中、拓海さんと一緒にいて幸せだった。

「会議室が空いていないので、カフェバーで」

拓海さんとカフェバーで打ち合わせなんて嬉しい。
スキップしたいのを我慢して、拓海さんの半歩後ろを歩いた。

12階のカフェバーからは日比谷公園が見下ろせる。
窓際のカウンター席で、紅葉した公園の景色を眺めながら幸せを感じる。

隣に拓海さんがいる。濃いグレーのスーツが素敵。
昨日は拓海さん家にお泊りして、今日のスーツは私が選ばせてもらった。

カッコイイな。拓海さん。

でへ。

「中島さん、仕事中だよ」

書類から視線を上げた拓海さんが叱るように言った。

「僕の話を聞いてる?」
「えっ」

やば。拓海さんが麗し過ぎて聞いていなかった。

「困った人だな」

拓海さんがため息をつき、ブレンドコーヒーに口をつけた。
たったそれだけの仕草に目を奪われる。拓海さんがする事は何でも優雅に見える。

「雨宮課長、すみません。こんな風に課長とカフェバーに来れた事が嬉しくて」
「そうですか。では、仕事の話に戻ります」

拓海さん、全然隙がない。
ちょっとぐらい甘い顔をしてくれてもいいのに。

「それで、宣伝部で聞いたけど、中島さんが宣伝部のコーナーの時に司会に立つの?」

久保田に頼んであった事だ。

創立記念パーティーで宣伝部一押しの作品を上映する事になっていて、そのコーナーを私が担当させてもらえる事になった。

「はい。宣伝部は今、来月公開の『ラストヒロイン』のプロモーションと、ロングランしている『今日子』で忙しいですから、私が作品紹介の時は司会に立ちます。雨宮課長の許可が必要でしたか?」

「今聞いたから大丈夫です。上映作品に変更はありませんか?」
「そこに記載されている通りです」

拓海さんがじっと私の顔を見る。
恋人の緩い表情ではなく、仕事中の真剣な表情で見つめられてドキッとする。

頬が熱い。

なんで拓海さん、黙ったまま見つめてくるの?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...