雨宮課長に甘えたい

コハラ

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嵐のあと

《1》

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突然の佐伯リカコの女優引退宣言は大きな話題となった。記者会見で彼女は引退する理由に妻子ある男と交際していた事を打ち明け、その事を隠す為に拓海さんに恋人のふりをお願いしていた事も話した。

記者たちは、妻子ある男とは誰なのかという質問攻めにしたが、佐伯リカコは最後まで名前は明かさなかった。そして男の妻に申し訳なかったと、みんなが見ている前で土下座した。そのシーンは衝撃的で、テレビのニュースも、ワイドショーもネットニュースも佐伯リカコの土下座シーンを取り上げていた。

拓海さんの所にもマスコミが押しかけ、佐伯リカコが誰とつき合っていたのか聞かれていたが、拓海さんも知らぬ存ぜぬで通した。

記者会見を開いた三日後、佐伯リカコはパリに旅立ち、マスコミは彼女に聞くチャンスを失ったよう。

そんな訳で、しばらく佐伯リカコの事で拓海さんの周りは騒がしかった。

今回の騒動で良かった事が一つだけあった。映画「今日子」が佐伯リカコの引退作となり脚光を浴びた事だった。不倫をした佐伯リカコに対して賛否両論はあったが、何だかんだ言って人気女優の最後の作品は注目を浴びた。「今日子」はロングラン上映が決まり、阿久津がご機嫌で、宣伝部が平和らしい。

望月先生もおかげで小説が売れていると喜んでいた。ご機嫌だった先生は私の頼みを聞いてくれた。

そのおかげで私はいい事を思いついた。

「中島さん、これって」

私の出した企画書に風見係長が困ったような息をつく。

「風見係長、お願いします。どうしてもこの企画を今度の創立記念パーティーでやりたいんです」

風見係長が頭をかく。

「うーん、雨宮課長に内緒っていうのがな。だって雨宮課長が司会進行をする訳だし。企画の全部を把握しとかないといけないだろ。それに宣伝部にも話を通さないとだし」

「宣伝部にはもう話はつけてあります。大丈夫です」
「中島ちゃん、何の悪だくみ?」

横で話を聞いていた栗原さんが興味深そうな顔をする。

「何ですか? 風見係長が渋るなんて面白そう」

まりえちゃんも乗って来た。

「僕たちまたどこかに飛ばされませんよね?」

無口な後藤さんまで入って来た。

企画書をみんなに見せると、「やりましょう」と風見係長以外が賛成をした。という訳で、創立記念パーティーまで残り十日。私のびっくり企画に向けて庶務係が動き出した。
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