149 / 179
心中未遂?
《6》
しおりを挟む
「中島さん、黙秘ですか?」
黙っていると久保田の視線が鋭くなる。
「黙っているのは、今は交際を表にしたくないという事ですね」
久保田のくせによくわかっている。
「お願い。久保田。聞かなかった事に」
手を合わせて久保田を拝む。
「中島さんよりは口が堅いですから。大丈夫です」
「ちょっと、私が口が軽いみたいな言い草」
「中島さんは軽いですよ。今日子さんが初恋だった事は言わないで欲しかったです。金曜日に会った時に望月先生に初恋は実らないって、傷口に塩を塗るみたいにさんざん言われたんですから」
望月先生なら言いそう。
「でも、言っておきますけど、今日子さんは初恋じゃないですから。本当の初恋は中島さんですから」
ハイボールに咽た。
「はあ? 何言ってんの?」
「中島さんって、鈍いですよね」
「冗談だよね?」
「冗談に取らないで下さい。僕は中島さんの事がずっと好きだったんです」
いつも頼りない久保田が急に男の顔をする。
「僕、五年も中島さんに片思いしているんですよ。少しはこっちを見て下さい。雨宮課長と出来ていたなんて聞いたら妬けます。嫉妬で今、苦しいです。心中未遂なんかどうでもよくなりました。僕にとっては雨宮課長と中島さんがつき合っている事の方が大事件です」
カウンターの上にドンっと音を立てて久保田がグラスを置いた。
「中島さん、酷い裏切りです」
「裏切りって何言ってんの。久保田は今日子さんが好きって言ってたじゃない」
「今日子さんを好きになったのはよく考えたら中島さんと重なる部分があったからです」
「私と今日子さん、全然タイプ違うけど」
「年上で、優しい所が似ています」
「私、優しくないよ」
「中島さんは優しいですよ。僕が煮詰まっていると声をかけてくれるし、カフェオレ買ってくれるし、困っていると手を差し伸べてくれる。阿久津からも守ってくれたし。それに仕事に対する真っすぐな所は尊敬できるし。この人、本当に映画が死ぬ程好きなんだなって、一緒にいて感じて、そういう所に惹かれるんです。中島さんはいつも僕の目標です。僕も中島さんのように仕事ができるようになりたいって思っています」
久保田、そんな風に慕ってくれていたんだ。
なんかくすぐったい。
「中島さん、僕にもチャンス下さい」
拓海さんの手より分厚い手にいきなり手を掴まれる。
「放して」
「放しません」
抵抗しても久保田の手はびくともしない。
久保田も男なんだ。力では敵わない。
困ったな……。
黙っていると久保田の視線が鋭くなる。
「黙っているのは、今は交際を表にしたくないという事ですね」
久保田のくせによくわかっている。
「お願い。久保田。聞かなかった事に」
手を合わせて久保田を拝む。
「中島さんよりは口が堅いですから。大丈夫です」
「ちょっと、私が口が軽いみたいな言い草」
「中島さんは軽いですよ。今日子さんが初恋だった事は言わないで欲しかったです。金曜日に会った時に望月先生に初恋は実らないって、傷口に塩を塗るみたいにさんざん言われたんですから」
望月先生なら言いそう。
「でも、言っておきますけど、今日子さんは初恋じゃないですから。本当の初恋は中島さんですから」
ハイボールに咽た。
「はあ? 何言ってんの?」
「中島さんって、鈍いですよね」
「冗談だよね?」
「冗談に取らないで下さい。僕は中島さんの事がずっと好きだったんです」
いつも頼りない久保田が急に男の顔をする。
「僕、五年も中島さんに片思いしているんですよ。少しはこっちを見て下さい。雨宮課長と出来ていたなんて聞いたら妬けます。嫉妬で今、苦しいです。心中未遂なんかどうでもよくなりました。僕にとっては雨宮課長と中島さんがつき合っている事の方が大事件です」
カウンターの上にドンっと音を立てて久保田がグラスを置いた。
「中島さん、酷い裏切りです」
「裏切りって何言ってんの。久保田は今日子さんが好きって言ってたじゃない」
「今日子さんを好きになったのはよく考えたら中島さんと重なる部分があったからです」
「私と今日子さん、全然タイプ違うけど」
「年上で、優しい所が似ています」
「私、優しくないよ」
「中島さんは優しいですよ。僕が煮詰まっていると声をかけてくれるし、カフェオレ買ってくれるし、困っていると手を差し伸べてくれる。阿久津からも守ってくれたし。それに仕事に対する真っすぐな所は尊敬できるし。この人、本当に映画が死ぬ程好きなんだなって、一緒にいて感じて、そういう所に惹かれるんです。中島さんはいつも僕の目標です。僕も中島さんのように仕事ができるようになりたいって思っています」
久保田、そんな風に慕ってくれていたんだ。
なんかくすぐったい。
「中島さん、僕にもチャンス下さい」
拓海さんの手より分厚い手にいきなり手を掴まれる。
「放して」
「放しません」
抵抗しても久保田の手はびくともしない。
久保田も男なんだ。力では敵わない。
困ったな……。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜
橘しづき
恋愛
服部舞香は弟と二人で暮らす二十五歳の看護師だ。両親は共に蒸発している。弟の進学費用のために働き、貧乏生活をしながら貯蓄を頑張っていた。 そんなある日、付き合っていた彼氏には二股掛けられていたことが判明し振られる。意気消沈しながら帰宅すれば、身に覚えのない借金を回収しにガラの悪い男たちが居座っていた。どうやら、蒸発した父親が借金を作ったらしかった。
その額、三千万。
到底払えそうにない額に、身を売ることを決意した途端、見知らぬ男が現れ借金の肩代わりを申し出る。
だがその男は、とんでもない仕事を舞香に提案してきて……
しっかりした期待の新人が来たと思えば、甘えたがりの犬に求婚された件
アバターも笑窪
恋愛
\甘えたイケメン×男前系お姉さんラブコメ/
ーーーーーーーーーーーー
今年三十歳を迎える羽多野 真咲は、深夜の自宅でべろべろに酔った部下を介抱していた。
二週間前に配属されたばかりの新しい部下、久世 航汰は、
「傾国」などとあだ名され、
周囲にトラブルを巻き起こして異動を繰り返してきた厄介者。
ところが、ふたを開けてみれば、久世は超がつくほどしっかりもので、
仕事はできて、真面目でさわやかで、しかもめちゃくちゃ顔がいい!
うまくやっていけそうと思った矢先、酒に酔い別人のように甘えた彼は、
醜態をさらした挙句、真咲に言う。
「すきです、すきすぎる……おれ、真咲さんと、けっこん、したい!」
トラブルメーカーを抱えて頭の痛い真咲と、真咲を溺愛する年下の部下。
真咲の下した決断は──
※ベリーズカフェ、小説家になろうにて掲載中の完結済み作品です。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる