雨宮課長に甘えたい

コハラ

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拓海さんの気持ち

《2》

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30階の客室に入るとラグジュアリーな空間が広がっていた。広い窓からは煌めくビル街が見え、ライトアップされたスカイツリーがくっきりと見える。

客室は寝室とリビングが別れたタイプのスイートルームのようで、いきなりの豪華な空間に恐縮する。

話をする為だけに取った部屋にしてはロマンティックすぎると思った時、拓海さんに抱きしめられた。

「……拓海さん!」

驚いて拓海さんを見上げると、悲し気な顔をしていた。

「別れるなんて許さない」

言葉は強いのに、声は弱々しい。

「窒息しそうな程、奈々ちゃんが好きなんだ。奈々ちゃんがいないとダメなんだ」

拓海さんの切羽詰まったような気持ちが伝わって来て、同じだと思った。

「私も。拓海さんがいないとダメ。拓海さんと別れるなんて考えられない。でも、拓海さんが佐伯リカコに呼ばれて行くのをもう見たくない。私、嫉妬で苦しいの。拓海さんに嫌な言葉ばかりぶつけちゃう。だから、別れ」

言葉の先を吸い取るように唇が重なる。
強引で、荒々しくて拓海さんらしくないキスに胸が締め付けられる。

「いや!」

キスで誤魔化そうする拓海さんが嫌。

「いや、やめて!」

拓海さんを突き飛ばすと、信じられない物を見るような顔をされた。

「拓海さんのキスは好きだけど、今のはひどい。キスで誤魔化そうとするなんて」

喉の奥に熱い感情の塊がこみ上げてくる。
泣いたら感情的になる。ちゃんと話せなくなる。そう思うのに涙が溢れる。

大好きな拓海さんといるのに、悲しくて、苦しくて、やるせない。
なんでこんな事になってしまったんだろう。

佐伯リカコの名前を聞く前は幸せだったのに。

「拓海さん、私苦しいの。拓海さんに愛されている自信がないの。佐伯リカコに負けている気がするの。だから揺れるの。嫉妬するの。私、物凄く面倒くさくて、嫌な女なの」

疲れたようなため息を拓海さんがついた。
拓海さんを疲労させてしまっているんだ。

こんな私に、きっと失望したよね。

「奈々ちゃん、ごめん。奈々ちゃんから別れを切り出されて動揺のあまり俺は手段を間違えた。ちゃんと話そう」

拓海さんは私の手を取ると、ソファまで連れて行ってくれた。

「座って」

拓海さんに言われて、白い大きな革ソファに腰かける。

それから拓海さんが「俺も奈々ちゃんも少し冷静になった方がいいね」と言って、コーヒーを淹れてくれた。

部屋中に広がるコーヒーの香りが昂った感情を少しだけ冷静にさせてくれる。

白いカップに入ったコーヒーをゆっくり飲むと、私の正面に座った拓海さんが何かを思い出したように笑った。
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