雨宮課長に甘えたい

コハラ

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お料理教室

《19》

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「どうしたの? 感情的になっていて奈々ちゃんらしくない」

眼鏡越しの瞳が心配するようにこっちを見る。
優しい拓海さんに腹が立つ。

そんなに優しいから佐伯リカコにもつけ込まれるのよ。
拓海さんを責め続けた酷い相手なのに、なんで恋人のふりなんて引き受けるの。

「私らしくない? そうさせているのは拓海さんのせいです。拓海さん、いえ、雨宮課長に映画館でハンカチを貸してもらった時から私はいつもの私じゃなくなったんです。こうなったのは雨宮課長のせいです!」

こんなのただの八つ当たりで、滅茶苦茶な事を言っているのはわかる。でも、不安な気持ちが溢れて我慢していたものが飛び出る。
 
「堂々と休日に会えないのも嫌だし、人目を気にしてこそこそするのも嫌だし、会社でも個人的な話はできないし、それに、佐伯リカコと雨宮課長が結婚していたのを知っているから、やっぱり自信ないし。何かの拍子で2人が元のサヤに収まるかもしれないし……」

いつか佐伯リカコに拓海さんが取られてしまうのではないかという不安がずっとあった。

「栗原さんから拓海さんと佐伯リカコの結婚生活を少し聞いたんです。優真君が病気になったのは拓海さんのせいだって佐伯リカコに責められたそうですね。優真君のお葬式でも怒りをぶつけられたそうですね。きっと拓海さん、彼女の言葉に傷つきましたよね。拓海さんに酷い言葉をぶつけた相手なのに、どうして彼女の頼みを断らなかったんですか? なんでタクシーで送ってあげたりするんですか? どうして彼女に優しくするんですか? 私、不安です。拓海さんは本当はまだ……佐伯リカコに気持ちがある気がして」

「さっきも言ったが、彼女とは完全に終わっている。俺が好きなのは奈々ちゃんなんだ。わかって欲しい」

「じゃあ、どうして彼女との関係を続けるの? もういいじゃないですか。不倫が原因で佐伯リカコが芸能界から追放されようが関係ないって知らんぷりすれば」

「それは……」

困ったように拓海さんが言葉を詰まらせる。

「ほら、やっぱり。佐伯リカコを切れないんだ。拓海さん、映画のフィルムの事がなくても、佐伯リカコに恋人のふりを頼まれていたら、引き受けたんじゃないんですか?」

こんな意地悪な事、言いたくなかったけど、拓海さんを見ているとそんな気がする。私を守る為じゃなく、本当は佐伯リカコを守る為に引き受けたんだと勘繰ってしまう。

拓海さんが眉を顰め、辛そうに息をつく。

私と佐伯リカコの間で辛そうにしている拓海さんを見るのが苦しい。

私が身を引いたら拓海さんを楽にしてあげられるのかな。

拓海さんの事を思ったらその方がいいのかな。

拓海さんを苦しめたくない。

だったら……

「拓海さん、私たち別れましょう」
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