雨宮課長に甘えたい

お料理教室

《14》

楽しいランチも終わり、まりえちゃんは彼との約束があるからと、帰り支度を始める。

「ところで中島さんと雨宮課長って……」

玄関で帰りの挨拶をしていると、まりえちゃんが急に真剣な顔をした。
じっと私たちを見つめる瞳が少し怖い。

「飯島さん、どうしたんだい？」

隣に立つ拓海さんが聞く。

「なんかいい雰囲気だなと思って」

いい雰囲気という言葉に笑みが浮かぶ。

「それはどうも」

照れたように拓海さんが言った。

「課長、二股はダメですよ」

釘をさすようにまりえちゃんが言った。

二股……。

つまりそれは佐伯リカコと私のって事？

「中島さん、気をつけて下さい。雨宮課長は中島さんを狙っています」

まりえちゃんの言葉に頬が熱くなる。

「飯島さん、何言ってんだ。ごめん。中島さん」

拓海さんが少し焦ったようにこっちを見る。
そんな私たちを見ていた栗原さんが急に笑い出した。

「まりえちゃん、変な事言っていないで、行くよ」

栗原さんに促されてまりえちゃんがおかずの入った大きな紙袋を持って玄関を出て行った。

駅まで栗原さんが送って行くようだ。

玄関で2人きりになると拓海さんが苦笑いをする。

「飯島さん、俺の下心を見抜いていたな。恐ろしい」
「雨宮課長、私に下心あるんですか？」
「それはもちろん。ありありだよ」
「きゃあ、気をつけなきゃ。課長に襲われちゃう」

拓海さんとふざけていると、みつくんとこうくんに「お姉ちゃん、たっくんに襲われるの？」なんて聞かれて顔が熱くなった。

みっくんとこうくんが後で、栗原さんに「たっくんがお姉ちゃんを襲おうとしていた」なんて報告している所を想像したら、ちょっと気まずい。

同じ事を思ったのか、拓海さんがしゃがんでみっくんとこうくんの目を見ながら、「ママには言うなよ」と言い聞かせていた。

そんな拓海さんが可愛い。