雨宮課長に甘えたい

コハラ

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佐伯リカコの本心

《2》

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「えーと」

困ったように拓海さんを見ると、私の人差し指だけではなく、手の甲全体を包むように拓海さんの手のひらが重なった。私よりも体温の高い、大きな拓海さんの手に包まれて、まるで抱きしめられているみたい。

胸の奥が甘く疼く。
拓海さんに触れてもらって嬉しい。

だけど、久保田の前で恥ずかしい。
いくらテーブルの下で見えないとは言え、拓海さんの行動は大胆過ぎる。

「中島さん、顔が赤いよ」

目が合うと拓海さんがクスッて笑う。

もう、拓海さんのいじわる。
誰のせいで赤くなっていると思っているの。

「久保田くん、中島さんにお水取って来てくれる?」

拓海さんがお願いすると、久保田は「はい」と言って、お座敷を出ていく。

テーブルの下ではまだ私たちの指は絡み合っている。
ギュッと恋人つなぎにしたまま拓海さんが放してくれない。

触れていると抱き着きたくなるから困る。

拓海さんに触れたのは私の家でミートソースを作ってもらった時以来。
あれから拓海さんの周りにはパパラッチがいて、退社後も、休日も会う事は出来なかった。

会社では疋田さんたち総務課女子社員の監視の目が厳しくて拓海さんに近づく事さえできない。

今夜は久しぶりに拓海さんの近くにいられる。

「ああ、まずいな」

拓海さんが吐息のような声で口にした。

「雨宮課長、どうされましたか?」
「二人きりになりたいと思って」

耳元で囁かれて心臓がぎゅっと掴まれた。
こちらを見下ろす眼鏡越しの瞳からは色気が溢れている。

「中島さん、どうしようか」

甘えるような瞳で見つめられキュンとしてしまう。

「これから美味しいふぐ料理が食べられますよ」
「そうだね。ふぐも食べたいね。でも、一番食べたいのは」

テーブルの下の拓海さんの手が私が欲しいと言うように、私の手を握る手にぎゅっと力を入れる。

心臓がドキンッと大きく脈打った。

「ダメかな?」

拓海さんの甘えるような声に顔が赤面していくのがわかる。

「……が、我慢して下さい」

ドキドキし過ぎて拓海さんの顔が見られない。

すぐそばで拓海さんのクスリと笑う声がした。
きっと、動揺する私を見て楽しんでいるんだ。

やっぱり拓海さんは意地悪だ。

今夜は上司と部下の距離でいなきゃいけないのに、こんな事されたら拓海さんと本当に二人だけでどこかに行きたくなる。

「遅くなりました!」

お座敷に華やかな声が響いた。
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