雨宮課長に甘えたい

雨宮課長のミートソース

《3》

「奈々ちゃんは休んでいなさいと言ってるのに」

キッチンに立つ課長の隣に立つと、そう言われた。
上着を脱いだ課長はワイシャツの袖をまくり上げた姿になっていた。

「だって腕時計、外してあげないといけないでしょ」
「やば。今、キュンときた。奈々ちゃん可愛すぎ」

課長が頭を撫でてくれる。

「それはどうも。課長、右手出して」
「はいはい。お願いします」

課長の右手首からスイスブランドの銀色の腕時計を外した。

「素敵な腕時計ですね」
「就職した時にお袋がくれたんだ」
「お母様からのプレゼントだったんですか」
「最初はつけられなかったよ。ハイブランド過ぎて。新入社員が百万の腕時計なんて生意気だろ？」
「百万！　やっぱり高価な時計だったんですね」
「うちのお袋、金銭感覚がちょっとおかしいんだ。銀座のクラブで社長相手に商売していたからだと思うが」

そう言いながら、課長が手際よく玉ねぎを刻み始める。
包丁を持つ課長の手が綺麗で、じっと見てしまう。

あっという間に玉ねぎを刻んで、その後はニンジンを刻んで、マッシュルームを刻んで、セロリを刻んだ。
私だったら一時間ぐらいかかりそうだけど、課長はほんの10分で下ごしらえを終えた。課長の家事能力の高さに感心する。私も課長に何か作れるように頑張らなきゃ。